「年収1000万円で入社しませんか」。最近新卒採用でこうした高額な収入をうたう会社が増えてきた。一部の優秀学生にしか関係ない話と捉えられるかもしれないが、実はそうではない。日本企業で働こうとする就活生、いや既に働いているビジネスパーソン全員にあることを投げかけているのだ。就活探偵団が調べてみた。



今年、回転ずし大手のくら寿司が打ち出した「エグゼクティブ新卒採用」。幹部候補生には新卒でありながら年収1000万円を提示したことで、大きな注目を集めた。同社の有価証券報告書によると、従業員の平均年齢は30.4歳、平均年間給与は約450万円。年収1000万円はこの2倍以上で、外食産業では破格の待遇だ。

■有名大から多数応募

6月から応募を受け付けこれまで約200人の応募があったという。その中には東京大や早稲田大など「これまで少なかった有名大も多数あった」(岡本浩之執行役員)。書類審査やウェブ選考でふるいにかけたほか、途中で辞退する学生もいて、実際に1次選考までたどり着いたのは20人。

就活
応募要件は英語能力テスト「TOEIC」のスコアが800以上。会計知識も必要だという。面接では「発想力や独創力を深掘りして聞いた」(岡本執行役員)。数人に内定を出したという。

同社では店舗の海外展開を強化していてグローバルに働ける人材を欲している。これまでは優秀な店長経験者を異動させたり、中途採用で外部から調達したりして対応してきたが限界があった。

幹部候補生は入社後、店舗に配属される。その後、本社の広報や宣伝などの専門部署でも経験を積み、2〜3年後に海外展開などを手がける花形部署の企画部門に配属されることを目指す。

これとは別に2020年春入社では通常ルートで約200人が入社する。年収に差があると一般で入った同期社員からは妬まれそうだが「妬みをはねのけるような鋼のメンタルを持つような人でなくてはグローバル競争に勝ち抜けない」(岡本執行役員)と話す。



国税庁によると、日本のビジネスパーソンの平均年収は約440万円。年収1000万円を超える人はわずか5%しかいない。日本企業は年功序列が基本のため、新卒学生が含まれる20〜24歳に絞ると267万円にとどまる。

ディスコが学生向けに実施した調査によると、就職先企業を選ぶ際に重視する点(複数回答)として「給与・待遇が良い」を挙げたのは44%と「将来性がある」(48%)に次いで高かった。学生を取材すると「将来、年金がきちんともらえるか不安だから、できるだけ給与の高い会社に入りたい」(私大男子)といった意見が聞かれる。

こうした声に応えるかのように、優秀な学生を確保しようと高額な待遇を打ち出す動きが広がっている。NECはIT人材を確保する目的で、新卒でも学生時代に著名な学会での論文発表などの実績があれば1000万円超の報酬を支給する。

眼鏡専門店のオンデーズ(東京・品川)は一律だった初任給を廃止し、学生時代の接客アルバイトの実績など個々の入社時点の能力や実績を反映させる新たな制度を20年4月に導入。年収は最大で600万円を提示する。20年卒採用では2〜5人が対象になる見通し。

誰もがうらやむ特別枠採用。実際入社する人はどんな人なのか。いち早く制度を取り入れたヤフーを訪ねた。

■常にプレッシャー

田中英太さん(仮名)は「エンジニアスペシャリストコース」という技術職の特別枠で17年に新卒で入社した。年収は一般社員の1.5倍の650万円以上。現在はユーザーのデータを扱う専門部署に所属する。

特別枠の応募資格はプログラミング競技大会で一定の成績を収めていたり、自然言語処理などの分野で論文の発表経験があること。田中さんは国立大大学院出身で、在学中は複数の論文を発表したり、関連イベントに登壇したりして、プログラミングの世界ではちょっとした有名人だった。

就活では海外企業からの誘いもあったが、「ワークライフバランスを重視したい」との思いからヤフーを選択した。

能力が高く評価された故の悩みもあるという。入社後すぐに、先輩が1カ月くらいかかって取り組んでもできなかった課題をやるよう命じられた。「上司の期待値が高くて常にプレッシャーがありますよ」と吐露する。

こうした厚待遇をうたう募集。実は単に学生を「釣る」だけが目的ではない。

日本企業では年功序列や終身雇用を前提とした「メンバーシップ型雇用」が主流だ。職務や勤務地が限定されず、新卒一括採用で大量に人材を獲得。会社が人材を大事に育てる仕組みだ。社員が会社へ忠誠を誓ってくれるため、会社にとっても都合が良かった。

しかし、デジタル化やグローバル化の進展で企業はイノベーションを起こせるような専門性のある人材を求めている。「大学を卒業したばかりの若者をゆっくり育てる時間はない」(大手メーカー)からだ。会社は仕事内容に応じたポストを用意し、優秀な即戦力のある人材を新卒や中途を問わず選別し採用する「ジョブ型雇用」へのシフトが迫られている。能力ある者は評価するが、そうでない者には退場を促す――。「新卒1000万円採用」はこうした日本企業の転換の象徴なのかもしれない。

トヨタ自動車は総合職の採用に占める中途採用の割合を中長期的に5割とすることを決めた。新卒に偏った採用は曲がり角に来ているのは間違いない。企業の人事に詳しいデロイトトーマツグループの古沢哲也パートナーは「近いうち、日本の人事の仕組みは劇的に変わるだろう」と予測する。

平均年収が1000万円を超えるある大手商社に勤務する20代の男性社員は安住していない。将来は留学して経営学修士号(MBA)をとることを視野に入れているという。

「在学中はもちろん、社会人になってからも勉強をし続けなければ、必要とされる人材にはなれない」。自分に「エンプロイアビリティー」(雇われる力)はあるだろうか。そんな点に注目しながら就活を進めてほしい。

(企業報道部 鈴木洋介氏)


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