左からEYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの小野裕輝、経団連の長谷川知子の両氏

グローバル化や技術革新をリードできる人材を、社会が一体となって育てる。その意識は大学、企業ともに共通である。現在の新卒採用の現状から、企業と大学の協業の可能性を識者に聞く。

採用難により、企業は採用の多様化を進める

今、多くの企業は採用難を実感しているのではないか。EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの小野裕輝氏は、企業から採用に関する悩みをしばしば聞かされている。「顧客企業から、『いい人が採れない』『優秀な人から辞める』と、よく相談を受けます。採用難を起こす要因は、採用時に学生と企業の間にミスマッチがあることに尽きます。新卒一括採用という手法に限界を感じている企業も多いでしょう」

優秀な人材を採用しづらくなったことで、企業は今、採用の多様化に踏み切っている。通年採用を導入して既卒者やグローバル人材も受け入れやすくする、社員などの紹介・推薦による「リファラル採用」で、社風に合った人材の確保を目指すなどの取り組みは、今後さらに増えていきそうだ。

また、日本企業が行ってきた『ポテンシャル採用』は、未経験者を受け入れて戦力化することで、若年層の就業率アップに貢献してきた。しかし、現在はそれと並行してジョブ型採用を行う企業も増えている。専門人材へのニーズの高まりや、個人の志向や働き方の多様化に合わせることは、人手不足を実感する企業にとっては喫緊の課題となっているようだ。

「新卒一括採用という手法には、採用効率の良さというメリットがあります。ただし、海外の経験を積んだ優秀な学生など、多様な人材を採りづらい短所もあります。今後、企業は自社の戦略に合わせ、複数の採用手法を柔軟に組み合わせる時代になるのではないでしょうか」(小野氏)

企業と学生の間には「意識の差」が存在

このように企業側は人材難を乗り切るため、採用の多様化に舵を切っている。一方の学生の状況を見てみよう。小野氏は、学生生活の内容自体において学生と企業の期待値に差があることを指摘する。EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングが19年7月に発表した『「採用選考に関する指針」(就活ルール)変更に際した調査と将来の採用トレンドに関する考察』によれば、学生の約4割は大学生活でアルバイトに力を入れたと答えた。これに対し、アルバイト経験を重視する企業は2割強に過ぎない(図1参照)。


「また、企業がビジネススキルの習得に力を入れた学生を評価する傾向も出てきました。これは、多くの企業が即戦力を求めていることの表れだと思います。ところが、この領域に力を入れた学生は決して多くありません。また、社会貢献活動や海外留学の項目でもギャップは大きい」(小野氏)。学生たちは企業が求める学生像を理解できずに学生生活を送っているとも言える。

学生時代の積極的な活動が入社後のキャリアに影響

採用後にも課題はある。小野氏は若手の「やりたいこと」を重視すべきだと指摘する。「昔の若者は、『自分にできることを生かして働く』ことに疑問をもちませんでした。ところが、今の若者は違います。自らのスキルや経験を生かせる仕事でも、己のやりたいこととずれがあれば、辞めてしまいます。確かに企業は若手をリテンションするため、社員のスキル・経験と仕事がマッチするように務めているでしょう。しかしそれだけでは不十分。今は各自のやりたいことを可視化し、それを含めたマッチングを考えなければ社員は引き留められません」(小野氏)

ここでカギ握るのが、インターンシップなど卒業後の進路を考える手がかりとなる活動だ。インターンシップ、海外留学、ボランティア活動、専門分野の研究など、学生時代に積極的に知見を広げる活動をした人ほど、良い初期キャリアを獲得しているというデータもあり、その中でもインターンシップの影響は大きい(図2参照)。インターンシップは、就業観を育て、学生にとってより納得感の高い就職先を選ぶことにつながる。その結果、就業後は与えられた仕事に打ち込み、実力を向上させられるというわけだ。


「ジャカルタでは、大学1年生のころからインターンシップを行い、4年間かけてじっくり企業について学ぶケースがあります。そして、卒業と同時にリーダークラスとして入社し、すぐに活躍するのです。企業はインターンシップの取り組みをさらに強化する必要があります」(小野氏)

そうすれば、学生は「将来働くため、今、何を学ぶべきか」という目的意識が強まるだろう。そして、自らのキャリアを自力で築こうという態度が醸成され、働く側と企業とのミスマッチも激減するはずだ。

産学で模索する新時代の人材像とは

学生に「働くために何を学ぶか」というマインドセットをつくるには、国や産業界からメッセージを出すことが有効だと、小野氏は指摘する。

「例えばインドでは、国全体でIT人材の育成を目指しています。また、シンガポールでは『わが国のホワイトカラーはシンガポール人が担う』と宣言しています。こうした方針が明確にされると、学生は『私が歩むべきキャリアとは何か』『そのためには何を学べばいいか』という意識が高まるでしょう」(小野氏)

そこで今、注目されているのが、日本経済団体連合会(以下「経団連」)が発信するメッセージである。経団連は2018年11月、提言「Society5・0― ともに創造する未来―」を公表。この提言で中心的な概念として提示されている狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5段階目の社会である「Society5・0」。具体的には、デジタル革新と多様な人々の想像・創造力が融合した「創造社会」を指す。

経済のグローバル化とデジタル革新が急速に進み、社会が新たな段階に突入しようとしている今、企業が求める人材像はどのように変わるのだろうか。経団連の長谷川知子氏が挙げたのは、「課題発見・解決力」だ(図3参照)。


「私たちが暮らすこの世界には、大小さまざまな課題が存在しています。それらの解決法を編み出すことは、企業にとってビジネスチャンスでもあるのです。来たる時代の企業では、定型業務を正確にこなすような人より、AIやIoT、ビッグデータなどを使って社会的な課題を見いだし、うまく解決する能力の持ち主が求められていくでしょう。

こうした動きは日本だけに限ったことではありません。世界中の経済・環境問題などを発見・解決できれば、国連が掲げる『SDGs(持続可能な開発目標)』の実現も適います」(長谷川氏)

経団連の中西宏明会長は18年10月の定例記者会見で、21年春入社以降の学生について採用・選考指針を策定しないと発表した。ニュースでは採用日程の早期化などが話題になったが、経団連が強調したいのはそこではないという。「今後必要な人材を育てるため、大学は何を教えるのか。同時に、大学が育てた学生を企業はどう評価し、彼らにどんなキャリアパスを用意するのか。それらについて、大学と産業界が直接話し合うことが重要です。また、今後の日本では企業から命じられたキャリアを歩むのではなく、一人ひとりが己のキャリアを管理し、自らスキルアップを目指す必要があるでしょう。その際、大学は学生に対し、どのようなキャリア教育を行うか。そして、企業は社員をどう支援するのか打ち出すことも必要になるはずです」(長谷川氏)

経団連と大学は19年1月、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」を設立。経団連と大学側が継続的に対話し、採用と大学教育などに関して議論を深めるための組織だ。19年4月には時代に求められる人材と大学教育、インターンシップのあり方などについて言及した「中間とりまとめと共同提言」を発表。未来社会に向けて一斉に舵を切り、日本全体を盛り上げるためには、企業と大学が手を取り合って人材育成に向けた方策を模索する必要があるというのが、経団連の問題意識なのである。

大学と産業界とのさらなる連携がカギ

こうしたなか、次世代人材育成のため大学には何が求められるだろうか。小野氏が挙げるのは次の2つだ。

「1つめは、学生に対して『できること』の選択肢を増やすことです。学業を大事にしてもらうのは当然ですが、スキル習得などにも目を向けさせたい。企業は競争力を維持するため、今後も即戦力の人材を求め続けるでしょう。そうした現実に対し、語学力やビジネススキルなどを高めるよう、学生に意識づけてほしいのです。

もう1つは、学生が本当にやりたいことをみつける手伝いをすること。インターンシップや留学などの機会を増やし、職業観や生きる目的などについて考えさせる取り組みを増やすことです」

大学は学生が学修経験の中で、社会に出て活躍できる力をつけるための支援が重要。高い目標を超えるために必死に考え行動する経験こそ、社会で対峙する答えのない問いに向き合い、解を導いていく力になると言えるだろう。

小野裕輝氏
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
外資系コンサルティング会社を経て現職。一貫して組織・人事コンサルティングに従事。2014〜2018年にはシンガポールに出向し、アジア全域の日系企業を支援。
長谷川知子氏
一般社団法人日本経済団体連合会SDGs本部長
企業・社会本部(企業倫理、CSR担当)、国際経済本部(北米、豪州・オセアニア、CSR担当)等を経て、2017年4月より現職。
Text:白谷輝英 Illustration:NOBUE MIYAZAKI & TOMOE MIYAZAKI(STOMACHACHE)


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