子育て世帯の経済的負担を減らす幼児教育・保育無償化が10月に始まってから1カ月。2017年秋、安倍晋三首相が衆院解散時に方針を打ち出してから2年で制度設計しただけに急ごしらえの感は否めず、国の要請とは異なる動きも出てきた。保護者に広がる戸惑い。現場で何が起きているのか。

内容同じで値上げ

「保育内容は良くなっていないのに」。東京都世田谷区に住む女性はモヤモヤしている。9月中旬、子供が通う幼稚園が値上げすると知った。10月に教材費と冷暖房費の合計額を月4千円から6千円に引き上げたうえで、保育料も無償化上限額まで値上げするという内容だった。

園は人手不足で行事も縮小。値上げに合わせた保育の見直しはない。補助もあり女性の支出は減ったが、釈然としないという。

国は無償化に際し、質の向上を伴わない保育料引き上げを控えるよう求めていた。だが実際には「便乗値上げが疑われる例が複数報告された」(文部科学省)。東京都によるとここ数年、都内の私立幼稚園は平均0.8〜0.9%値上げしてきたが、今年は4月時点で2.2%と例年より上げ幅が大きかった。

増税もあり、多少の値上げは仕方ない面がある。世田谷区の担当者は「私立の値上げを行政が規制するものでもない」と話す。ポイントは保護者に納得感があるかだが、中央大学の宮本太郎教授は「経営状態が悪い園の延命にならないか」と懸念する。国は10月に入り、妥当性を確認し必要に応じて指導するよう都道府県などに通達した。

別におかず代発生

「なぜ負担が増えるの」。千葉県市川市のこども政策部では10月になっても保護者からの電話が続いた。無償化に伴い市内の認可保育所などに通う3〜5歳児約5千人のうち、約280人の利用料が増額。9月までに負担していた保育料より割高になる「逆転現象」が起きたのだ。

同市は9月まで18歳未満の子が3人以上いる家庭向けに、認可保育施設の保育料を月最大2万5千円独自に減額してきた。例えば5歳になる第3子が保育所に通っている場合、本来2万円の保育料が0円になる、という具合だった。



無償化に伴い、国は3〜5歳児のおかず代を保育料から切り離し、原則保護者が支払う仕組みとした。市川市のケースでは、保育料が0円だった5歳児に、月4500円程度のおかず代が発生する。

市は「幼稚園ではお昼代は保護者負担。施設間の公平性を期す」との立場。国は年収360万円未満の家庭でおかず代を無料にするなど低所得層に目配りした。負担増の家庭が出ないよう自治体に配慮を求めたが、堺市や甲府市などでも2020年度以降、逆転が起こる見通しだ。多子世帯に手厚く補助してきた自治体で制度とのズレが出ている。

質の担保置き去り

「子供の命を危険にさらすのでは」。保育事故の当事者らが集まる「保育の重大事故をなくすネットワーク」共同代表を務める藤井真希さんは今回、保育士配置など一定の基準を満たさない認可外も一律無償化されたことを心配している。

2018年に起きた保育中の死亡事故9件のうち、6件は認可外だ。団体では今夏、認可外の安全対策について自治体に調査。276自治体のなかで、基準外の認可外を無償化の対象にしないなど何らかの安全確保に取り組む考えを示したのは72自治体にとどまった。

認可に入れられず、苦渋の選択として通わせている家庭もある。甲南大の前田正子教授は「認可外の質を担保する仕組みをつくらないまま、見切り発車してしまった」と危惧する。認可外の安全監査を担うのは都道府県などの自治体。専門知識を持つ人員の配置や育成など体制充実が急務だ。

(天野由輝子氏)


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