働く時間や肉体から「知」が生み出すアイデアへ。デジタル化で労働の価値は大きく転換した。モノ作り時代の残像がゆがみをもたらしている。

労働、二極化へ

「100年後には1日に3時間も働けば生活に必要なものは得ることができるようになるだろう」。20世紀を代表する経済学者、ケインズが『孫たちの経済的可能性』と題したエッセーでこんな予想をしたのは、世界恐慌の混乱が広がるさなかの1930年だった。

19世紀に比べ労働時間は6〜7割に
8億人の仕事消失

ケインズは2030年までに経済問題が解決し、自由な時間をどう使うかが人類の大きな課題になると述べた。英オックスフォード大学の推計では、米英独のフルタイム就労者の労働時間は1870年で週56.9〜67.6時間。予想ほどではないにしろ、2018年には6〜7割に減った。


ケインズが描いた30年のユートピア(理想郷)と対照的な未来予想図を米コンサルティング大手、マッキンゼー・アンド・カンパニーは唱える。人工知能(AI)やロボットによる代替が進み、世界の労働者の3割にあたる最大8億人の仕事が失われるという。


日本の雇用、時代遅れ

働かなくてもよくなるのか、働けなくなるのか。その捉え方は違えど、労働の未来は大きく二極化する。


現在の雇用形態の源流をたどると、フランス革命と産業革命に行き着く。労働者は身分に縛られず、契約で労働力を売り、工場内で分業するようになった。神戸大学の大内伸哉教授は「『時間主権』を企業にささげる働き方が雇用だった」と話す。


時間に比例して生産高や賃金が決まったモノ作り時代の残像がゆがみを生む。若さや肉体に価値を置いたまま多くの国は高齢化時代を迎え、次々と「引退」する世代を年金で支え続けることは難しくなっている。日本ではいまだ主流の定年制はもはや時代遅れだ。


高まる知の価値

「知」が価値を持つ今は、年齢や肉体の衰えとは関係なく優れたアイデアを出す人が果実を得る。新しい地平の働き手を支えるデジタル化が、資本主義を成り立たせてきた資本家と労働者の境界を消し始めた。


都内のセキュリティー企業に勤務する馬場将次さん(31)には、その腕を見込んだ海外企業からも仕事の依頼が舞い込む。昼休みや勤務終了後に取り組むのが、ソフトウエアやウェブサイトの脆弱性(バグ)を見つけて企業に報告する「バグハント」だ。2時間の作業で200万円になることもある。企業の依頼を掲示する国内サイトのランキングでトップを走る。


雇用というくくりを完全に飛び越えた自由な働き方をする人もいる。名刺管理のSansanなど10社近い企業と業務委託契約を結びながら働く日比谷尚武さん(43)だ。人や情報を必要とする人につなぐ「コネクタ」という肩書などで、広報支援や講演活動を手掛けつつ、報酬が発生しない社団法人での活動などにも取り組む。「1日に7〜8件の案件があるのは普通」と話し、夜にはロックバーまで共同運営する。


スキル、陳腐化早く

米国では組織に属さないフリーランスが27年にも就労者の過半を占めるという予測もある。工場労働者の権利保護のために1919年に創設された国際労働機関(ILO)も変革を迫られる。5〜6月の総会では新たな働き手の生涯教育の仕組みづくりが議題になる。


フリーランスが米労働者の過半になるとの予測も

ただ自由な働き方を喜んでばかりもいられない。労働政策研究・研修機構の浜口桂一郎所長は「デジタル時代はスキルの陳腐化が格段に早まり、労働者の安定性が揺らぐ」と語る。


技術が誕生するたびに一部の労働者は職を奪われたが、それを上回る需要が雇用を生んだ。時間や肉体ではなく知で勝負する時代には、働き手の「賞味期限」はのびる。新しい時代に合った制度や人材教育にどうかじを切るか。新しい競争が始まった。

  • 1970.01.01 Thursday
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  • 19:35
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