グーグルやアップルなど米国の巨大IT(情報技術)企業が相次ぎ本格参入し、地殻変動が起きつつあるゲーム業界。近年は拡張現実(AR)や次世代通信規格「5G」などの新技術もゲームを起点に広がる。ゲームはどう進化して、産業や人々の行動を変えていくのか。任天堂の古川俊太郎社長に聞いた。


 古川俊太郎氏 1972年生まれ。94年早大政経卒、任天堂入社。
2012年ポケモン社外取締役、15年任天堂経営企画室長、16年取締役。経理部門が長く、ドイツにある欧州統括会社に約10年間駐在し、海外経験も豊富。東京都出身。

――5GやARなど、最先端の技術がゲームを通じて次々と実用化されています。

「新しいテクノロジーは世の中に先駆けてゲームで採用されてきた。長い年月を経て、ビデオゲームで遊んだ人が子供から親になっている。昔は子供しかやらなかったゲームが幅広い世代に広がってきた結果だ」


「『ポケモンGO』はARを使って、あちこちに登場するキャラクターを収集するために、老若男女が街中に繰り出す社会現象を生んだ。『初めてやったけど、これは面白い』という経験を多くの人に与えるゲームは、人の行動すら変えてしまう力を持つ」


――動画や音楽などコンテンツの枠を超えた競争が始まっています。

「今に始まったことではない。ゲームは生活必需品ではなく、いつお客さんが離れてもおかしくない、と私が入社したときからずっと言われ続けてきた。その危機感は常に持ち、ゲーム、エンターテインメントビジネスの宿命だと思っている。その意味ではとても厳しいビジネスだ」


「遊ぶ手段が乱立し、消費者の限られた時間を巡る時間の奪い合いの競争が激しくなっている。ゲームはその競争に対応しながら、今後もイノベーションを生み続ける必要がある」


――ゲームはイノベーションを生むゆりかごであり続けられますか。

「イノベーションとは、多くの人が常識で考えて不可能だと思うことが可能になることだ。常に『不可能が可能になるものがないか』と自問することが大切だ。『こんな遊びは技術的に不可能だ』と思っていたことが、何らかのアイデアで可能になった時に人々を驚かすことができる」


「皆さんが想像するゲームの枠を超えた取り組みはさらに増える。『Wii』のように体を動かしヘルスケアに寄与するゲームや、記憶力を鍛える実用系のゲームも生まれた。多くのお客さんに遊んでもらえる題材をゲーム機と組み合わせて、何ができるか突き詰めていった結果だ。『これは面白いぞ』というものが見つかったら、とにかく踏み込んでいく。そうすればイノベーションが生まれるときがある」


――技術でゲームはどう変わっていきますか。

「新しいテクノロジーが登場した時に最も大切なことは、ユーザーのゲーム体験の質がどう変わるかだ。ゲーム自体が面白くて、新しくて、驚きを与えることができるかがとても重要だ。技術的な環境がどうあれ、ゲームを開発する側はまず、消費者が手に取って遊びたいと思えるようなコンテンツを作る。その後でそれに役立つテクノロジーであれば、採用する」


「ゲーム人口の裾野は広く、ゲームで受け入れられたテクノロジーはほかにも普及しやすい。例えば、タッチスクリーンは『ニンテンドーDS』で使われた後にスマートフォンに広がった」


――スマホなど様々な端末で遊べるグーグルのクラウドゲーム「スタディア」が始まりました。

「グーグルみたいな大きな会社が参入すると、ゲーム業界が注目されるし、新しいテクノロジーがもたらされる可能性がある。ユーザーの体験の幅も広がる。様々な会社が切磋琢磨して、ゲーム産業の全体が盛り上がっていくのは歓迎だ」


■テクノロジーより独創性

――クラウドゲームの登場によって、「ニンテンドースイッチ」のような数万円する高額な専用機の存在感が薄れてしまいませんか。


「10年先にクラウドゲームが大きな人気を呼ぶ可能性はある。だが専用機がなくなると現時点では思わない。結論が出るのはかなり先の話だ。逆に、専用機でしかできない遊びを必死で磨かなければ意味がない。ほかのゲーム機やスマホで遊べるからいいじゃない、となったらおしまいだ」


――専用機の成功で、新分野に出遅れる「イノベーションのジレンマ」に陥っているのでは。

「一番のこだわりは、独創的な新しい遊びをつくることであり、ハードづくりではない。現時点で目指す独創的な遊びは、ハードとソフトを一体開発する体制だからこそ生み出せている。同じビルの中でハードとソフトの開発者が顔をつきあわせてベストの体験を作ることができるように考えているからだ」


――ゲームに本格参入したアップルはARに注力するなど、米企業は新技術の採用に積極的です。

「誤解してほしくないのは、我々は新しいテクノロジーに後ろ向きなわけではないということ。常に研究開発もしている。これまでも世の中にある新しいテクノロジーをハードの開発部隊が見つけてきて、ソフトの開発者たちと一緒に話して『このゲームに使えそう』と判断したら、採用してきた。これからも基本的な枠組みは変わらない」


「ARも当然、関心がある分野の一つだ。何か面白いことができないか、研究している」


――多額の賞金が売りの「eスポーツ」が話題を呼んでいます。任天堂も手がけますが、賞金はなく新潮流に乗り遅れた印象があります。

「eスポーツはプレーヤーが賞金を巡りステージで競い、その様子を観客が見て楽しむ。ビデオゲームの素晴らしい魅力の一つを打ち出せている。ただ対抗意識はない。当社のゲームは経験、性別、世代を問わず、幅広く遊んでもらうため、イベントも幅広く参加できるものにしたい。賞金の多寡ではなく、他社とは違った世界観ができているのが我々の強みだ」


■高額報酬競争とは距離

――イノベーションを生む人材を確保するため、高額報酬を提示する競争が広がっています。

「当然の流れだ。優秀な人材の確保はこれからますます厳しくなるのは間違いない。ただ当社はその競争には乗らない」


「世界中の顧客から『子供のころ遊んでました。今も子供とゲームで遊んでいます』などの声を聞く機会があるのは当社で働いているからこそ。そこに魅力を感じて門をたたく人に入ってもらいたい。会社で働くのはそれなりの時間費やすことになり、理念に共感することが重要だ。驚きのあるゲームを生み出す原動力はそこにある」


――今後も開発者が頑張らないと任天堂の魅力は保てません。どのように接していますか。

「開発者たちは貪欲に『ユーザーにこういう風に楽しんでもらえるのではないか』と頑張っている。彼らが自由にやれる環境をしっかり維持しつつ、会社を経営していくのが一番重要だ」


――あえて具体的に口出ししないと。

「もちろん中身に関してはしない。作る過程で、開発部門の出身ではない私が口出しすることは何の付加価値もない。任せるところはしっかりとその道のプロに任せる」


――任天堂は海外でイノベーションを生み出してきた日本企業の代表格ともいわれます。人口減の日本をどうみますか。

「日本市場の重要性は変わらない。ただ、少子高齢化は進んでいくので幅広い世代に受ける商品作りが大切だ。それであれば日本市場がどう変わろうが、多くの方に受け入れられる」


――国内市場は縮小しそうです。

「普通に考えたらそうだが、当社は既に連結売上高の7割超を海外が占める。まだリーチできていない市場での努力がより必要になっていく」


――自身もゲームでよく遊ぶそうですね。お気に入りのタイトルは。

「最近は(携帯型の)『スイッチライト』向けに出たポケモンの新作だ。ゲーム内でキャラクターを収集するのが好きなんで」


聞き手から 実務家トップ 変化読めるか


2018年に社長に就任した古川俊太郎氏は47歳。50〜60代が多い日本の大企業の経営者の中では若いが、任天堂では珍しくない。岩田聡元社長の急逝で緊急登板となった君島達己前社長(当時65)を除き、任天堂はこれまで当時22歳だった創業家の山内溥氏、同42歳の岩田氏と歴代若きトップが就いてきた。「長く経営を見られる人」(関係者)に経営を任せるのが、同社の流儀となっている。

 

開発陣の発言力が強いとされる任天堂の中で古川氏の経歴は異色だ。入社後、一貫して経理畑を歩む。ドイツにある欧州統括会社の駐在時に、経営管理能力の高さに目をつけた岩田氏が日本に呼び寄せた。社長就任の直前は経営企画室長として、全般に目を光らせてきた。

 

古川氏の持論は「娯楽産業には天国と地獄しかない」だ。開発者とは一線を画す実務家社長として矢継ぎ早に手を打ち、連結売上高の9割以上を占めるゲーム機の好不調が業績の乱高下を生む収益構造の改善に取り組んできた。  成果は表れ始めている。サブスクリプション(継続課金)収入の確保を目指し、18年9月に始めた定額制のオンラインゲームサービスの利用者は1000万人以上(19年6月時点)に達した。「スーパーマリオ」などの人気キャラを活用し、テーマパークや映画などにも事業領域を広げ、収益源の多様化を進める。

 

一方で競争環境は激変している。巨額の研究開発費を充てられるグーグルやアップルといった巨大IT企業がゲーム市場に本格参入するなか、テクノロジーの勝負では限界がある。古川社長は任天堂の課題を「『独創性』や『面白さ』の創出だ」と説く。最大の強みである、独創的なゲームやキャラクターを作り続ける力こそが今後も生命線だと認識しているからだろう。

 

コンテンツが魅力的である限り、事業のパートナーに名乗り出る企業は多い。「非開発畑」出身のトップが導くゲーム産業の未来は一にも二にもソフトの開発力にかかっている。


(川崎なつ美)

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