スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんや石炭火力発電を手放せない日本の窮地が大きく報じられた昨年12月の第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)。開催地マドリードに赴き、温暖化対策の協議を見つめた日本側の出席者は「議論のトーンを決めていたのは中国とインドだった」と振り返る。



作られたルールを外から押しつけられることを嫌い、とにかく活発に主張するインドに対し、黙って聞いている中国は要所とみれば断固とした調子で途上国や新興国の立場を押し出す。人口で当面は世界の先頭を走る二大国に、視線が集まるのは自然だろう。


会議の真ん中に居た小泉進次郎環境相の見立ては少し違い「派閥によく似ていた」と語る。中印、欧州、アジア、南米、水没の危機に直面する島しょ国など「派閥」をなす勢力はさまざまだが「領袖が決めて終わりではない。『聞いていない』という国がすぐ出てくる」。小泉氏は最終盤、議長国チリのシュミット環境相から「あとはあなたに任せた」と告げられ、国連や関係国の代表と膝詰めの協議を重ねた。COPを舞台にした派閥抗争は議長が役割を放棄し、無残に散会する寸前だった。


2020年は米国が主役となる。11月の大統領選で現職のトランプ氏が負ければ、環境重視に傾く民主党の新しい政権は温暖化対策を各国が競う「パリ協定」の枠組みの復帰へと踏み出すだろう。トランプ氏が続投すれば国際社会の分断は一段と深まり、ただでさえ協調が危ういCOPそのものの無用論すら広がりかねない。


中国はCOPの漂流を見透かすような動きを見せ始めた。日本エネルギー経済研究所の田上貴彦氏は植樹の拡大に注目する。

昨年2月、電子版の科学誌「ネイチャー・サステナビリティー」に、地球の緑地の拡大に中国とインドが寄与しているという内容の記事が掲載された。根拠は00年から17年に米航空宇宙局(NASA)が集めた衛星データだ。米国の学者らの研究グループが拡大した緑地を分析すると、インドは耕地が全体の8割超を占めていたのに対し、中国は4割が森林、耕地は3割でバランスがとれていたという。「緑の万里の長城」といったスローガンで緑化を計画的に進めてきた姿がうかがえる。


田上氏はこうした動きを通じて中国が「緑の貢献」を世界に訴える展開を予想する。折しも中国の国内で温暖化ガスの排出量取引が限定的な規模で近く始まる見通しだ。将来は二酸化炭素(CO2)を吸収する森林を、国際的な排出量取引の原資としてアピールしてくるかもしれない。


日本の戦略はどうか。研究者、経営者、市民の橋渡し役をめざす環境経営学会の後藤敏彦会長は企業、地方自治体、若者の3者に期待を寄せる。


企業の目の色は変わってきた。主要国の金融当局が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)が17年、温暖化が業績や財務内容にどう響くかを明らかにするよう迫った。これを転機だとみる後藤氏によれば、以前は環境対策を強めようとしても「実力派でたたき上げの製造本部長や財務本部長が出てきて議論が止まることが多かった」。環境への意識の高まりから、ちゃぶ台を返す「岩盤取締役」の影は薄くなり、「経営企画や企業の社会的責任(CSR)部門の意見が通りやすくなってきた」と言う。


「脱炭素経営」に向かう流れは強まる。環境省の集計によると、TCFDの原則に賛同する企業の数で日本は首位となり、事業で使う電力を100%再生可能エネルギーに変える取り組み「RE100」の参加数でも3位につける。対応の充実は引き続き求められるものの、いったんフォーマットが固まれば、きちんと合わせる日本企業の生真面目さが浮かぶ。


環境経営学会は昨年8月、自治体や非政府組織(NGO)などに「気候非常事態宣言」で連携を促す声明を出した。温暖化よりも強い言葉で危機的な状況を認め、行動に落とし込む試みだ。欧米やカナダ、オーストラリアなどで宣言する都市や地域が急増してきた。日本でも昨年9月に出した長崎県壱岐市に続き、神奈川県鎌倉市や長野県などが宣言した。小泉環境相は地方や若者からの突き上げをむしろ心待ちにしている。


地道な歩みが目立つ半面、国家が絡むルール作りはこれからが正念場となる。COPが主舞台で、環境に優しい「グリーン投資」の定義づけに動く欧州連合(EU)の作業からも目が離せない。化石燃料や原子力を使う発電の扱いによっては企業や金融機関の戦略の練り直しが迫られる。


環境問題の解決に資するお金をまかなうための債券、グリーンボンドの条件について有力な発行体や投資家らでつくる国際資本市場協会(ICMA、本部はスイス)が検討している。議論に触れた日本の関係者は「金融のプロが集まり、自由に意見をぶつけ合っている。積極的に発信しなければ取り残される」と懸念する。債券の原則を詰める次の年次会合は5月、ニューヨークで開かれる。


グリーンの度合いを決める情報戦は、国際社会の力関係を反映し時に覇権争いの色を帯びる。まずは政官民の意思疎通を良くしてアンテナを高く張り、ルール作りの主戦場に呼ばれるだけの存在感を放つこと。そこに飛び込む勇気も日本には要る。



藤井一明(ふじい・かずあき)


1990年日本経済新聞社入社。経済部、速報部、長野支局、政治部、米州総局で経済政策、金融などを担当。経済解説部長を経て、現在は編集局次長兼経済部長。


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