通信販売大手ジャパネットたかた。前社長の高田明氏はテレビ通販王国を一代で築き、お茶の間の人気者ともなりました。朝から晩までテレビカメラの前に立ち続け、「伝える」ということを追究してきた高田氏。2004年3月の顧客情報流出事件では、番組の放映を長期自粛。150億円もの減収となりましたが、その対応は「危機管理のお手本」と称されました。なぜ、そんな振る舞いができたのか。舞台裏を赤裸々に明かします。


◇   ◇   ◇

前回「いま明かす、顧客情報流出事件を防げなかった理由」でもお話ししましたが、企業に何か問題が起こった時は、真っ先に経営理念や社是といった原点に還(かえ)るべきだと思います。ジャパネットで個人情報の流出事件が起こった時も私は「原点に還ろう」というメッセージを社員に発し続けました。企業は公器として社会に向き合うと同時に、社員、その家族の人生をある意味、預かっているのですから、会社を潰すわけにはいきません。あの時はこれまで頑張って築き上げてきたものを一度、ゼロに戻していいとは思っていました。ゼロから新たにスタートすればいいと。


販売自粛49日間 問題をはぐらかさない
事件発生をうけて、「原点に還ろう」と社員に訴えた(写真は1986年に開業した1号店「三川内店」) 販売自粛は49日に及び、最終的には150億円くらいの減収になりました。しかし、私は「支持してくださるお客さんに多大なご迷惑をお掛けしたのだから自粛は当然」という思いでした。

問題をはぐらかしながら商売はできません。とにかく問題の原因を突き止めて二度と顧客に迷惑をかけないようにする――。企業として経営者として説明責任を果たす――。それが妻と佐世保の小さなカメラ店からスタートした創業当初からの基本姿勢だったからです。


世の中の人のために企業が成り立っていく中で人のためにならないことが現に起こっているのだから、それはいくら費用がかかっても問題を解決することが企業が果たさなければならないものの優先順位の一番に来るということです。


そうした思いは創業以来、私も妻も共有していました。不祥事が起きた時は、社是、経営理念に立ち返ることで、正しい判断ができると思うのです。私はそういう気持ちで社員たちと一緒に創業時からやってきましたから、あの時、その判断をさせてもらったことが一番良かったなと。


それが、「いやいや、もう番組も収録しているのだからテレビを止められない」とか「お金がかかりすぎる」といった我見で判断していたら、ジャパネットはとうに消えていたでしょう。常に何かあった時は理念に戻ってみる、そこで企業がどういう結論を出すかという答えはおのずと決まってくる気がします。


この事件の後、以前ご紹介した企業理念のクレド(信条)を作ったのも、私どもの考えをより全社に浸透させようという考えからです。皆でクレドを考え、作っていきました。


クレドをジャパネットの社員は常に携帯する(写真は歴代のクレド) 事件とその後のジャパネットの業績を振り返ってみましょう。 事件前の2003年の売上高は705億円でした。事件が起こった04年は663億円に減りました。事件がなかったら多分800億円を超えていたでしょう。体制を見直し再スタートした05年には906億円になりました。900億円を超えたというのは、お客様に対して感謝の言葉しかないです。

取引先やメーカーさんにもおわびに行きました。関係者の皆様のご支援により乗り切ることができたと思っています。企業というのはそうした様々なステークホルダー(利害関係者)の期待に応えていく責任があります。その取り組みの中から「クレド」ができたことは良かったと思っています。

100年続く会社、世間から認められる企業であり続けるために

「出世ナビ」の連載の最初に申しましたが、100年続く会社、世間から認められる企業であり続けるために、私は息子の旭人に社長を譲りました。ジャパネットたかたという社名は私が付けましたが、もはや高田明の個人商店ではありません。実際、現体制では持ち株会社のジャパネットホールディングスがあり、その下に7つの子会社がぶら下がっています。「たかた」という名を冠しているのは、バイヤーと各媒体の制作・企画をする部署がいる「ジャパネットたかた」だけで、残りの6社は「ジャパネット〜」という社名です。


だから、これから生まれてくる人たちは近い将来、テレビで通販番組を視聴して「ジャパネットたかた」ではなく、「ジャパネット」としてイメージする日も近いでしょう。どんどん「個」のイメージのある「たかた」が後退していって、「ジャパネット」として世の中に貢献する企業に脱皮すればいいのだと思います。ただ、番組でも流す歌が、♪ジャパネット、ジャパネット、夢のジャパネットたかた♪ ですから、そこを変えるのはちょっと難しい(笑)。


高田明氏(右)は長男の旭人氏(左)にトップを譲った(2014年の記者会見) 私が社長の時も一度、「たかたを取ろうか」という話が浮上したのですが、歌詞をどうするか皆で話し合ったことがあります。ジャパネットたかた改め、「ジャパネットたかか」とも言えないし(編集部注:「たかか」は九州弁で「高い!」の意味)。そういうこともあって、「たかた」が1社だけ残っているということなのでしょうね。



だから、ジャパネットは高田明個人の会社ではとうにないし、個人の力でやっていくわけではないのです。企業というのは社会の公器として、信頼を背景にお客様との信頼関係を作るわけです。


例えば、ソニーもソニーという名前の会社がお客様と向き合っている。創業者の名前はありません。松下幸之助さんが興した松下電器産業も今ではパナソニックに社名が変わりました。ジャパネットもそういう方向に向かっています。企業として世の中に責任を果たし続けられて初めて100年、200年と続く会社になる。情報漏洩事件はそんな信頼関係を自ら壊してしまった。あの時、販売自粛を決めて、原点に戻ろうとした判断は間違っていないと思います。


ただ、誤解していただきたくないのは、情報漏洩事件での私の対応を決して「美しい形」として、美談として取り上げてもらってはいけないのです。50万件もの情報が流出し、顧客に迷惑をかけた。その責任をジャパネットは企業としてずっと背負ってお客様に向き合っていかなければいけない。やっぱり、何ていうか……。「生き方」でしょうね。自分がどう生きるか、企業はどういう使命を負って生きていくか、ということが人間の使命であり、企業としての責任だろうと思います。


高田明(たかた・あきら) 1971年大阪経済大経卒。機械メーカーを経て、74年実家が経営するカメラ店に入社。86年にジャパネットたかたの前身の「たかた」を設立し社長。99年現社名に変更。2015年1月社長退任。16年1月テレビ通販番組のレギュラー出演を終える。長崎県出身。68歳

(シニア・エディター 木ノ内敏久氏)


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