ゲノム編集で作った受精卵から赤ちゃんを誕生させ、世界的な批判を受けた中国・南方科技大の賀建奎副教授(当時)=2018年11月28日(共同)

中国の研究者が「ゲノム編集ベビー」を誕生させたと発表しておよそ1年。ヒト受精卵の遺伝情報をゲノム編集という簡便な技術で改変し、エイズにかかりにくいようにしてから母親の体内に戻して子を出産させたとの触れ込みだったが、当の研究者は表舞台から姿を消した。生まれた双子がどうなったかも不明だ。世界で非難の声があがり、こうした試みは封印されたかに見えるが、現実には希望する親も手がけてみたい医師、研究者もいる。14、15日にはロンドンで専門家らがこの問題を話し合う国際委員会を開く。禁止を確認しあうというより、慎重ながらも解禁への道筋を探る場になりそうだ。

「ロシアでゲノム編集ベビーが近く生まれる」――。今年の夏以降、こんな情報が世界を駆け巡った。英科学誌「ネイチャー」や米ブルームバーグが、ロシアの国立研究機関の臨床遺伝学者の計画を報じたのがきっかけだ。生まれてくる子どもがエイズにかかりにくいようにするという中国と同様の計画のほかに、特定の遺伝子変異による聴力障害を持つ夫婦の受精卵をゲノム編集し、障害が出ないようにする試みを準備中だと伝えた。

10月にもロシアの審査機関に申請し、承認され次第、開始するとされたが、まだ実行に移されていないようだ。予想以上に騒ぎになり、ロシア政府から事実上の「待った」がかかったといわれる。

ゲノム編集ベビーが生まれた場合、遺伝情報に人為的に手を加えた影響は、その子どもからさらに次の世代へと受け継がれる。人類の進化の道筋すら変える恐れがあり、そんな大それたことをすべきではないという声は多い。未熟な編集技術ゆえ、狙い通りに遺伝子を変えられず、あとから思わぬ障害が明らかになる心配もある。一体、誰が責任をとるのか、容易に答は出ない。

一方で、生まれながら難病に苦しむとわかっていて、事前に「治療」する技術があるなら使うべきだという指摘もある。難しい問題を多くはらむだけに現段階でのゲノム編集ベビーづくりに眉をひそめる人が多いのだが、それでも現実は先へ先へと進もうとする。

受精卵をゲノム編集する基礎研究は止まる気配がない。国立成育医療研究センター研究所の阿久津英憲・生殖医療研究部長の調べによると、論文で確認できるものだけでも、9月時点で世界で13件の報告があった。うち11件は中国。中国のゲノム編集ベビー誕生やロシアの計画は含まれていない。

中国の研究の多くはゲノム編集をより効率的かつ正確にし、遺伝情報を狙い通りに改変しようというものだ。ノウハウを着実に積み上げている様子がうかがえる。難病の治療につながる遺伝子の修復法の研究もあり、多くの研究者が将来的な臨床応用を視野に入れているとみられる。

この動きは中国やロシアに限らない。生命倫理問題を議論する英国の権威ある独立機関、ナフィールド生命倫理協議会が出した2018年の報告書も、将来世代に影響を及ぼすような生殖細胞のゲノム編集は、状況によっては「倫理的に受け入れられる」と結論づけた。驚いた人は多いが、研究の現実をしっかり踏まえた内容になっている。



14日からロンドンで開く「ヒト生殖細胞ゲノム編集の臨床応用に関する国際委員会」は米国科学アカデミー、医学アカデミー、英王立協会が主催する。今すぐゲノム編集ベビーをつくることには慎重でも、決して「禁止ありき」の集まりではない。受け入れの機運が高まったときに混乱なく実行に移せるよう、今から問題点を整理し、認められる条件を国際的に確認しあおうというのが目的だ。世界保健機関(WHO)とも連携し、何らかの共通指針をつくる方向だ。

ただ、WHOの専門家会議は今年3月、ゲノム編集した受精卵から子を誕生させる計画を、現時点では進めるべきではないと勧告した。世界の規制当局に対し、計画の申請があっても承認しないよう求めている。国際委員会には前へ進みたい研究者も多いが、WHOはより慎重だ。8月には世界の研究の実情を把握するため、あらゆるヒト細胞のゲノム編集による病気治療をめざした臨床試験のデータを集約する登録システムを始めると発表した。ルールのあり方を話し合うのに役立つとみられる。

日本では基礎的な研究に限り、一定の条件を満たせば、受精卵などのゲノム編集を認める指針を作成中だ。その目的は不妊症の仕組みの解明や難病の治療法研究などに限定される。ただ、ゲノム編集ベビーに関しては法的な規制などをこれから詰める段階。いずれ解禁時期がやってきた場合を想定してのルールづくりはその先だ。

生命科学の進展は加速しており、「その時」は意外に早くやってくるかもしれない。政府だけでなく、患者団体や一般市民も常時参加し、早めに議論を進める必要がある。ロンドンの国際委員会のような場に参加する日本の研究者も増えてきた。そこで吸収した知見を多くの人と共有し、日本の進路を考えるべきだ。


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