横浜市の翻訳者、上野哲也さん(53)は、自動翻訳ツールでドイツ語から日本語に変換した文章を前に「間違い探し」に目を光らせる。 「ポストエディター」。AIで飛躍的に性能が向上した機械翻訳だが、文脈を理解できずにおかしな訳文も吐き出す。それを修正する新しい仕事だ。上野さんは最近、ポストエディターとしての仕事の依頼が増えた。 もっとも、機械のミスをただ正すだけの作業なら、AIがさらに進化すれば不要になるかもしれない。上野さんは分厚い辞書と首っ引きで言葉の奥底の意味を考え、仲間とも議論しながら「機械の仕事」を手直ししていく。「人間にしかできないことを常に意識するようになった」 「タイピスト」「注文取り」「保険料集金人」――。大正大学地域構想研究所の中島ゆき主任研究員によると、前回東京五輪の1964年前後に「日本標準職業分類」に基づき国勢調査で使われていたこれらの職業は、今はもう記載がない。野村総合研究所は日本の労働人口の49%が就いている職業が、AIなどに代替される可能性があると予測する。「レジ係」や「路線バス運転者」に残された時間は長くて20年という。 九州在住の60代女性は大学時代、東京・渋谷のタイピスト学校に通った。就職先では英語で契約書を作成できるスキルは会社中から引っ張りだこ。「新時代が来たと思った」。60年代初頭は約6万9千人が「タイピスト・速記者」に従事した。 だが家庭で使えるワープロの登場で需要は激減。2000年時点で約1300人まで減り、職業分類から消えた。名古屋市の「菊武タイピスト女学院」は60年代には女学生でにぎわったが、今は「菊武ビジネス専門学校」に衣替えしIT分野などを教える。 多くの職業が過去に追いやられる一方、最近の国勢調査では20を超す新たな仕事が加わった。目立つのはコンサルタントなど「知識集約型」だ。 「世界で一番売れなかったゲーム機、知ってますか?」。小学4年の漆原心平さん(9)はカメラを前に、自分で調べたゲームの歴史を流ちょうに語り出す。記録した動画に編集ソフトで字幕を入れ、瞬く間にユーチューブに流す「作品」を仕立ててみせた。 動画の編集方法や撮影技術を学ぶ小学生ら(東京・渋谷)=金子冴月撮影 漆原さんが通うFULMA(東京・渋谷)運営のユーチューバー教室にはこの3年で3千人が参加。学研教育総合研究所の「将来就きたい職業ランキング」にユーチューバーが4位で登場したのは17年。19年はついに男子の1位に上り詰めた。 シンガーソングライターの渡部歩さん(23)は弾き語りの場を、路上からライブ配信アプリ「17 Live(イチナナライブ)」に移した。 視聴者はお気に入りのライバー(配信者)に「ギフティング(投げ銭)」をする。1人数百円でも、ファンが増えるにつれ生計が立つほどになった。路上で通りすがりの人を相手にCDを1枚売るのに四苦八苦していた頃とは大違いだ。 ライブ配信アプリ「17(イチナナ)ライブ」を使って、自宅でライブ配信するライバー(配信者)の渡部歩さん(中岡詩保子撮影) 渡部さんは事務所に所属していない。「自分の力でどこまででもできる」と手応えを感じる。 フリーランス、兼業、副業。働くかたちは多様化し続ける。大正大の中島さんは「会社による雇用が大前提だった社会は既に変わった。問われるのは個人の力。従来型の『職業』の枠自体が曖昧になってくるかもしれない」とみる。 「今の子供の65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就く」。ニューヨーク市立大大学院センターのキャシー・デビットソン氏は11年にこう予言した。5年ごとの国勢調査の次回は2020年。消える仕事、生まれる仕事が、社会の移ろいを映し出す。(金子冴月)


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