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重度の知的障害がある息子に生活の場をつくりたいと、NPO法人のクリエイティブサポートレッツ(浜松市)を立ち上げた久保田翠・理事長(57)。半生をたどる連載の最終回は、地域や人との交流について。そこから自立の糸口も見えてくるという。

◇   ◇   ◇

 重度の知的障害のある人をありのままに受け入れる――。「たけし文化センター」の理念をとりいれた福祉施設を2010年に浜松市郊外に開設。2018年には同市の中心部にも新施設を立ち上げた。
街中に出たのは、このままじゃいけないという危機感からです。世の中には共生社会といった言葉があふれていますが、彼らに接したことがある人は本当に少ない。知らないから目を背ける。言葉では伝わらないので、我々から出て行って知ってもらおうと考えました。

街中では多くの発見があります。家電が大好きな人が、電気屋さんに何時間も居座り、オーディオアンプを前に「これがほしい」とねだり続けました。付き添っていたスタッフが店員に聞くと8万円もします。手持ちは70円しかありません。

店員から「高額なので売り切れはないと思います。後日ご来店されても大丈夫ですよ」と丁寧に対応されると、その人は「そうですか」と言って、さっさと帰りました。街中では店員と客という関係が確立しており、障害者が訪れてもこうしたコミュニケーションが成り立つことに驚きました。

2017年度には、芸術分野で優れた業績をあげた人を対象とする「文化庁芸術選奨」の新人賞に選ばれた。
知的障害者の存在を知ってもらい、イベントなどを通して社会を揺さぶる。そんな活動が「芸術」として認められたのはありがたいことです。

ただ重度障害のある息子を持つ私たち家族にとって、ここにいたる経緯は生き延びるための一つの対処法だったようにも思います。

ずっとそばで支えてくれた夫は今年3月に病気で他界しました。仕事を続けながら、息子の壮(たけし)を献身的に介助し、最期まで彼のことを思っていました。今の社会では家族にかかる負担が大きすぎます。私の目標は壮が自立することであり、そして壮の自立は私の自立でもあると考えています。

 浜松市中心部の新施設には宿泊・住居機能もある。壮さんは10月から、そこで暮らし始めた。
知的障害者は親が亡くなった後のことを考えなければならないといわれます。果たしてそうでしょうか。

先日、壮が髪を金色に染めました。文化センターに泊まりに来た人やスタッフが「カッコイイんじゃないの?」というノリでやりました。最初は本人の意志なのかと戸惑いました。

けれども23歳になった壮がどう生きるべきか、何が幸せかは、親である私にも分かりませんし、いつまでも親が決めていいわけがありません。金髪にしたのは、友人たちが意見を出し合い合意形成した結果です。壮にとって新たな関係を開くきっかけになると思っています。

それは障害のない人でも同じでしょう。人は様々な人から影響を受けて自分を形成しています。そこに厚みがあればあるほど、豊かな人生になるのではないでしょうか。

(安芸悟)

不屈の精神に拍手と涙 ラグビーW杯「勇気もらった」


力を振り絞ったが、届かなかった。20日に行われたラグビーワールドカップ(W杯)準々決勝で、日本代表は南アフリカに完敗し、初の4強入りを逃した。快進撃で何度も歓喜の渦を巻き起こしてきた桜の戦士たち。「一丸となった姿に感動した」「勇気をもらった」。スタジアムで、パブリックビューイング(PV)で、選手の地元で――。ファンらから惜しみない拍手が送られた。

●スタンド

南アの選手がボールを大きく外に蹴り出し、迎えた「ノーサイド」。1カ月に及ぶ日本の挑戦が幕を閉じた。選手たちは円陣を組んで奮闘をたたえ合う。4万8千人超で埋まった東京スタジアム(東京都調布市)のスタンドで、ファンは最後まで声をからし、拍手と涙で健闘をねぎらった。

「日本の勝利への気迫は相手にもプレッシャーになった。この経験は必ず次につながる」。家族5人で観戦した埼玉県所沢市の会社員、平山力さん(60)は感慨深げに話した。

今大会でラグビー好きになったという静岡県沼津市の佐藤杏奈さん(28)は「チーム一丸で戦う姿に感動した。会場のファン同士も和やかでラグビーの文化は素晴らしい」と笑顔を見せた。

外国人ファンも賛辞を送った。南アから母国の応援に駆けつけたポール・サンデルソンさん(43)は「速く情熱的なプレーは素晴らしい。日本にこれだけラグビーを愛するファンがいて驚き。もはや強豪国」と話した。

●花園

高校ラグビーの聖地、花園ラグビー場(大阪府東大阪市)でも、PV会場で大勢のファンが大型スクリーンを食い入るように見つめた。

妻とともに観戦に訪れた神戸市灘区の会社員、宗和司さん(52)は日本の戦いぶりに「胸が熱くなった」という。4年後を見据え、「さらなる高みを目指してほしい」

20日は、大会招致にも尽力した元日本代表監督、故平尾誠二氏(享年53)の命日。現役時代から平尾氏のファンだったという大阪市の会社員、小林佳典さん(59)は「日本開催は平尾さんの功績でもある。代表の活躍を本当に喜び、天国から力を送ってくれたはずだ」と思いをはせた。

●選手地元

鹿児島市の飲食店では、この日も先発したセンター・中村亮土選手(28)の母校、鹿児島実業高校ラグビー部のOBら約30人が試合を見守った。

高校時代、コーチとして指導した同部の富田昌浩監督(42)は「すべてを出し切った試合だった。(中村選手に)ありがとう、と伝えたい」。妥協を許さず練習に向き合う姿勢は今も印象に残る。今大会も「必死のタックルで相手の猛攻を抑え、チームを支え続けた」と教え子をねぎらった。

今大会、世界に快足を見せつけたウイングの福岡堅樹選手(27)。小中学時代に通った学習塾で担任だった神田岳彦さん(49)は、福岡市内のPV会場で観戦した。「たくさんの勇気や感動をもらった。心からお疲れさま」。福岡選手は、現役引退後に医師を目指すことを公言している。「学業とスポーツの両立に悩む子どもたちに夢や希望を与えてくれた」と目を細めた。

知的障がい あるがままに(3)

重度の知的障害がある息子に生活の場をつくりたいと、NPO法人のクリエイティブサポートレッツ(浜松市)を立ち上げた久保田翠・理事長(57)。半生をたどる連載の第3回では「問題行動」といわれる行為について、その意味を問う。

◇   ◇   ◇

 アートか福祉かの板挟みを脱する転機となったのが、2008年に始めた「たけし文化センター」というイベント空間だ。アートとは到底呼べなくても、知的障害のある子どもたちに好きなことを自由にしてもらう。そこにこそ創造性があると考えた。
息子の壮(たけし)は全介助といわれる最重度の知的障害者で、食事も着替えも満足にできません。障害者によるアート活動を展開してきましたが、壮のように絵も描けない人はダメなのかという疑問がわきました。

壮はプラスチック製の容器に石を入れて、一日中ガチャガチャと音を出し続けます。小学1年生から高校3年生まで特別支援学校に通っていたとき、トイレや着替えの訓練を受けましたが、何も達成できませんでした。その間、唯一手放さなかったのが、この石遊びです。

通常なら問題行動とされる石遊びを、私は取り上げることはできませんでした。なぜなら、それこそが彼の最も大切にしていることであり、彼の人格を最も表している行為だからです。たけし文化センターでは、こうした取るに足らない行為も本人の「表現」と捉え、壮個人を全肯定する試みでした。

 たけし文化センターでは障害の有無にかかわらず、誰もが共存できる空間を目指した。
なかには水が大好きで、いつもビシャビシャのぬれネズミの子もいます。大雨が降ったら喜んで外に出て行きます。お母さんもやめさせたいけれど、やめない。じゃあ逆に、一体どこが問題で、誰が彼の行動をやめさせたいのか考えると、実は何が問題なのか分からない。誰もやめさせたいとは思っていない。

だったら着替えをたくさん持ってきて、水浴びをしたらすぐに着替えさせる。そうすれば彼の問題行動は問題行動でなくなるのです。

壮や子どもたちを自由にさせると、テーブルの上のものがなぎ払われることがあります。何度言っても聞きません。逆転の発想で、手の届かないところにものを置くことにしました。テーブルや椅子の脚を壮らの身長より高くすれば、皆が同じ空間にいることができます。いっそのことカフェにしていろんな人を呼ぼうと考えて、「高所カフェ」を開催しました。

子どもと一緒に散歩するワークショップを開いたこともあります。10メートルほどの道を20分も30分もかけて歩きます。ほとんど動かないときもあれば、何かをじーっと見つめていることもあります。奇妙な散歩ですが、参加した人は「こんなに道をゆっくり歩いたことはなかった」と感動します。

人は「あれができる」「これができない」といった能力で判断されがちです。障害者は時として「この人は自閉症です」とか「こういう特徴があり、こんな問題があります」と語られます。しかし、その人の存在を全肯定することから始めれば、既存の価値観に対する様々な問いが生まれ、社会を揺さぶることができると思いました。

(安芸悟)

W杯日本招致に尽力 「代表の土台作った」


ラグビーワールドカップ(W杯)で日本代表が初の準々決勝に臨む20日は、大会のけん引役を期待されながら2016年に53歳でこの世を去った平尾誠二氏(元日本代表主将、監督)の命日でもある。日本の大躍進に沸く今回のW杯。平尾さん、見ていますか――。親しかった友人らは感慨とともに「ミスターラグビー」が待ち望んだ大会を見つめている。

「理不尽や不条理なこともポジティブにとらえる人。突然の末期がんにさえ、『まあ、しゃあないですわ』と動じずに言った彼の姿が忘れられない」。京都大iPS細胞研究所所長、山中伸弥教授(57)は語る。

平尾氏は京都市出身で伏見工業高校を全国優勝に導き、同志社大、英国留学を経て神戸製鋼へ。大学時代ラグビーに励んだ山中教授にとっては長年憧れた存在だった。共著「友情」(講談社)などによると、同い年の2人は雑誌の対談を通じて10年に知り合い、急速に親交を深めた。

平尾氏は当時、現役時代に日本選手権7連覇を果たした神鋼のゼネラルマネジャー(GM)兼総監督。「マネジメントをする上で苦労やトラブルを乗り越えた経験を聞き、よく勇気づけられた」(山中教授)

15年秋、平尾氏のがんが発覚。山中教授も治療法を探し奔走した。闘病生活のさなかでも、日本ラグビー界のことを「本当に真剣に考えていた」という。「日本独自の勤勉さ、器用さ、高い技術力など優位性を出していくべきだと言っていた。代表の活躍を心から喜んでいると思う」

平尾氏はW杯の日本開催にも力を注いだ。2011年大会の招致活動に関わり、日本開催が決定した後の2012年には大会組織委員会理事に。待ち望んだ自国開催を引っ張る1人になるはずだった。

「彼の後押しがなければ動きだそうという気にならなかった」。日本代表で平尾氏とともにプレーした新日鉄釜石ラグビー部のOBで、今回大会の岩手県釜石市での試合開催に尽力した石山次郎さん(62)は感謝の言葉を口にする。

東日本大震災直後の2011年7月、神戸市でのラグビー関連イベント。この場に平尾氏から招かれ、やはり新日鉄釜石OBの松尾雄治さん(65)が釜石でのW杯開催を目指すと表明。「こんな時だからこそやるべきだ」「僕も必ず見に行きます」。平尾氏が応じると、観客から大歓声が巻き起こった。この手応えが活動の原動力になったという。

平尾氏は日本代表監督として、初めて外国出身選手を主将に任命。強豪国のテクニックも積極的に取り入れた。「今の代表の土台をつくった人」と同志社大と神鋼でチームメートだった武藤規夫さん(55)は語る。

地域のスポーツ振興を図るNPO法人「SCIX(シックス)」を2000年に神戸市に設立。平尾氏が理事長、武藤さんらがラグビーコーチを務め、100年続くチームを夢見て中学生らの指導に励んできた。

「桜のジャージーを着る子どもがこんなにいる光景は考えられなかった。平尾さんもうれしいはず」。20日は平尾氏が通った神戸市内のスポーツバーで観戦する。「命日に大一番なんて、『ミスターラグビー』らしい」

全国の小中高校などで2018年度に認知されたいじめは過去最多の54万3933件だったことが17日、文部科学省の問題行動・不登校調査で分かった。このうち命の危険や不登校につながった疑いのある「重大事態」は前年度を128件上回る602件で、いじめ防止対策推進法の施行で集計が始まった2013年度以来最多。


いじめの認知件数は前年度比31.3%(12万9555件)増。増加幅は中学21.5%、高校19.7%に対し小学校が34.3%と特に大きく、10万8千件余り増えた。

同省は「学校がいじめの初期段階から対応するようになっている」と評価。2017年度から、けんかやふざけ合いも状況次第でいじめとするよう求めていることの影響もあるとみる。重大事態の増加に関しては「早めの認知に加え、学校が被害の申し立てを積極的に受け入れる傾向が強まった可能性もある」としている。

内容別(複数回答)では、からかいや悪口などが62.7%で最多。インターネットやSNS(交流サイト)によるひぼう・中傷などは3.0%だったが高校に限ると19.1%を占める。こうした「ネットいじめ」の件数は全体で3割増えた。

重大事態は小学校188件、中学校288件、高校122件、特別支援学校4件。7割で被害者が不登校になった。自殺した児童生徒でいじめの問題があったのは9人。

調査対象の学校の18.2%で認知件数がゼロだった。都道府県別に見た1千人当たりのいじめ認知件数は宮崎の101.3件から佐賀の9.7件まで10倍強の差がある。

宮崎県教育委員会は子どもへのアンケートや教員研修を通じて把握に努め、認知件数が少ない学校には再検証も求める。こうした活動が不十分な自治体がありそうだ。

小中高校で起きた暴力行為は15.2%増の7万2940件で過去最多。ほぼ半数を占める小学校の増加幅が29.0%と大きく、中学の2.2%、高校の12.3%を上回る。文科省は軽い事案の積極計上などが要因で、「荒れが深刻化しているわけではない」とみる。

学校から報告のあった児童生徒の自殺は332人で、前年度の250人から大幅増。警察庁の調べでは390人で、学校が把握していない自殺事例が依然ある。

不登校(30日以上欠席)の小中学生は14.2%増の16万4528人で、6年連続で増加。小学生全体の0.7%、中学生の3.7%を占める。小中学生1千人当たりでは16.9人で、1998年度以降最多。高校生の不登校は6.2%増の5万2723人で、4年ぶりに5万人台となった。

知的障がい あるがままに(2)

重度の知的障害がある息子に生活の場をつくりたいと、NPO法人のクリエイティブサポートレッツ(浜松市)を立ち上げた久保田翠・理事長(57)。半生をたどる連載の第2回は「一番大変だった」という草創期についてだ。

◇   ◇   ◇

 横浜市で生まれ、静岡市で育った。建築士の父親と画家の母親は「人と同じ事をするな」という教育方針だった。
アートや建築にはもともとなじみがありました。東京の美術大学、大学院に通い建築や景観デザインを学びました。東京の街づくり会社に就職も決まりましたが、地方の街のあり方を東京で考えることに疑問を覚え、内定を辞退。故郷の静岡市に戻り、妹と一緒にデザイン事務所を立ち上げました。

1990年、28歳で結婚し、翌々年に第技劼猟構を出産。育児に追われるなかで、経営よりデザインの仕事に専念しようと、事務所は妹に任せて、浜松市で父親の設計事務所に入りました。そして1996年、重度の知的障害のある息子、壮(たけし)を生むことになります。

 壮さんが自由に生活できる場を求め、障害児を持つほかの母親たちとともに「クリエイティブサポートレッツ」を設立。まず取り組んだのは子どもたちにアート作品を創作してもらうことだった。
レッツはボランティア団体としてスタートしました。お母さんの一人が場所を提供してくださり、みんなで子どもたちを連れてきてワイワイやっていました。学校が終わった後にお母さん同士でぺちゃくちゃ喋って、子どもたちは建物の中を走り回る。そんな楽しい空間でした。

「レッツアート」と称して、アート講座を始めました。絵画や音楽、ダンスなど、近所のアーティストたちにお願いして、講師になってもらうのです。壁に絵を描いたり造形ともいえないヘンテコなオブジェを作ったりと、やりたい放題でした。障害のある子だけでなく、たとえば引きこもりの子なども好き勝手に出入りしていました。

 障害者の創作を評価する「エイブルアート」と呼ばれる活動に注力。2002年には地元の浜松市で講演会などのイベントを主催し、展覧会も開いた。
エイブルアートに積極的になるにつれて、興味を持ったアーティストたちが次々と集まってきました。一方でお母さんたちのなかには、成長した子どもをちゃんと預かってほしいという方もいて、アートか福祉かの板挟みになりました。手伝ってくれる人がいないときは全部自分でやりました。

壮はまだ小学校に入ったばかりで体が小さく、会話もできませんから、アート講座には出られません。車の中に体を縛り付け、カーステレオをかけたまま、1時間も2時間も遊ばせていました。そのうち自分の排せつ物をまき散らし、車の中が便まみれになったこともあります。

他のお母さんから「久保田さん、何やってんの? 子どものために始めたのに、やってること違うでしょ」と問い詰められました。今振り返れば、このときが一番大変でした。レッツを辞めようとも考えました。

それでも何とか続けようと、2004年にNPO法人にしてスタッフを雇いました。行政に助成金を申請しましたが通りません。唯一認めてくれたのが外資系企業のフィリップ・モリスとファイザーでした。「あなたたちの活動は価値があるが、行政は(申請を)受け取らないだろう。それが分かるから、応援することにした」と言われました。

(安芸悟氏)

人手不足深刻、遠い質向上

「全世代型社会保障改革」の目玉である幼児教育と保育の無償化が10月から始まった。消費税を10%に引き上げた財源を投じるが、一部の幼稚園や認可外保育施設で便乗値上げが疑われる事例がある。人手不足が深刻化するなかで保育の質をどう確保していくかという課題も重くのしかかる。



「負担は変わらないのでお願いします」。東京都内のある認可外保育施設は昨夏、無償化に関連した事実上の値上げを保護者に説明した。新たなプログラムを追加するのに費用がかかり、それを無償化分で賄うというのが理由だ。大半の保護者は便乗値上げを疑いつつも、負担増にならないならと納得したという。

幼児教育・保育の無償化は原則3〜5歳は全世帯、0〜2歳は住民税非課税世帯が対象だ。年間で約8千億円を投じる。ただ家計に保育料の負担がかからなくなれば、保育所や幼稚園などの施設側は値上げしやすくなる。厚生労働省などは便乗値上げに注意を促す通知を出し実態把握を進めるが、どのようなケースが理由のない値上げと判断するのか線引きは難しい。保護者に負担がかからない無償化はばらまきになるリスクをはらむ。

政府は待機児童を2020年度末までにゼロにする目標を掲げる。保育所の新設など受け皿整備を進め、2019年4月の待機児童数は1.6万人と過去最少になったが、保育士不足は深刻だ。保育現場では「質」に関連した問題が起きている。

今年4月、東京・世田谷の認可保育園で散歩中の子どもが一時、いなくなった。関係者によると、保育士はいなくなったのに気づかぬまま保育園に戻り、子どもは警察が保護したのだという。保育士に余裕がなく、点呼をしていなかったのが原因とみられる。

これとは別の保育園を18年に辞めた20歳代の元保育士の女性は「臨月でも(保育所を休まずに)子どもを抱えている先輩を見て、一生はできないと思った」と話す。保育士の資格を持ちながらも、職場環境に不安を感じて保育現場から離れてしまう人は後を絶たない。

政府は2012年に決めた「税と社会保障の一体改革」で子育て支援を巡り、保育所整備など「量の拡充」と保育士の確保など「質の向上」に1兆円超の財源が必要とした。ところが、このうち3千億円分については恒久財源が見つからず毎年の予算編成の宿題になっている。

政府が10%以上の消費税引き上げの議論を封じたことで、追加の国民負担によって保育に充当できる新たな財源が出てくる可能性は低い。こうした制約下で子育て支援の拡充といった全世代型社会保障を実現していくには、高齢者に偏った給付を見直し、若い世代に回す財源を確保していくことが避けられない。

2019年に日本人の出生数は90万人を割り、過去最少になる公算が大きい。社会保障の支え手を増やすには、子どもを安心して産み育てられる環境づくりが急務だ。

奥田宏二が担当しました。

 2020年東京パラリンピックを機に、障害の有無にかかわらず認め合う「共生社会」がもてはやされている。だが重度の知的障害のある人たちへの偏見は根強い。NPO法人、クリエイティブサポートレッツ(浜松市)理事長の久保田翠さん(57)は彼らが自由に自分を表し、生活できる場をつくろうとしている。目指すのは、どんな障害もありのままに受け入れる社会だ。

2018年10月、浜松市の中心市街地に「たけし文化センター」という障害福祉施設を造りました。そこでは約30人の知的障害者が毎日を過ごしています。

ある人は階段をゆっくり上り下りし続けます。ある人は粘着テープをものに貼り付けてははがすことを繰り返しています。またある人は地面をたたいたり奇声を発したりしています。

こうした行為を、世間では「問題行動」とみなしてやめさせようとするでしょう。でもたけし文化センターでは、それらをすべて受け入れます。スタッフは和気あいあいと障害者に接し、彼らのユニークな言動に新鮮なまなざしを注いでいます。「なんか変わったことしてるぞ」と聞きつけた研究者やアーティストも訪れます。

世間で障害福祉施設はまだ迷惑施設と思われていますが、ここには一般の人が宿泊できるゲストハウスや、居住できるシェアハウスもあり、障害の有無にかかわらず共存できる空間を目指しています。「障害や問題行動をそのまま肯定する」というのが私たちの活動理念です。

  建築事務所でデザイナーをしていた久保田さんが、現在の活動を始めるきっかけは、1996年に重度の知的障害のある息子、壮(たけし)さんを生んだことだった。
私は出産後も、デザイン関係の仕事を続けたいと思っていました。壮が幼い頃は社会福祉法人の保育園に通わせていましたが、卒園後は学童保育に預けようと役所に相談に行きました。

すると「それは無理」と一蹴されました。障害児の面倒は母親がみるのが当たり前だというのです。母親が働き続けたければ親族がかわりにみる。それも無理なら、遠くにある福祉施設に隔離するしかありません。

ほとんどの福祉施設は壮のような重い知的障害のある子どもの問題行動をやめさせ、矯正しようとします。世の中の仕組みにのっとってお金を稼ぎ、社会に貢献できるよう訓練します。

しかし、そんなことできっこありません。自分の意思を表現することすら困難なのですから。むしろ問題行動のなかに、その人の物事へのこだわり、やりたいことをやりきる熱意があります。それは「表現」とも言いがたいものですが、誰もが持つ自分自身を表す力であり、行為だと思います。

同じような障害児を持つお母さんたちと「自分たちで居場所をつくろう」と2000年に立ち上げたのがクリエイティブサポートレッツです。悩みながら全力で突っ走ってきました。

(安芸悟氏が担当します)






先月23日、国連本部で開かれた「気候行動サミット」に出席した16歳の少女の訴えは衝撃的でした。

〈「よくそんなことが言えますね」。開幕式で怒りに声を震わせたのは、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(16)だった。各国が「緊急性は理解している」と言いながら気候変動対策に背を向けた結果、次世代にツケを回していると首脳らを糾弾した〉

グレタさんは地球温暖化に危機感を持ち、世の大人が真剣に対策に取り組んでいないのではないかと、去年夏から、学校を休み、たったひとりでスウェーデンの国会議事堂の前に座って対策を取るように政治家たちに呼びかけてきました。

これは「学校ストライキ」と呼ばれ、最初はたったひとりの行動でしたが、瞬く間に世界に広がりました。国連でのサミットを前に先月20日には世界150カ国以上で約400万人の若者が一斉にデモ行進しました。日本でも集会やデモ行進が行われましたが欧米ほどではありませんでした。

学校を休んでまでのグレタさんの行動には賛否両論があります。欧州では概して好意的な受け止め方が多かったようですが、米国ではCNNなどが活動を客観的に紹介する一方、トランプ大統領に好意的なFOXニュースは「学校を休んでもいいのか」という批判の声を伝えました。日本でも否定的なコメントが少なくありませんでした。

しかし、このところ毎年のように欧州を襲う熱波を経験すれば、温暖化に対する危機感を持つのは当然のことでしょう。日本列島に近づいても台風の勢力が衰えないのは、日本周辺の海水温が高いからです。

□ ■ □

10代の若者は純粋です。グレタさんの思い詰めたような顔を見ると、彼女あるいは世界の多くの若者たちが危機感を募らせるまでに温暖化対策を怠ってきた我々大人たちの責任を感じます。

もしあなたのお子さんが、「温暖化対策を求めてデモに行く」と言い出したら、どうしますか。あなたが学校の先生だとしたら、教え子が「デモに行く」「ストライキをする」と言い出したとき、どんな対応をするのでしょうか。結局は大人が問われているのです。

それにしても、このところ世界では若い女性の活躍ぶりが目立ちます。香港で民主化運動の先頭に立つ周庭(アグネス・チョウ)さんは22歳。日本の文化に憧れ、独学で日本語を学びました。香港で会いましたが、その日本語能力には瞠目(どうもく)しました。

彼女が民主化運動に参加したのは10代半ばだったというのですから驚きです。香港の未来に危機意識を持っているのですが、香港行政府のバックには中国共産党の存在があります。これ以上の民主化を認めそうもない中で、果敢に戦い続ける姿には頭が下がります。

□ ■ □

さらにパキスタンのマララ・ユスフザイさんは、女性への教育を求めて過激派に命を狙われ、頭部に銃弾を受けました。それでも運動をやめることはなく、2014年には17歳でノーベル平和賞を受賞しました。

彼女たちの奮闘ぶりを見ると、「大人のあなたは何をしているんですか?」という問いが聞こえてくるような気がします。私たちは、若者たちの危機感をしっかり受け止めることができるのでしょうか。

 大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

羽田空港(東京・大田)周辺に2020年、自動運転や先端医療の関連施設が入る複合施設が開業する。空港の拡張事業で生じた跡地を活用し、デンソーなどが進出する。地元の大田区も同年夏、町工場やスタートアップの協業を後押しする施設を設ける。2020年春に羽田の国際便の発着回数が増えるなか、創業や先端技術を海外発信する拠点とする。

鹿島やJR東日本などが出資する羽田みらい開発(東京・大田)が開発主体となり、複合施設「羽田イノベーションシティ」を整備する。施設全体の敷地面積は約5.9ヘクタールで、商業施設や3000人規模を収容するコンサートホールなどが入る予定だ。総事業費は約540億円。

空港周辺は政府の国家戦略特区制度を活用し、規制を凍結して新技術の実証実験ができる措置の適用も検討されている。こうした動きを踏まえて、デンソーはイノベーションシティ内に自動運転技術の開発拠点を整備する計画だ。先端医療関連の研究施設も開設する予定だ。

施設が位置する大田区は、新たな複合施設を活用した産業振興策として、創業支援拠点を開設する。2020年にシェアオフィスや交流スペースを備えた施設を開業する計画で、このほど約10法人の募集を始めた。中堅製造業を中心に募り、区内の町工場との連携につなげる。ベンチャーキャピタル(VC)を集めた起業家向けイベントなども開く計画だ。

スタートアップは斬新なアイデアを持つものの、試作品の製造装置や量産技術を持たない企業もある。同区は新拠点でものづくりに関わる事業者が交流することで、スタートアップのアイデアと町工場の製造技術との協業や連携につながる効果を期待している。

城南信用金庫(東京・品川)も20年6月、全国の信金職員らが利用できるスペースを開設する。信金職員が東京出張した時のサテライトオフィスとして提供するほか、企業のマッチングイベントなども開く計画だ。「地方企業同士の協業を促すだけでなく、大田区内の町工場と地方企業との連携も働き掛けたい」(城南信金)という。


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