google.com, pub-5555637748235634, DIRECT, f08c47fec0942fa0
スポーツの歴史を振り返っても、今のラグビー日本代表は珍しい特長がある。「〇〇(監督名)ジャパン」という愛称がつき、「監督」の存在感がクローズアップされがちな日本にあって、「選手自身で動かすチーム」を目指してきたからである。9月28日に行われたワールドカップ(W杯)日本大会の2戦目、アイルランド戦は、それが問われる試合だった。

前回大会から日本を率いる主将のリーチ・マイケル。W杯で初めて先発を外れ、ベンチからの出場となった。従来の日本代表ではあり得ない、異例の決断である。

■アイルランド戦、主将不在でも揺るがなかった組織

W杯のような大舞台で主将を外すことは、サッカーなど他競技の日本代表でもめったにない。特にラグビーでは監督が試合中に出せる指示は限られており、主将は「グラウンド上の監督」とも言える立場。本来なら意思決定に支障を来すこともあり得る、リスクのある決断だった。

主将不在で臨んだアイルランド戦。日本の組織は揺るがなかった。代理の主将を務めた南アフリカ出身、ピーター・ラブスカフニを皆で支えたからだ。リーダー陣の一人、稲垣啓太は言う。「次に何をしようと個人で考えたり、プレーが途切れた時に周囲に声を掛けたりした。僕以外の選手もやってくれた」

細かい意思疎通で、試合中の戦術変更もうまくいった。キックの使い方を修正したことで、ボールを持つ時間を延ばし、アイルランドの攻める機会を減らした。前半30分、先発のアマナキ・レレイ・マフィの負傷によりリーチ主将が早めに登場したが、そうでなくともチームが崩れることはなかったのではないか。

リーチが先発しなかった直接の原因をジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)は「経験のある選手が控えに必要だったから」と説明する。リーチが初戦で本調子でなかったことと、同じポジションの層が厚いことも理由になっている。ただ、異例の決断ができた背景には、キャプテン不在でもチームが回るようにリーダーを多くつくってきた経緯がある。

8月に北海道網走市で行った合宿。珍しいトレーニングが行われた。バーベルを担いだり自転車型トレーニングマシンをこいだりする合間に、52枚のトランプが並べられる。選手が息を整える間に、分担してカードの位置を全部覚える。別の日は、矛盾するいくつかの文章が提示され、登場人物のうち、嘘をついているのは誰かを当てる――。

心身が厳しい状態の中で、仲間同士がコミュニケーションを取り、意思決定するための訓練。リーダー陣の一人、流大は「試合中にリーダーに不測の事態が起きたり、ケガをしたりした時でも、チームがまとまれるようにという目的がある」と話す。

ジョセフは31人のW杯メンバーの中から、リーチを含む10人のリーダーを任命。攻撃、守備など役割を分担して、権限を委譲している。例えば、試合の4日ほど前のミーティングでは、戦術を選手に説明するのはコーチではなく、リーダー陣の役目になっている。

各リーダーは2〜3人の選手とともにミニグループをつくり、練習の感想を話し合ったり、食事に行ったりもする。1年前からは、合宿の空き時間にポジションの近い選手同士が集まり、練習や試合の映像を見て分析する「自習」も始めた。

ジョセフの母国は「ラグビー王国」のニュージーランド。W杯を2連覇中の同国代表「オールブラックス」は、監督が提示した練習メニューを主将が変更することもあるほど、選手の意見を尊重する。その理念や仕組みをジョセフは日本に導入した。

成果は出ている。ラグビーの戦術のキモの一つが、キックの使い方。多く蹴ってボールの保持率を減らし、カウンターを狙うのか。パスでつないで、ボールを相手に渡さない戦いをするのか。コーチ陣の指示を待たず、試合中に選手が変更できるまでになった。8月の米国戦では、当初はパスを主体に攻めたものの、有効でないとみるや、グラウンド上で選手が話し、キックを増やすやり方に転換。快勝した。
■午前3時に叱責メールも送ったエディー前HC

選手の成長をジョセフも喜ぶ。「後から判断するのは簡単だが、時間がない時に判断するのは難しい。その力がついてきた」

チームの性格は4年前とは大きく違う。リーチは言う。「前回大会はW杯の1〜2週間前になって自主性が生まれたけど、それまでは(当時のHCの)エディー・ジョーンズが言うことをひたすらやった。今は細かいチームづくりは選手がやる」

前回大会、南アフリカからの「史上最大の番狂わせ」を含む3勝を挙げた日本は「巨人の星」などを連想させる、「日本的」なチームだった。

元高校教師のジョーンズの厳格な管理を象徴していたのが、毎日のスケジュール。「昼寝」の時間が指定されており、1日4度の練習の合間、選手は床につき、体を休めなければならなかった。

選手への指示督励も厳しく、午前3時に選手に叱責の携帯メールを送ることも頻繁だった。綿密な強化計画を選手の尻をたたいて実践した結果が、本番での躍進だったが、戦術面やチーム運営では禁止事項が多く、選手に委ねられる部分は少なかった。

選手の自主性の不足に危機感を抱いていた田中は4年前、チームから浮くこともあった
選手の自主性の不足に危機感を抱いていた田中は4年前、チームから浮くこともあった

4年前、その姿勢に危機感を感じ、チームを厳しく叱咤(しった)していたのが、ベテランの田中史朗だった。「そんなんで勝てるのか」と歯に衣(きぬ)着せず発言した結果、チームではやや浮く場面もあった。

その田中も選手の主体性の成長に目を細める。「今の代表は昔と全然違う。コーチに頼るだけでなく、自分たちでチームを作る、自分たちで進化したチームだと思う。今までの代表よりもさらに誇れるチームになった」

今大会の日本は1次リーグを2連勝でスタート、残り2試合に悲願の8強進出が懸かる。最大の勝負はこれからだが、ラグビーへの関心を高めるという目的は、既に達成した。ロシア戦のテレビ視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は18.3%(+無料のBS放送が約3%)。アイルランド戦後半は22.5%。前回のW杯を上回り、日本代表史上最高となった。

2015年のラグビーブームは、1人のスターの存在も大きな要素だった。ゴールキックの前の「忍者ポーズ」という分かりやすい特徴を持つ五郎丸歩。ただ、33歳の五郎丸は前大会を最後に代表でプレーをしていない。

2016年、W杯の大会組織委員会と日本ラグビー協会が内々で始めたのが、次のスターを見つけて売りだそうというプロジェクトだった。しかし、候補を絞りきれないまま中止に。スターとは自然に生まれてくるものではあるが、これぞという選手が見つからない裏返しでもあった。

9月20日に行われた、開幕戦のロシア戦。3トライを挙げた松島幸太朗や、日本人離れしたパワーと笑顔が魅力の姫野和樹らも脚光を浴びた。一人一人のプレーの成長に加え、内面の主体性を磨く努力が、魅力ある選手の育成につながったとも言える。

■リーチが見せた主将の意地

集団指導体制に移行した今の日本代表。結果として主将を外されたリーチの胸中に、複雑な思いもあるだろう。15歳でニュージーランドから来日した時はひょろ長い少年だった。札幌のすし屋に下宿。相手高校の留学生に吹っ飛ばされ、泣きながら強くなってきた半生を踏まえ、「僕は日本で育ったラグビー選手」と口にする。7日で30歳。日本での生活の方がニュージーランドより長くなりつつある。

4年前、番狂わせを演じた南アフリカ戦も主将として率いた。今大会の直前、「日本で行われるW杯でキャプテンを務められるのは非常に誇り」とも語っていた。しかし、2度目の金星はベンチからのスタートだった。「(先発落ちは)関係ない。いつも通りの準備をした」と言うが、心の奥はどうだったか。前半途中から出場。初戦とは見違える思いきりのいいラン、襲いかかるようなタックルには、意地も含まれていたようだった。

アイルランド戦後、リーチは語った。「このチームはリーダーシップより、プレーの質が重要。いい選手が試合に出る」。誰がグラウンドに立とうが、チームを引っ張ることのできる人間はたくさんいるという意味である。同時に、自分が選手として成長して先発を取り戻すという決意の表れであり、仮に控えに回ったとしてもチームは大丈夫という信頼の言葉でもあっただろう。

28日のアイルランド戦の金星により、8強入りへの視界は開けたかに見える。そんな時こそ危ないとリーチは警戒する。金星の高揚感、周囲の楽観視が心に隙を生むからだ。「1千1戦、大事にして戦かわないといけない。いつも通りの準備をする」とリーチ。正念場の2試合を選手自身で話し合い、乗り越えていくのだろう。

=敬称略

(谷口誠氏)

  • 1970.01.01 Thursday
  • -
  • 19:10
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

Comment





   
この記事のトラックバックURL : http://kokoro-sukui.life/trackback/185

PR

Calendar

S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< October 2019 >>

kokoro_sukui

kokoro_sukui2

Archive

Recommend

 (JUGEMレビュー »)


Mobile

qrcode

Selected Entry

Link

Profile

Search

Other

Powered

無料ブログ作成サービス JUGEM