ラグビー・イングランド代表のエディー・ジョーンズ監督(59、前日本代表監督)が日本経済新聞の単独インタビューに応じた。ラグビー人気が社会現象にもなった今秋のワールドカップ(W杯)日本大会を振り返るとともに、ラグビーから導かれる日本企業やビジネスパーソンへの期待や注文を語った。

――今大会でイングランドは準優勝。前回(1次リーグ敗退)、前々回(ベスト8)を踏まえれば復活といえるのでは。

「我々にとって素晴らしい大会になりました。強い情熱と誇りのもとに、決勝まで戦い抜くことができました」

「それでも決勝で南アフリカに敗れたのは痛恨です。過去のW杯の戦績がどうであれ、イングランド代表は常に優勝を期待され、チームも優勝のみを目指していたからです」

「初の8強入りを果たした日本代表の躍進は素晴らしかった。既存のラグビー界にとどまらず、国民全体の応援と後押しを得て、大会の偉大な成功につなげました」

――すべての起点は、あなたが日本代表を率いた前回2015年大会の南アフリカ戦の劇的な逆転勝利でした。

「ジェイミー・ジョセフ監督の今回の日本代表はさらに強くなっていました。それは間違いありません。そのうえで、たしかに最初の流れを作ったのは、あの南アフリカ戦だったかもしれません」

「私が日本代表監督に就任したのは12年4月でした。企業の経営判断になぞらえれば『ローリスク・ハイリターン』のプロジェクトだと感じました。当時の日本代表は『良き敗者』で満足、いわば負け犬根性が染みついており、これより下に落ちることはない。一方で日本のラグビーに潜在力があることには気づいていました」

「『勝利』という明確な目標を設定してハードワークを徹底する。そのうえで創造的な戦略や戦術を落とし込めば、成功の道は開けると確信していました。なににも増して、私は誰も達成したことのないことを実現することに喜びを感じるのです」



――15年W杯に向けた最終段階で、思い切った『人事』も注目を集めました。大会の前年にキャプテンを差し替えました。

「まずラグビーという球技にとってキャプテンの重要性は圧倒的に大きいのです。野球やサッカーと異なり、ラグビーは試合が始まったら、監督は指示が出せません。現場責任者たるキャプテンが戦術を判断し、チームをけん引しなければなりません」

「私のチームの初代キャプテンだった廣瀬俊朗選手は最初の2年間で精神的な支柱としてチームの基盤を作ってくれました。しかし大会が近づくにつれ戦術が大きな要素を占めるようになります。キャプテンは常にフィールドにいなければなりません」

「後任にリーチ・マイケル選手を指名したのはこのためです。リーチは15年大会でも期待に応えてくれましたが、さらに日本大会では出場20カ国中、最高のキャプテンになりましたよね。起用に間違いはありませんでした」

「経営者も同じでしょうが、最高指揮官として人材の配置が最も難しい。監督業を25年やっていますがいつも苦悩します。もう6年前になりますが、府中のタリーズに一人廣瀬を呼んでキャプテン交代を告げたときのことは忘れられません。ものすごく落ち込んでいました。当然です」

「しかし『チームのため』という思いを丁寧に説明し、彼は受け入れてくれました。彼は稀有な人格者です。そうでなければ、そもそも初代キャプテンに選んでいません。(俳優業など)今の多方面での活躍は納得ですし、私としても嬉しい」

――ラグビー日本代表が、日本人、外国人、そして外国出身の日本国籍取得者の混成チームであることも注目を集めました。

「ダイバーシティー(多様性)の大切さを端的に示していると思います。それは突き詰めれば、人それぞれに異なる意見や経験を尊重し、受け入れること。そのことがチームや組織、そして社会を確実に強くし、良くするからです」

――あなた自身がダイバーシティーやグローバルを象徴する存在では?

「母親は日系アメリカ人2世です。米国からオーストラリアに移住し、オーストラリア人である父と家庭を作りました。いわばアウトサイダーです。私自身もハーフという生い立ちもあり、常に海外の文化とその多様性に関心がありました」

「だから日本や英国、南アフリカと住まいを点々とする今の人生にも苦労を感じません。ただしその点は私の妻(ヒロコ夫人)が1枚上。若いときに群馬県から単身飛び出し、オーストラリアで私と出会ってくれたからです」

――一方で、米トランプ政権の自国第一主義や英国の欧州連合(EU)離脱などグローバル化に逆行する流れも強まっています。

「振り子のような現象だと捉えています。急速なグローバル化が進んだことによる揺り戻しが起きています。外からきた人間に独自の文化が脅かされるのではないかという過剰な警戒心が芽生えています。でも振り子はまた振れるはずです。インターネットなどを通じて、世界の結びつきが強まるグローバル化の流れは変わりようがありません」

――日本製鉄の進藤孝生会長(一橋大)、三井住友銀行の故宿沢広朗専務(早大)、ゴールドマン・サックス日本証券の持田昌典社長(慶大)ら、有力経営者を輩出してきたのは日本ラグビーの特徴です。

「日本ラグビーの歴史をひもとけば、有力な大学伝統校を軸に発展してきた経緯があります。ラグビー経験者がビジネス界で活躍していることに意外感はありません」

「さらにラグビーは1チーム15人とプレーヤーの数が多く、極めて複雑なスポーツです。さまざまなポジションとそれぞれ果たすべき役割があり、その力をどのように結集して最大化するか。経営につながる面があるのかもしれません」

――日本企業や企業人への助言はありますか。

「経営者には明確なビジョンを掲げ、その実現に向けて旧態依然にとどまらない大胆な戦略を打ち出してほしい。日本企業にはかつてほどの元気がないように見えます。失うものが何もない戦後のゼロから出発したかつての企業人の、大胆な発想や経営が日本経済の再建につながったはずです」

「シャチョー(社長)やブチョー(部長)の目を気にしたような、日本の会社員の長時間労働には違和感がありました。ラグビーの練習も同じですが、問われているのは時間の長さではなく中身と成果です。長時間労働とハードワークは似て非なるものなのです」

(聞き手は編集委員 佐藤大和氏)

エディー・ジョーンズ(Eddie Jones) 1960年、豪タスマニア州生まれ。現役時代のポジションはスクラム最前列のフッカー。ニューサウスウェールズ州代表などで活躍したが、国の代表入りは果たせなかった。引退後の1995年に東海大学のコーチとして来日。2001年豪州代表監督(03年W杯準優勝)、07年南アフリカ代表テクニカルアドバイザー(07年W杯優勝)、12年日本代表監督(15年W杯グループリーグ敗退、初の3勝)。15年イングランド代表監督(19年W杯準優勝)。家族は夫人と1女。

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