ゲノム編集で作った受精卵から赤ちゃんを誕生させ、世界的な批判を受けた中国・南方科技大の賀建奎副教授(当時)=2018年11月28日(共同)

中国の研究者が「ゲノム編集ベビー」を誕生させたと発表しておよそ1年。ヒト受精卵の遺伝情報をゲノム編集という簡便な技術で改変し、エイズにかかりにくいようにしてから母親の体内に戻して子を出産させたとの触れ込みだったが、当の研究者は表舞台から姿を消した。生まれた双子がどうなったかも不明だ。世界で非難の声があがり、こうした試みは封印されたかに見えるが、現実には希望する親も手がけてみたい医師、研究者もいる。14、15日にはロンドンで専門家らがこの問題を話し合う国際委員会を開く。禁止を確認しあうというより、慎重ながらも解禁への道筋を探る場になりそうだ。

「ロシアでゲノム編集ベビーが近く生まれる」――。今年の夏以降、こんな情報が世界を駆け巡った。英科学誌「ネイチャー」や米ブルームバーグが、ロシアの国立研究機関の臨床遺伝学者の計画を報じたのがきっかけだ。生まれてくる子どもがエイズにかかりにくいようにするという中国と同様の計画のほかに、特定の遺伝子変異による聴力障害を持つ夫婦の受精卵をゲノム編集し、障害が出ないようにする試みを準備中だと伝えた。

10月にもロシアの審査機関に申請し、承認され次第、開始するとされたが、まだ実行に移されていないようだ。予想以上に騒ぎになり、ロシア政府から事実上の「待った」がかかったといわれる。

ゲノム編集ベビーが生まれた場合、遺伝情報に人為的に手を加えた影響は、その子どもからさらに次の世代へと受け継がれる。人類の進化の道筋すら変える恐れがあり、そんな大それたことをすべきではないという声は多い。未熟な編集技術ゆえ、狙い通りに遺伝子を変えられず、あとから思わぬ障害が明らかになる心配もある。一体、誰が責任をとるのか、容易に答は出ない。

一方で、生まれながら難病に苦しむとわかっていて、事前に「治療」する技術があるなら使うべきだという指摘もある。難しい問題を多くはらむだけに現段階でのゲノム編集ベビーづくりに眉をひそめる人が多いのだが、それでも現実は先へ先へと進もうとする。

受精卵をゲノム編集する基礎研究は止まる気配がない。国立成育医療研究センター研究所の阿久津英憲・生殖医療研究部長の調べによると、論文で確認できるものだけでも、9月時点で世界で13件の報告があった。うち11件は中国。中国のゲノム編集ベビー誕生やロシアの計画は含まれていない。

中国の研究の多くはゲノム編集をより効率的かつ正確にし、遺伝情報を狙い通りに改変しようというものだ。ノウハウを着実に積み上げている様子がうかがえる。難病の治療につながる遺伝子の修復法の研究もあり、多くの研究者が将来的な臨床応用を視野に入れているとみられる。

この動きは中国やロシアに限らない。生命倫理問題を議論する英国の権威ある独立機関、ナフィールド生命倫理協議会が出した2018年の報告書も、将来世代に影響を及ぼすような生殖細胞のゲノム編集は、状況によっては「倫理的に受け入れられる」と結論づけた。驚いた人は多いが、研究の現実をしっかり踏まえた内容になっている。



14日からロンドンで開く「ヒト生殖細胞ゲノム編集の臨床応用に関する国際委員会」は米国科学アカデミー、医学アカデミー、英王立協会が主催する。今すぐゲノム編集ベビーをつくることには慎重でも、決して「禁止ありき」の集まりではない。受け入れの機運が高まったときに混乱なく実行に移せるよう、今から問題点を整理し、認められる条件を国際的に確認しあおうというのが目的だ。世界保健機関(WHO)とも連携し、何らかの共通指針をつくる方向だ。

ただ、WHOの専門家会議は今年3月、ゲノム編集した受精卵から子を誕生させる計画を、現時点では進めるべきではないと勧告した。世界の規制当局に対し、計画の申請があっても承認しないよう求めている。国際委員会には前へ進みたい研究者も多いが、WHOはより慎重だ。8月には世界の研究の実情を把握するため、あらゆるヒト細胞のゲノム編集による病気治療をめざした臨床試験のデータを集約する登録システムを始めると発表した。ルールのあり方を話し合うのに役立つとみられる。

日本では基礎的な研究に限り、一定の条件を満たせば、受精卵などのゲノム編集を認める指針を作成中だ。その目的は不妊症の仕組みの解明や難病の治療法研究などに限定される。ただ、ゲノム編集ベビーに関しては法的な規制などをこれから詰める段階。いずれ解禁時期がやってきた場合を想定してのルールづくりはその先だ。

生命科学の進展は加速しており、「その時」は意外に早くやってくるかもしれない。政府だけでなく、患者団体や一般市民も常時参加し、早めに議論を進める必要がある。ロンドンの国際委員会のような場に参加する日本の研究者も増えてきた。そこで吸収した知見を多くの人と共有し、日本の進路を考えるべきだ。

「隠さない」パッケージ 社内セミナー、男性も


外壁に貼り付けられた生理用ナプキン。生理について考えるきっかけに(東京都渋谷区)

働く女性が増え、生理について職場でオープンにしてサポートする動きが広がってきた。生理と向き合うことは、体を大切にするだけでなく、ライフプランを描くにも欠かせない。生理用品や売り場も少しずつ進化してきた。

「女性の生涯の生理の回数は、戦前と比べどのくらい増えていると思いますか」「答えは10倍。500回ほどあります。出産回数が減ったことなどの影響です」

9月、全日本空輸の本社や事業所で、生理の基本的な仕組みや生理に伴う不調など、女性の体や健康について学ぶセミナーが開かれていた。

経済損失6800億円

「生理痛にこんなに個人差があるなんて。今まで話したことなかったから知らなかった」。受講した女性は驚く。男性社員からは「同僚への接し方を変えようと思った」との声も。「働き続ける女性が増え、健康とうまく付き合うことが組織にも社会にも重要になっている」(人財戦略室の脇本依子マネジャー)

提供するのはドコモ・ヘルスケア(東京・渋谷)。2016年11月から産婦人科医などと企業に出向く。これまで20社に提供。「女性の採用を増やしたい企業の関心が高く問い合わせが急増している」(江刺幸子さん)。参加者の2〜3割は男性で「部下にどう接したらいいか分からない管理職が多い」という。

バイエル薬品(大阪市)によると、月経随伴症状による社会への経済的負担額は年間6828億円。うち7割以上が労働生産性の損失だ。この推計は13年公表で、当時に比べ女性の就業率は上昇。さらに額は膨らんでいるとみられる。

経済産業省の調査(18年)では「勤務先で女性特有の健康課題や症状で困った経験がある」は52%。なかでも生理関連の症状が72%を占めた。

「生理用品の機能は向上しているのに漏れなどトラブルは増加。多忙で自分のタイミングでトイレに行けない人が多いのではないか」。生理用品ブランド「ソフィ」を展開するユニ・チャームの長井千香子ブランドマネージャーは現状をこうみる。「化粧品は情報交換するが生理は置いてきぼり。もっと気軽に話せる空気をつくりたい」。話題にでき、働きやすくなれば生産性も上がる。

6月、プロジェクト「#NoBagForMe」をインフルエンサーらと始めた。生理用品は買うと紙袋に包まれる。これが生理を「恥ずかしい」と捉えることにつながるとみて、まずは隠す必要のないパッケージを開発。年内には店頭に並ぶ。

変化の乏しかった生理用グッズが最近、変わり始めた。注目は経血吸収型のショーツ。経血量が少ない日はナプキンなしですみ、洗ってまた使える。インテグロ(東京・中央)の「エヴァウェア」(5500円)は昨年の発売以降、急速に売り上げを伸ばしている。

売り場も充実

売り場も変わる。大丸梅田店(大阪市)は22日、女性の体のリズムを意識した売り場「ミチカケ」をオープンする。一般に、1カ月ごとの生理周期は4つの時期に分けられ、ホルモンバランスによって体や心の状態も変わる。体調も気分も沈む「どんより期」、浮き沈みのある「ゆらゆら期」といった時期に合わせた衣料や食品などを扱う。

「生理は食事や睡眠と同じ。なのに男性はもちろん、女性でも人によって感覚が違うから言いづらい。だからこそいいきっかけになる」(30代の女性会社員)

10月、東京・渋谷の商業施設の壁に生理用ナプキンがずらりと並んだ。集英社のファッション誌「SPUR」の広告だ。カラフルなパッケージに包まれたナプキンを持ち帰れる試み。「人の目に触れる場所に出し、体について考えるきっかけを作れたら」(五十嵐真奈編集長)。生理は日常のこと。もちろん価値観に個人差はあっていいが、やっと話せるときがやってきた。

(井土聡子氏)

群馬でシニアボランティアが存在感 気さくに声かけ/教材 手作りも

外国人に日本語を教えるシニアボランティアが増えている。人口に占める外国人の比率が都道府県別で3位の群馬県では今や、地域に欠かせない存在だ。就労目的で来日したものの、日本語が不自由で生活に困る外国人は多い。現役時代の経験などを生かして気さくに接し、外国人との共生に貢献しようと奮闘している。


山本さん(左)は手作りの教材などを使い、教え方を工夫している(群馬県高崎市)

「これはどういう意味?」

「王様の住む場所、英語で言うとパレスだよ」

10月16日午後7時すぎ。群馬県大泉町の公民館南別館で開いた外国人向けの日本語教室。ボランティアで教える大滝勝さん(76)がネパール人学生に丁寧に説明していた。

この日、大泉国際交流協会が主催する日本語教室に参加したのは10人ほどの外国人だ。国籍はネパールのほか、インドネシアやベトナムなど。仕事を終えて駆けつけた人や、日本で働くことになった親と一緒に来日した学生など職業や年齢は様々だ。

各自が教材を使って自習するのを見て回りながら、分からないところを日本人が手助けする。「(教材は)どこまで進んだかな」。大滝さんは声をかけながら、進捗具合を確認していく。日本語での説明が難しい場合は互いに理解できる英語などを使い、巧みにコミュニケーションを取る。

大滝さんが教え始めたのは1年ほど前。「人手が足りない」と知人に頼まれたからだ。手伝うのは週3日。「前回教えたことを覚えているなど、着実に上達している姿を見るとやりがいを感じる」と話す。

現役時代は大手電機メーカーに勤務。50代で協力会社に移り、インドネシアから来ていた従業員の仕事と生活の面倒を見ていた。「日本の工場で働くには品質管理の専門用語など様々な言葉をすぐに覚えなければならない。彼らは生活がかかっているだけに一生懸命だ」。日本で働く外国人の苦労や心情を理解しているだけに、教室でも真剣に向き合う。

大泉町で日系ブラジル人ら外国人が増えたのは1990年ごろから。バブル期で人手不足だったためだ。2019年1月時点の同町の外国人比率は2割近くと市区町村別で3位。都道府県別でも群馬は東京、愛知に次いで3番目に高い。

大滝さんによると、終戦まで近隣地域に工場があった中島飛行機でも多くの外国人が働いていたという。「ここは海外の人々を受け入れるオープンな土地柄。ブラジルから労働者に来てもらい、地元産業界が助かった過去もある」。外国人は地域にとって欠かせない存在になっている。

群馬県内で人口が最も多い高崎市でも外国人が増えている。高崎市国際交流協会が運営する日本語教室で週に1度、午後7時から教えているのが主婦の山本かおるさん(61)だ。

学生時代に米国でホームステイした経験を持ち、独学で英語を学んできた。結婚後は専業主婦で、「生活に密着して支援するような国際交流をしたい」とボランティアに応募した。

教室で10年以上教えてきた経験から、日本語能力は人によって全然違うと実感する。そこで独自の教材を手作りするなど教え方を工夫している。例えば「食べる」「片付ける」などの動作を描いたカードを作成。日本語が全く分からない外国人でも絵を見ながらコミュニケーションを取れるようにした。

山本さんが教室で接する外国人の置かれた境遇は様々。狭い部屋に大勢で暮らしているケースもあれば、平日は働きづめで週末は疲れて寝るだけという人もいる。「彼らがこの国で生活していくにはまず日本語を扱えるようになることが重要。微力ながら学習支援を通じてサポートできれば」。今後も外国人が言葉の壁を乗り越えるのに一役買っていく考えだ。

日本語学習者7年で2倍 ボランティア養成急務

在住外国人の増加に伴い、国内で日本語を学ぶ人が増えている。文化庁によると、日本語学習者は2018年11月時点で約26万人に上り、7年間で2倍になった。日本語を教える機関・施設も25%増えた。日本語教師約4万2000人のうち55%がボランティアだ。

日常生活で日本語を話している日本人も、外国人に教えるとなるとノウハウが必要だ。ボランティアを育成する地域は広がっており、群馬県では県観光物産国際協会が養成講座を運営している。在住外国人が多い千葉市や静岡県磐田市、堺市なども力を入れている。

外国人が生活しやすい社会づくりに取り組む人材として、群馬県が「多文化共生推進士」に認定している日本語教師の正田江利子さんは「外国人に日本語を教える人は普段、自分が使っている言葉を意識することが大切だ」と指摘する。例えば「置いといて」という言葉。会話で使うくだけた表現のため、外国人には中級の難易度だという。

学習者が社会人であっても日本語が話せないと、子供扱いしてしまう日本人もいるという。正田さんは「敬意を持って接してほしい」と話している。

(古田博士氏)


検索サービス「ヤフー」を展開するZホールディングス(HD)とLINEが経営統合に向けた最終調整に入った。両社は14日午前、協議入りしたことを認めた。2社の事業を傘下に持つ新会社を設け、ソフトバンクの連結子会社にする方針だ。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の「国内ネット市場の総取り」に向けた賭けが、1億人が利用するプラットフォーマーを生み出そうとしている。

「反省はするが、萎縮はしない」。孫氏は今月6日の決算会見でこう話し、変わらぬ拡大志向を示した。ソフトバンクGは傘下の10兆円ファンド「ビジョン・ファンド」の出資先である米シェアオフィス大手「ウィーワーク」の運営会社の経営不振などで、2019年7〜9月期は過去最大となる7千億円の連結最終赤字を計上した。海外の人工知能(AI)企業の有望株に集中投資する戦略に逆風が吹くなか、表面化したのがZHDとLINEの統合による国内市場総取りの一手だ。

孫氏は国内の対話アプリで確固たる顧客基盤を持つLINEに興味を持ち続けてきたとされる。関係者は「ずっと資本提携の可能性を探ってきたはずだ」と話す。今回の統合交渉もZHD側からLINE親会社の韓国ネイバーに持ちかけたとされる。

「孫さんはヤフー(ZHD)を軸に、国内で『アリババ』を実現しようとしている」(ソフトバンクG幹部)。ソフトバンクGの最大投資先で、孫氏の長年の投資のなかでも最大の成功例と評価される中国のアリババ集団。同社は利用者数が世界で約12億人の決済サービスを入り口に、電子商取引(EC)など中国の人々の生活に関わるあらゆるサービスに利用者を誘導。同国で圧倒的なプラットフォーマーとなった。

アリババの姿が孫氏を触発したのは間違いない。日本のネット市場でのプラットフォーム構築に向けて、今年6月にヤフー(ZHD)を国内携帯電話子会社、ソフトバンクの連結対象に再編。国内の携帯市場が頭打ちとなるなかで、2社の連携を国内での成長のけん引役とする戦略を始動させた。2018年10月に始めた決済サービス「PayPay(ペイペイ)」をグループ総掛かりの投資で育ててきた。



ZHDは9月には衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOの買収を決めた。そして、今回のLINEとの統合で、国内のネット市場での存在感は一気に大きくなる。EC事業で先行するアマゾンジャパン(東京・目黒)や楽天には手薄な対話アプリを持ち、成長分野の決済サービスも強化できる。

LINEの対話アプリの利用者は約8000万人で、ヤフーのサービスは5000万人に上る。統合が実現すれば金融、小売りも手がける1億人規模が利用するサービス基盤が誕生する。

決済サービスでは、LINEの「LINEペイ」の登録者数は約3700万人で、ペイペイは1900万人。合計はNTTドコモの「d払い」の5倍を超え、この分野で圧倒的な優位を握る公算だ。



銀行・証券分野も相乗効果が大きそうだ。ZHDはジャパンネット銀行を抱え、10月にはSBIホールディングスと金融事業で包括提携すると発表した。LINEは野村証券と組んで「LINE証券」を発足させ、みずほフィナンシャルグループとは20年度に新銀行を開業する計画だ。ニュース検索サービス、ECサイトなどでも連携が期待できる。

2社は顧客層の補完関係もある。ECサイトなどでZHDのサービスの利用者は40代前後が多い一方、LINEのアプリは10〜20代の若者も多く利用している。ZHDにとって、LINEが持つ若年顧客の取り込みは、末永くサービスを利用する顧客を押さえるためにも魅力的だ。

課題はある。2社の力で国内市場にプラットフォームを築いても、研究開発費などで米中の巨大IT(情報技術)企業は圧倒的な規模を持つ。対抗するためには、ソフトバンクGが展開するAI投資で得た技術やノウハウの投入が不可欠だ。

ZHD、LINEの2社を束ねる新会社はソフトバンクの連結子会社になるが、ネイバーも新会社に50%を出資する大株主となる。事業運営を進めるうえで、今後は同社との調整が必要となる見通し。これまでグループ内で完結してきた意思決定に乱れが生まれる可能性もある。

国内の消費者の多くが利用する半面、データ寡占への反発が集中する懸念もある。

米国では米グーグルや同アマゾン・ドット・コムなど「GAFA」が消費者の情報を吸い上げていることへの反発が広がっている。GAFAの強大さが競争を阻害しかねないとして「分割論」も浮上。米司法省や50州・地域の司法長官もIT大手への調査を始めた。

日本でも公正取引委員会が10月末に巨大IT企業の調査報告書をまとめた。巨大IT企業による法的に問題となる行為を例示して、厳しく取り締まる姿勢を明確にしている。(堀田隆文氏、今井拓也氏、井川遼氏)

子育て世代の教育熱が都市部を中心に高まっている。グローバル化が進むなか、教育に関心の高い親たちの間で、我が子が将来、世界各国の人たちと勝負する時代が来るとの認識が広がっているためだ。インターネットの普及で、見知らぬ親子の熱心な教育ぶりを詳しく知る機会も増えた。我が子が国内外のライバルに負けずに有利な人生を送ることを願い、親たちは競うように教育の機会を用意している。

「9+5は……14!」。10月下旬、中学受験塾「四谷大塚」(東京・中野)の渋谷校舎の教室に、子供たちの元気な声が響いた。他の教室の子供よりもあどけない表情を見せるのは、来春に小学校入学を控えた園児たち。「新1年生入学準備講座」の受講生だ。

同講座では週1回、算数と国語、英語の3科目を40分ずつ学ぶ。入学前年の9月から1月までの5カ月間、足し算や漢字の読み書きを学んだり、ネーティブスピーカーの講師から英語の発音の基本を習ったりする。

キャッチコピーは「差がつく前に差をつける!」。入学前に知的好奇心を育て、自ら学習する習慣を身につけるのがねらいだ。少子化にもかかわらず、2013年の開設時に約300人だった受講生は、2019年は約1千人まで増えた。

ヤマハミュージックジャパン(東京・港)は0歳児向け英語教室「えいご★デビュー」を開講した。アップテンポな童謡やかわいらしいイラスト入りの色鮮やかなカードを使い、乳児が英語に親しめるよう促す。

現在は全国150カ所に展開、週末のレッスンも増やす予定だ。2020年度から小学校で英語が正式教科化するが、日本語を話す前段階の乳児が対象の英語教室は異例だ。同社の担当者は「幼いうちから英語に触れていれば、その後も楽しみながら無理なく学べる」と説明する。

学習関連の早期教育はこれまで、パズルやカードなどを使う「知育系」や私立・国立小学校の「お受験」対策講座が主流で、文字や数字を使わずに教えるのが特徴だった。ここへきて、学校の教科に直結する内容を幼いうちに先取りして学ばせようとする動きが加速している。

前倒しの背景にあるのは親の危機感だ。グローバル化やIT化が進み、子供の将来の仕事やキャリアを想像するのが難しくなっている。現役世代として社会の変化やその速さを実感している親は、我が子に高い学力や自分にはないスキルを身に付けさせるべく「競育」への情熱と投資を惜しまない。

大手進学塾の関係者は「低年齢層向け講座の強化にはビジネス上の狙いもある」と明かす。子供の入塾時期が早まると通塾期間は長くなり、塾は顧客の囲い込みと受講料収入増が期待できる。焦りを覚える親の一部が「少しでも早く」と飛びつくやいなや、動きが広がって先取りに拍車がかかる。

四谷大塚の準備講座に次女を通わせる東京都目黒区の主婦(43)は「これからの時代に自分の常識は通用しない。娘には早くから高い教育を受けさせて将来に備えたい」と力を込める。「娘は医者になりたいと言っている。進路変更しても学業面で対応できるよう環境を整えたい」。将来は中学受験を予定しているという。

中学受験への親の関与度も高まってきた。「主役は子供だが、一緒に勝ち取った合格という思いもある」と話すのは東京都の30代男性。長男が昨年、「御三家」と呼ばれる都内私立校に合格した。

男性が担ったのは算数の指導にとどまらない。「受験校の入試の特色と息子の得意分野を把握すれば、有利な日程を組める」と考えて受験予定の約10校を調べ上げ、妻と議論を重ねた。

男性は「中学受験は親の情報戦という一面もある」と振り返る。ここ数年で私立中の入試日程は複雑化した。日程管理を含めた受験戦略も合格のカギを握る。学力を伸ばし高学歴を得られるように、親は力を惜しまず子供を全面的に支えている。

過度な押しつけ、虐待の恐れも 「よその家庭より我が子見て」

我が子のためと思って親が奔走することに死角はないか。青山学院大学教育人間科学部の古荘純一教授(小児科学)は「健康的な生活習慣と親子の信頼関係を第一に考えて」と呼びかける。

幼児期は8〜10時間ほどの睡眠時間が必要とされる。「睡眠不足だと昼間の活動性が下がるほか、攻撃的になって友達に暴力を振るうケースもある」(古荘教授)。学校に塾にと忙しい子供を、家庭ではなるべくリラックスさせるべきだという。

インターネット上に多くの教育・進学関連の情報があふれる昨今は、最難関校の合格体験記などを目にする機会が増えた。少子化が進み、両親や祖父母のお金や期待が子供の教育に集まりやすくなっている。その結果、子供にあらゆることを体験させようと大人が過熱しやすい環境になっている。古荘教授は「つい背伸びしがちだが、よその家庭の前に目の前の子供を見てほしい」と話す。

親が自身の学歴コンプレックスや将来への不安を過度に押しつけると、教育虐待に至るおそれもある。「親の愛情が欲しくて、勉強がつらくても正直に言えない子供も多い。大人が思う以上に子供は敏感なので、しっかりと見てほしい」と助言する。


ゲノム編集で作った受精卵から赤ちゃんを誕生させ、世界的な批判を受けた中国・南方科技大の賀建奎副教授(当時)=2018年11月28日(共同)

中国の研究者が「ゲノム編集ベビー」を誕生させたと発表しておよそ1年。ヒト受精卵の遺伝情報をゲノム編集という簡便な技術で改変し、エイズにかかりにくいようにしてから母親の体内に戻して子を出産させたとの触れ込みだったが、当の研究者は表舞台から姿を消した。生まれた双子がどうなったかも不明だ。世界で非難の声があがり、こうした試みは封印されたかに見えるが、現実には希望する親も手がけてみたい医師、研究者もいる。14、15日にはロンドンで専門家らがこの問題を話し合う国際委員会を開く。禁止を確認しあうというより、慎重ながらも解禁への道筋を探る場になりそうだ。

「ロシアでゲノム編集ベビーが近く生まれる」――。今年の夏以降、こんな情報が世界を駆け巡った。英科学誌「ネイチャー」や米ブルームバーグが、ロシアの国立研究機関の臨床遺伝学者の計画を報じたのがきっかけだ。生まれてくる子どもがエイズにかかりにくいようにするという中国と同様の計画のほかに、特定の遺伝子変異による聴力障害を持つ夫婦の受精卵をゲノム編集し、障害が出ないようにする試みを準備中だと伝えた。

10月にもロシアの審査機関に申請し、承認され次第、開始するとされたが、まだ実行に移されていないようだ。予想以上に騒ぎになり、ロシア政府から事実上の「待った」がかかったといわれる。

ゲノム編集ベビーが生まれた場合、遺伝情報に人為的に手を加えた影響は、その子どもからさらに次の世代へと受け継がれる。人類の進化の道筋すら変える恐れがあり、そんな大それたことをすべきではないという声は多い。未熟な編集技術ゆえ、狙い通りに遺伝子を変えられず、あとから思わぬ障害が明らかになる心配もある。一体、誰が責任をとるのか、容易に答は出ない。

一方で、生まれながら難病に苦しむとわかっていて、事前に「治療」する技術があるなら使うべきだという指摘もある。難しい問題を多くはらむだけに現段階でのゲノム編集ベビーづくりに眉をひそめる人が多いのだが、それでも現実は先へ先へと進もうとする。

受精卵をゲノム編集する基礎研究は止まる気配がない。国立成育医療研究センター研究所の阿久津英憲・生殖医療研究部長の調べによると、論文で確認できるものだけでも、9月時点で世界で13件の報告があった。うち11件は中国。中国のゲノム編集ベビー誕生やロシアの計画は含まれていない。

中国の研究の多くはゲノム編集をより効率的かつ正確にし、遺伝情報を狙い通りに改変しようというものだ。ノウハウを着実に積み上げている様子がうかがえる。難病の治療につながる遺伝子の修復法の研究もあり、多くの研究者が将来的な臨床応用を視野に入れているとみられる。

この動きは中国やロシアに限らない。生命倫理問題を議論する英国の権威ある独立機関、ナフィールド生命倫理協議会が出した2018年の報告書も、将来世代に影響を及ぼすような生殖細胞のゲノム編集は、状況によっては「倫理的に受け入れられる」と結論づけた。驚いた人は多いが、研究の現実をしっかり踏まえた内容になっている。



14日からロンドンで開く「ヒト生殖細胞ゲノム編集の臨床応用に関する国際委員会」は米国科学アカデミー、医学アカデミー、英王立協会が主催する。今すぐゲノム編集ベビーをつくることには慎重でも、決して「禁止ありき」の集まりではない。受け入れの機運が高まったときに混乱なく実行に移せるよう、今から問題点を整理し、認められる条件を国際的に確認しあおうというのが目的だ。世界保健機関(WHO)とも連携し、何らかの共通指針をつくる方向だ。

ただ、WHOの専門家会議は今年3月、ゲノム編集した受精卵から子を誕生させる計画を、現時点では進めるべきではないと勧告した。世界の規制当局に対し、計画の申請があっても承認しないよう求めている。国際委員会には前へ進みたい研究者も多いが、WHOはより慎重だ。8月には世界の研究の実情を把握するため、あらゆるヒト細胞のゲノム編集による病気治療をめざした臨床試験のデータを集約する登録システムを始めると発表した。ルールのあり方を話し合うのに役立つとみられる。

日本では基礎的な研究に限り、一定の条件を満たせば、受精卵などのゲノム編集を認める指針を作成中だ。その目的は不妊症の仕組みの解明や難病の治療法研究などに限定される。ただ、ゲノム編集ベビーに関しては法的な規制などをこれから詰める段階。いずれ解禁時期がやってきた場合を想定してのルールづくりはその先だ。

生命科学の進展は加速しており、「その時」は意外に早くやってくるかもしれない。政府だけでなく、患者団体や一般市民も常時参加し、早めに議論を進める必要がある。ロンドンの国際委員会のような場に参加する日本の研究者も増えてきた。そこで吸収した知見を多くの人と共有し、日本の進路を考えるべきだ。

日本経済新聞コメンテーター 村山恵一

最先端のスーパーコンピューターをしのぐ性能を量子コンピューターで実証したと、米グーグルが英ネイチャー誌で発表した。日本の第一人者、東京工業大学の西森秀稔教授が驚き、注目したのは論文の著者リストに並んだ研究メンバー約80人の顔ぶれだった。

米航空宇宙局(NASA)、スパコンで有名な米オークリッジ国立研究所、欧州を代表するユーリヒ総合研究機構……。2014年に研究室ごと引き抜いた米カリフォルニア大学の人材に加え、さまざまな組織の研究者が集まった。グーグル社内に閉じず、広範。量子オールスターズだ。



求心力の源はグーグルの資金力だけではない。個性的な才能を束ねて方向づけるリーダーシップもいる。量子のような大テーマで、スピード感をもって突破口を開くための研究モデルのひな型を示した――。西森氏はそうみる。オープンな体制で多様な人材を生かすところがポイントといえる。

グーグルと競う米IBM。ネイチャー論文に異議を唱え、対抗心を隠さないが、自らの研究所に閉じこもっていない点は同じだ。

量子コンピューターは誰がどんな用途で使うのか。それを理解するのも研究の一部と考え、発展途上の量子コンピューターを公開し、世界で15万人の登録利用者を抱える。プログラム開発者が交流するソーシャルメディア的なしくみがあり、IBMとともに利用法を探るコミュニティーには80近くの企業や大学が参加する。

社内で秘密裏に研究し、世の中に届けられる段階になってはじめて提供するかつてのIBMの流儀から様変わりだ。コンピューター科学や物理、数学、化学、ソフト開発、デザインなど多分野の学生をインターンに誘う。研究者のつながりを外へ外へと伸ばす。

量子コンピューターの実用化には長い時間を要し、暗号破りのリスクも指摘される。一方で気候変動やエネルギー、ヘルスケアの難問を解く潜在力を秘めている。限られた場所と人で研究していては大事な芽を見落としかねない。

日本は大丈夫だろうか。

量子コンピューター研究の歩みを振り返れば、目を引く日本発の成果があったが、ひょっとするとチャンスを逃したかもしれない。

東工大の西森氏らが土台となる理論「量子アニーリング」を提唱したのは1998年。同じころNECは超電導による量子ビットを世界で初めて実現した。先頭を走る専門家同士がそばにいた。

もしもそこに対話が生まれ、知識が交じり合えば、世界をリードできるような研究の進展がみられた可能性があるが、双方が連絡をとり合うことはなかった。

時は流れ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の案件で両者の連携が決まったのは昨年だ。NECもIBMに似たコミュニティーづくりをめざすが、具体化はこれから。海外のダイナミックなうねりと差がある。

研究のあり方が刷新を迫られているのは量子の領域に限らない。人工知能(AI)やアルゴリズムの時代だ。テクノロジーを創出するにも、暴走を防ぎながら駆使するにも、いろいろな発想やアイデア、価値観の融合が欠かせない。

トランジスタや太陽電池、パソコンの原型の開発など技術史に残る結果を出した米国のベル研究所、ゼロックスのパロアルト研究所は多士済々が活気のもとだった。さらにいま、組織の壁を越え、大きなスケールで人と人が化学反応を起こす研究環境をコーディネートできるところが優位に立つ。

日本の研究者は67万人と米国や中国の半分以下。研究費も両国の3分の1ほどだ。問題はそうした資源が無駄なく生かされているかどうか。論文数や特許出願の推移をたどると、日本の存在感はじわじわ縮んでいる。よその国以上に知のコラボレーションが必要なはずが、そうはなっていない。

人材の流動性を高め、大学と企業をまたいで研究者が活躍できるようにと国が整えたクロスアポイントメント制度。だが大学から企業に動いたのは2017年度でわずか7人。聞けば大学と企業の給与体系の違いなどイノベーションとかけ離れた事柄が障害だ。専門性を携えて研究者が産官学をわたり歩く米国とは景色が異なる。

望みがないわけではない。

AIスタートアップのカラクリ(東京・中央)でデータサイエンティストをつとめる吉田雄紀氏。機械学習を研究する東京大学の大学院生、内科の医師でもある。量子コンピューターを使いこなすコンテストで優勝経験があり、能力を縦横に発揮している。

ひとつだけに打ち込めばときに行き詰まるが、「3足のわらじ」なら新たな問題意識が芽生え、知見が高まるという。柔軟な研究スタイルを欲する若者は日本にも少なくない。うまく環境をつくれば組織間の人の流れも太くできる。

VALUENEX(バリューネックス)という情報解析ベンチャーがある。大量の特許文書を分析し、企業がもつ研究の強み、弱みを浮き彫りにするサービスを手がける。大手を中心に日本でも導入する会社が増えている。

自社の研究の実力を知れば、どんな企業と手を組むべきか、スタートアップを買収すべきか見極めやすい。内向き色が濃い伝統的な研究体制から脱するひとつのきっかけになりうる。

グーグルやIBMの動きを遠巻きに眺めているだけでは、日本の研究力が細るばかりだ。

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ダスキンは4月、社員の復職制度の対象者を広げた。介護や育児に限っていた退職理由を、キャリア形成のための留学や転職などでも使えるようにした。人手不足で売り手市場が続くなか、若手の離職率は上昇している。自社での就業経験がある人材が門戸をたたきやすくし、即戦力を確保する。

入社後に一度だけ使える復職制度「よつ葉Dターン」を2009年に導入。今では退社時に正社員としての就業期間が2年以上で、一定の社内評価が条件となる。復職時には50歳以下で退職日から数えて5年未満、復職後に3年以上働けることが求められる。

復職後の部署や役職、給与水準は基本的に退職する時と同じ。事前に人事担当者と面談し、勤務時間や勤務エリア、職域などを決める。早くなじめるよう上長が直接復職者を指導するサポート体制も準備する。



同制度で戻った片山友香さん(34)は、2015年に結婚に伴う転居がきっかけでダスキンを辞めた。子どもが1歳半になり、2019年2月に復職。愛知県在住のため退社時とは違う東海エリア限定の総合職として復帰し、以前とは違うクリーニング関連サービスを担当する。未経験の部署のため不安もあったが「上長がマンツーマンで指導してくれ、早くなじめた」と話す。

ダスキンが同制度を始めたきっかけは社内の声だった。社内制度全般について改善点を吸い上げたところ、復職に関する制度がないことへの意見が多かった。4月の改定前の段階で同制度の累計申請人数は14人。うち5人が復職した。

制度を改めた狙いは辞めた若手の再獲得だ。ダスキンでは入社後2〜3年間は販売店の店長などとして働く。営業などで加盟店のオーナーとやりとりするには現場経験が必要だからだが「思っていた仕事と違うと辞める人もいる」(人事部の野口幸延氏)。

理由を介護などに限らない復職制度があれば「一度辞めてよそで経験を積んでからでも戻れる安心感は、学生にとってもダスキンへの入社の後押しになる」とみる。

終身雇用が崩れるなかでも最初に入った会社への思い入れが強い人も多い。経験値をあげて学生時代に選んだ会社に戻る。そんな選択肢を設ければ、多様な戦力を得やすくなるかもしれない。

(下野裕太)

子育て世帯の経済的負担を減らす幼児教育・保育無償化が10月に始まってから1カ月。2017年秋、安倍晋三首相が衆院解散時に方針を打ち出してから2年で制度設計しただけに急ごしらえの感は否めず、国の要請とは異なる動きも出てきた。保護者に広がる戸惑い。現場で何が起きているのか。

内容同じで値上げ

「保育内容は良くなっていないのに」。東京都世田谷区に住む女性はモヤモヤしている。9月中旬、子供が通う幼稚園が値上げすると知った。10月に教材費と冷暖房費の合計額を月4千円から6千円に引き上げたうえで、保育料も無償化上限額まで値上げするという内容だった。

園は人手不足で行事も縮小。値上げに合わせた保育の見直しはない。補助もあり女性の支出は減ったが、釈然としないという。

国は無償化に際し、質の向上を伴わない保育料引き上げを控えるよう求めていた。だが実際には「便乗値上げが疑われる例が複数報告された」(文部科学省)。東京都によるとここ数年、都内の私立幼稚園は平均0.8〜0.9%値上げしてきたが、今年は4月時点で2.2%と例年より上げ幅が大きかった。

増税もあり、多少の値上げは仕方ない面がある。世田谷区の担当者は「私立の値上げを行政が規制するものでもない」と話す。ポイントは保護者に納得感があるかだが、中央大学の宮本太郎教授は「経営状態が悪い園の延命にならないか」と懸念する。国は10月に入り、妥当性を確認し必要に応じて指導するよう都道府県などに通達した。

別におかず代発生

「なぜ負担が増えるの」。千葉県市川市のこども政策部では10月になっても保護者からの電話が続いた。無償化に伴い市内の認可保育所などに通う3〜5歳児約5千人のうち、約280人の利用料が増額。9月までに負担していた保育料より割高になる「逆転現象」が起きたのだ。

同市は9月まで18歳未満の子が3人以上いる家庭向けに、認可保育施設の保育料を月最大2万5千円独自に減額してきた。例えば5歳になる第3子が保育所に通っている場合、本来2万円の保育料が0円になる、という具合だった。



無償化に伴い、国は3〜5歳児のおかず代を保育料から切り離し、原則保護者が支払う仕組みとした。市川市のケースでは、保育料が0円だった5歳児に、月4500円程度のおかず代が発生する。

市は「幼稚園ではお昼代は保護者負担。施設間の公平性を期す」との立場。国は年収360万円未満の家庭でおかず代を無料にするなど低所得層に目配りした。負担増の家庭が出ないよう自治体に配慮を求めたが、堺市や甲府市などでも2020年度以降、逆転が起こる見通しだ。多子世帯に手厚く補助してきた自治体で制度とのズレが出ている。

質の担保置き去り

「子供の命を危険にさらすのでは」。保育事故の当事者らが集まる「保育の重大事故をなくすネットワーク」共同代表を務める藤井真希さんは今回、保育士配置など一定の基準を満たさない認可外も一律無償化されたことを心配している。

2018年に起きた保育中の死亡事故9件のうち、6件は認可外だ。団体では今夏、認可外の安全対策について自治体に調査。276自治体のなかで、基準外の認可外を無償化の対象にしないなど何らかの安全確保に取り組む考えを示したのは72自治体にとどまった。

認可に入れられず、苦渋の選択として通わせている家庭もある。甲南大の前田正子教授は「認可外の質を担保する仕組みをつくらないまま、見切り発車してしまった」と危惧する。認可外の安全監査を担うのは都道府県などの自治体。専門知識を持つ人員の配置や育成など体制充実が急務だ。

(天野由輝子氏)

国の補助金を受けて整備され、自治体が耐震性を調査した河川管理施設や下水道施設などの防災施設のうち、約6割で電気設備の耐震性を調べていなかったことが会計検査院の調査でわかった。検査院は「電気設備の耐震性が確保されていない場合、地震発生時に河川防災施設の機能が十分に発揮されないおそれがある」として国土交通省に改善を求めた。

河川管理施設とは水門や雨水排水ポンプ場など。建屋や水門、ポンプなどで構成され、制御装置や停電時のための自家発電装置などの電気設備が設けられている。水門は災害時、水位が上がった本流から支流への逆流を防ぐために閉じたり、雨水を排水するために開けたりして防災上の重要な役割を持つ。



検査院が調査の対象としたのは、国の補助金で整備され、2018年度末までに自治体が耐震性を調査した9県38市町の272の防災施設。その結果、8件21市町の158の防災施設(補助金は約945億円)で電気設備の耐震性を調べていなかった。

国交省が自治体に対し、指針で防災施設本体の耐震性の調査方法は明確に示していたが、電気設備の調査方法は示していなかったのが、調査の未実施の原因とみられる。

例えば、三重県は志摩市を流れる前川の河口部に1998年、津波や洪水の被害を軽減するため「鵜方水門」を設置した。南海トラフ巨大地震の被害が想定されていることから、県は2012年に水門の耐震性を調査し改修工事をした。しかし、水門を稼働させるための制御装置や自家発電装置の耐震性は調べていなかったという。

県河川課の担当者は「電気設備の耐震対策は国から明確な指針が示されておらず、どのように対応したらいいのか分からなかった。今年中に耐震性の調査にとりかかる予定で早急に対応したい」と話している。

検査院の指摘を受け、国交省は今年9月、自治体に対して防災施設の電気設備についても耐震性を調査する必要性を伝達している。

一方、自然災害で決壊すると人的被害が生じる恐れがある「防災重点ため池」などについて、23府県が国の補助金を受けて耐久性などを調査した約1万カ所を検査院が調べたところ、約4割で危険性の判定が不十分だったことも判明した。

国の指針では「200年に1度に起こる洪水」が基準だが「50年に1度」にするなどしていた。改修が必要なため池が見逃されている可能性があるという。

ODA効果は不十分 給水施設未使用 検査院指摘

主に発展途上国を対象に、インフラ整備や人道支援などを実施する政府開発援助(ODA)を会計検査院が調べた結果、約20億円の事業で整備したソロモン諸島の給水関連施設が全く使われていないなど、十分に効果を発揮していないものがあったことがわかった。

検査院は10カ国の146事業を抽出調査。返済義務を課さずに資金を提供する無償資金協力で実施したソロモン諸島の給水事業では、水の濁りを改善する施設を整備したが、既存の送水管が漏水していたため、施設経由では目的地まで水が届かなかったという。

施設は2014年の完成直後に使われなくなり水質も改善されなかった。国際協力機構(JICA)が計画時に送水管などの状況を見落としていたという。

海上監視目的で2015年にベトナムに提供した中古船3隻(調達額計約2億円)は、少なくとも3年以上使われずに、造船会社の岸壁に係留されたままだった。また、約110億円の有償資金協力で2008年に建設したインドネシアの下水処理場は、処理後の水質が目標値に達していなかった。

〔共同〕


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