自由・多様性、未来への礎
資本主義のどこに問題があるのか。取材班は国内外の経済学者や企業人など50人ほどに問い続けた。見えてきたのは、ゆりかごにもなってきた民主主義のきしみだ。2020年の今、資本主義の未来に向けた新たな挑戦が始まる。

危うい持続性

「私と妻を含め金持ちはもっと税金を払うべきだ」。マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏は昨年末、自身のブログで訴えた。米政府は労働所得への課税に過度に依存しているとして、株式など資産課税を重くするよう提案した。


競争の勝者とされる米国の大富豪たちが「資本主義の危機」を唱え始めている。共通するのは、富める者に富が集中する今の仕組みを改めないと、持続性が危うくなるという主張だ。


資本主義のどこに問題があるのか。取材班は国内外の経済学者や企業人など50人ほどに問い続けた。


「経済はグローバル化しているのに、政治が反グローバリズムに傾いている」(小林喜光三菱ケミカルホールディングス会長)


「デジタル時代の富の分配が洗練されていない」(アルン・スンドララジャン米ニューヨーク大教授)


仕組みづくり後手

資本主義の逆境の根底を探ると、民主主義のありように行き着く。ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭や巨大IT(情報技術)企業への情報の集中が意思決定をゆがめ、新しい仕組みづくりが後手に回る。


いち早く資本主義を開花させた英国では、個人の人権や自由をうたう「権利の章典」が17世紀末に定められ、産業革命の下地になった。岡崎哲二東大教授は自由や多様性といった「民主主義の価値観が資本主義を育んできた」と語る。


だが資本主義と民主主義は時に緊張をはらむ歴史を歩んできた。資本主義が行き過ぎれば格差を招いて平等が危うくなり、民主主義が揺らげばポピュリズムを招いて市場原理に反した保護主義を生む。私たちが目にしているのは、両者のきしみが共振する世界だ。


逃げ出す香港人

大規模な抗議活動が続く香港。医師の張清林さん(27)はこの春にも英国などへ移住するという。「恐怖のなかで生きるのか、自分の生活を楽しむために努力するかのどちらを選ぶかだ」


香港ではビザに必要な書類申請が急増する

香港警察によると、ビザ取得に必要な「無犯罪証明書」の申請件数は2019年11月に3460件と前年同月から9割増えた。


米高度人材ビザは申請却下の割合が高まっている

米国ではトランプ政権の誕生以降、世界から人材を集める力が弱まっている。国外のIT技術者らを受け入れる「H1Bビザ」の審査が厳しくなり、米シンクタンクのNFAPによると、18年10月から19年6月までに24%が拒否された。香港と米国を起点とする新たな人の流れは、民主主義の価値観が脅かされ、経済の基盤すら危うくなりかねない現実を映し出す。


社会像、AIが可視化

未来への手掛かりはどこにあるのか。大和総研が177の国と地域の経済的な自由度と1人当たり国内総生産(GDP)の関係を調べたところ、労働や貿易、投資などが自由にできるほど人々の豊かさは増す。


経済的自由度と生活水準は正の相関関係

さらに、日立製作所と京都大が開発した人工知能(AI)は、「失業率」や「豊かさ」といった149の要因から2万通りの未来図を描き、50年の持続可能な社会像を導き出した。浮かび上がったのは「利他的行動」や「道徳性」などのキーワード。アダム・スミスの時代に「見えざる手」とされた経済や社会の原動力がAIによって可視化される。


乗り越える課題は山積しているとはいえ、この先も資本主義に代わる選択肢はない。自由で多様性に富んだ資本主義の再生へ。次代に向けた模索の道が続く。


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