緊急事態宣言後、明豊ファシリティワークスのオフィスはほぼ無人状態に

緊急事態宣言後、明豊ファシリティワークスのオフィスはほぼ無人状態に

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、自宅で仕事をするテレワークを導入する企業が増えています。ただ、テレワークに不慣れな社員が少なくない企業では試行錯誤も。限られた環境の中で生産性を上げていくにはどうしたらいいのでしょうか。テレワークの取り組みが進んだ「先進企業」に聞きます。今回は2019年11月に総務省の「テレワーク先駆者百選」で総務大臣賞を受賞した、ビル建設・改修、オフィス移転など建築関連のマネジメント業務を手がける明豊ファシリティワークスの坂田明会長に自社の取り組みを聞きました。

――社員のテレワークの状況はどのようになっていますか?

「経営陣を含めて社員約230人全員が、テレワークができる環境を整えています。今、出社しているのは、1割もいないでしょう。テレワークというと在宅勤務を指すことが多いようですが、当社の場合は自宅に限らずどこでも仕事ができる環境をテレワーク制度と呼んでいます。契約している全国190カ所以上あるサテライトオフィスで仕事をしてもいいし、もちろん会社に来てもいい。しかし、新型コロナウイルス拡大による外出自粛の影響もあり、自宅で仕事をする社員が増えています」

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――約20年前に制度を導入したそうですね。

「当時はテレワークという言葉があったか分かりませんが、『どこでもオフィス』と称して02年ごろに制度をスタートしました。優秀な人材を集めたかったのが理由です。テレワークのメリットは自分で働き方のスタイルを決められること。仕事ができる人材は時間を効率的に使い、どこでも仕事をしたいというニーズが高い。通勤時間も無駄にしたくないというのが本音でしょう。仕事は自分が一番取り組みやすい場所やスタイルで進めればよく、仮に顧客先が自宅の近所にあれば、会社に立ち寄らず直行・直帰して、必要なら自宅で業務をすればいいのです。制度は社員に携帯電話とパソコンを貸与することからスタートし、書類のデジタル化などを進めました」

 

残業時間が減り、生産性はアップ

――なぜ書類をデジタルデータに?

「当時も今も日本は書類(紙)の文化が根づいていますが、テレワークではペーパーレス化・デジタル化は必須です。デジタル情報であれば書類を持ち歩く必要がなく、情報の共有化が簡単にできます。会議でも紙をベースに進めようとすると、参加者が一堂に集まらなければなりませんし、上司や会社への申請書類もデータにすればやり取りが容易です」

「デジタル化は社内だけでなく顧客との業務効率化にも寄与します。19年にテレワーク先駆者百選の総務大臣賞を受けた際、地方自治体のテレワーク環境の創出支援をしたことが理由として挙げられました。当社は企業や自治体を顧客として建築工事の発注者支援をするコンストラクション・マネジメント(CM)がビジネスの主力です。顧客の中には遠方の自治体もあるため、移動時間やコスト削減の観点からデジタル化された資料を使って、テレビモニターを通じてリモート会議で進めています」

「社員の業務もデジタルで管理し、共有化しています。04年に独自システム『明豊マンアワーシステム』を開発しました。経営陣を含めて社員は毎日、その日に担当した業務プロジェクトと作業時間を1分単位で入力します。入力情報は上司だけでなく社内でも共有されるため、自分以外の社員の働き方を見ることが可能です。誰がいつ、どのようなプロジェクトに関わっているのか、どのような働き方をしているのかといった情報がオープンになることで、自分の働き方を見直せるだけでなく、会社の経営環境や情報の共有化につながります」

――テレワークを導入したことで効果はありましたか?

「社員の残業時間が減りましたが、生産性は向上しました。1人あたりの1カ月平均の残業時間(フルタイム勤務者)をみると、12年度は約46時間ありましたが、19年度は約13時間まで減少。年間で見れば7年で400時間近く減ったことになります。建設業界の残業時間は月40〜50時間が一般的。多いところでは100時間以上という企業もあり、15時間以下の企業はほとんどないでしょう」

「一方で売上粗利益を労働時間で割った労働生産性を見ると、18年度は12年度と比べて1.56倍になりました。業務を効率的に進めて、作業時間を減らしても高い利益を出せる体制ができています。社員によっては残業時間が減ることで収入が減ってしまう人もいるため、増えた利益は社員の給与・賞与で還元しています。12年度の平均給与を100とすると、18年度は平均122に増加しました。テレワーク導入のメリットは他にもあります。新型コロナウイルスの感染拡大のように非常事態が起きても慌てずに事業を継続することができたり、妊娠や育児中の女性が働く環境としても適していたりする競争優位性の確保につながると考えています」

「役職者だけに紙資料」は一番の悪手

――テレワーク活用への積極的な姿勢は、人材採用にも有効に働いていますか?

「社員数は年々増えており、20年3月期までの7年間で約1.3倍になりました。社員の9割以上が中途採用者ですが、実態としてテレワークに魅力を感じて転職してきた社員はそれほど多くないと思います。数年前までテレワークは認知度や普及率が低かったため、転職の重視項目に挙げられることはあまりありませんでした。ただ、今回の在宅勤務を機に、日本の企業にもテレワークが急速に定着していきそうです。これからは転職理由の一つに挙げる人も増えてくるでしょうから今後に期待したいです」

「実際に転職してきた社員に目を向けると、全社員がテレワークを利用している環境や業務管理のデータ・共有化の仕組みに慣れるまで少し時間がかかっています。しかし、テレワークによって業務が効率的になり、収益が上がって、給与もアップするといった良いサイクルが回ると、働くモチベーションにつながっているようです」

――在宅勤務でも長時間労働を防ぐ仕組みは必要です。どのように対応していますか?

「テレワークポリシーを制定しています。自宅は休息の場ということを大前提とし、短時間なら自由に在宅勤務をしてもよいが、長時間になったり残業時間が増えたりする場合は、事前に会社や上司に相談しなくてはなりません。マンアワーシステムでは社員一人ひとりの業務負荷が見える化されるため、特定社員に業務が集中しないよう平準化を進めています」

「社員は年1回、上司との面談で年間残業時間を決めます。月末の残業予定時間が一定の基準を超える可能性が出た時点で、本人や直属の上司に「長時間労働アラートメール」が通知されます。個人が仕事や問題を抱え込むのではなく、上司や仲間も巻き込んで対策できるような仕組みを構築しています」

「テレワーク業務中に事故が起きたときの対応も考えておく必要があります。日々の業務管理をシステム化しておけば、どのプロジェクトで事故にあったのかが証明され、業務中であることがはっきりすれば労災の対象となるわけです。これまで労災事故は起きていませんが、会社があらかじめ対処法を示すことで、社員に安心感を伝えることになるでしょう」

――導入に際して苦労したことはありますか?

「マンアワーシステムを立ち上げたときは、社員に毎日入力をさせることは大変でした。導入当初は社員数60〜70人くらいでしたが、全員から『自分の行動を朝から晩まで上司や経営者に見られることは嫌だ』と言う声が上がり、なかなか習慣づきませんでした。私自身もそうですし、気持ちはよく分かりますが、何度も必要性を説くしかありません。業績を上げている腕に覚えがある社員ほど従わないもので、導入して1年たったとき、3人の社員がやっていませんでした。それぞれ呼び出して1時間以上かけて話をしましたが、最終的に1人は会社を辞めました。2人のうち今は1人だけ残っており、エース級で働いています」

――テレワーク導入で肝になることは何ですか?

「ペーパーレス化・デジタル化を徹底的に進めることが一つです。企業によっては、役職の高い人には例外的に紙を認める企業もありますが、これが一番ダメです。社内制度としてデジタルも紙もある状態では、情報発信する側は2通りで進めなくてはならず非効率的です」

「就業制度を細かく設計することも大事です。社員に環境だけを与えても不十分で、人事や給与制度、導入する理由などを明確化しないとうまくいきません。テレワークは家で制限なく仕事をするということではなく、社員と上司、会社の信頼関係の上に成り立ちます。制度は働いている社員の意識、働き方の生産性、効率化のレベルに合わせて少しずつ進化させていくことが必要です」

(日経キャリアNET 編集チーム)


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