「象徴」焼失 傷心の沖縄 出火当時、無人か 正殿内部から次々延焼

那覇市の首里城で31日未明に発生した火災では、「正殿」の内部で上がったとみられる火の手が周囲の建物へと次々に燃え広がり、正殿や「北殿」など少なくとも約4200平方メートルを焼いた。「沖縄の誇りそのもの」ともいわれるシンボルの焼失に、県民らは深い悲しみと喪失感に包まれた。

首里城の火災で、火元とみられる正殿内部は出火当時、無人だった可能性が高いことが同日、沖縄県警などへの取材で分かった。正殿にはスプリンクラーが設置されず、火災は正殿から周囲の建物に次々と延焼。鎮火まで11時間にわたり激しく炎上した。県警は11月1日に実況見分し、出火原因を調べる。

県警や消防などによると、火災は31日午前2時40分ごろ発生。火災報知設備が反応し、警備員が正殿内部から煙が上がっているのを目撃したという。

その後、現場に駆けつけた消防隊員が正殿に向かって左側から炎が上がり、正殿から「北殿」や「南殿」に燃え移るのを確認した。

その後、火は近接する「黄金御殿」などの建物にも延焼し、同日午後1時半ごろ沈下するまでに計7棟を焼いた。

現場付近では31日午前1時半ごろまで、琉球王国時代の儀式などを再現する「首里城祭」の準備で関係者が作業していた。出火当時、正殿内部は無人だったとみられ、正殿につながる門も全て施錠されていたという。国営首里城公園を管理する法人の職員は、この日の準備作業では火を使っていないと説明している。

消防によると、首里城は文化財保護法上の文化財に指定されておらず、同法に基づくスプリンクラーの設置義務はない。消防法上、設置義務がある病院や大型施設などにも該当しないという。

正殿には軒から水をカーテンのように放出し、外側からの延焼を防ぐ「ドレンチャー」という設備は設置されていたが、延焼防止に役立ったかどうかは不明という。

首里城には木造の建物が多く、31日未明は周囲に強い北風が吹いていたため、風にあおられて火が一気に燃え広がったとみられる。



琉球王国の歴史や文化を今に伝えていた首里城(那覇市)の正殿が火災により全焼した。戦争で破壊された後、沖縄県民の強い思いを受けて復元され、沖縄のシンボルとなっていた。政府や県は速やかに再建する方針を示しているが、主要な建造物7棟が焼失し、元の姿に戻すには長い時間を要する可能性もある。


木造3階建ての正殿は、琉球王国で国王が政治や儀式を執り行った最も重要な建物。古文書の改修記録や戦前の写真、住民の証言や遺構調査の結果などを基に琉球史の研究者らが考証を重ね、屋根にある龍の飾り、黄色がかった朱色の外壁など、18世紀ごろの姿を再現していた。

焼失した建物内には、琉球王国時代から伝わる絵画や工芸品も収蔵されていた。

城内の石垣や正殿に至る階段などの遺構は琉球王国当時の状態で残っており、2000年に首里城跡を含む「琉球王国のグスク及び関連遺産群」が世界遺産に登録された。文化庁は「火災によって損傷している可能性がある」として調査官4人を現地に派遣した。

戦前に正殿は国宝に指定されていたが、1945年、沖縄戦での米軍の砲撃などによって首里城は焼失した。再建を望む県民の声を受け、政府は1986年、沖縄の本土復帰を記念する国営公園整備事業として復元することを決定した。

89年から始まった工事には宮大工、漆職人などが携わり、本土復帰20周年に当たる1992年に正殿などが完成して首里城公園が開園した。その後も園内の整備は続き、2019年1月、30年に及ぶ復元工事が全て完了したばかりだった。

復元計画に初期から関わった元沖縄県副知事の高良倉吉・琉球大名誉教授(琉球史)は「沖縄独自の歴史や文化を形として示す首里城は県民のアイデンティティーの基礎となっている」と強調。「前回の復元工事によって資料や人材は蓄積されたが、数年で再建できるものではないだろう」と話す。

内閣府沖縄総合事務局によると、首里城公園には18年度に約281万人が訪れ、開園した1992年度(約111万人)の約2.5倍になった。2020年東京五輪の聖火リレーのコースにもなっていた。

首里城公園の所有権は国が持っており、2019年2月から運営を沖縄県に移管した。県から指定を受けた一般財団法人「沖縄美ら島財団」が管理している。正殿などの再建計画や財源は今後検討されることになる。

歴史的建造物の保存や修復に詳しい工学院大の後藤治教授は「復元にあたっては資材や職人の手配、予算の確保などが課題となる。木造で建て直す場合、火災の発生や延焼拡大の原因を特定したうえで、防火対策などを慎重に議論する必要がある」としている。

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