動画配信サービスの米ネットフリックス(Netflix)が好調です。2010年代に最も株価が上がった企業がNetflixでした。メディア企業として世界第2位の時価総額であり、2018年5月にはトップのウォルト・ディズニー社を追い抜いたほどです。Netflixがこの10年間で躍進できた背景には、ディズニーを意識した差別化戦略があります。グロービス経営大学院の金子浩明教授が「ポジショニング」の観点から解説します。


【解説ポイント】
・DVDレンタルから成長
・経営資源をドラマに集中
・多言語活用で世界へ


■需要の分散に成功

ポジショニングとは、自社の製品やサービスを、顧客ニーズに合わせると同時に競合との違いを明確にすることで、顧客の記憶の中にユニークに位置づけることです。ポジションを明確にする際は、2軸マップを使うのが有効です。平面上で各社の違いを可視化できるので分析しやすくなります。


Netflixは1997年に創業、最初はDVDのレンタルを郵送で行っていました。米国のDVD普及率が数%の時代です。当時の競合は全米に普及していたレンタルビデオ店であり、こうした店舗に対してNetflixは店舗に行かなくてもDVDを家まで届けてくれるという利便性を訴求しました。


しかし、ビデオをレンタルする顧客の主なニーズは、金曜の夜などに「いますぐ借りて観たい」であり、ソフトが届くまでに1日以上かかるNetflixは苦戦しました。そこでNetflixは延滞料金を廃止し、料金体系を借り放題の月額定額制に変更します。しかし、新作の取得にかかるコストが経営を圧迫。会員に貸し出したソフトの半数は新作でしたが、新作は取得にかかる費用が高く、新作が会員の家に滞留することでその費用が増大したのです。


そこで、旧作やあまり知られていない映画を会員に宣伝したところ、今度は宣伝した映画に貸し出しが集中してしまいました。そこで、需要をバラつかせるために、会員の好みに合わせて映画を推薦するシステムを開発したのです。


会員には個別に映画が推薦されますが、在庫切れのDVDは表示されないようになっていました。こうして新作の貸し出し比率を3割未満に下げることに成功し、旧作やマイナーな映画の在庫の回転率が上がりました。こうして、「日常的に映画を見ていたい顧客」からの支持を得ながら、コストを下げることに成功しました。


■独自でドラマ制作

Netflixは07年から動画配信サービスを開始しました。この年は初代のiPhoneが発売された年です。以降はスマートフォンやタブレットPCの普及とインターネットの回線速度の向上によって、動画配信サービスの会員数は徐々に増えていきました。


市場が拡大するにつれて、一部の映画会社は自社で独自の動画配信サービスを検討するようになりました。もし、映画会社から人気のコンテンツを提供されなくなってしまうと、Netflixの経営は行き詰まってしまいます。そこで11年からコンテンツの制作に着手し、16年には自社スタジオを設立します。


現在、Netflixの競合は、動画配信サービスのHulu(ディズニーの子会社)やアマゾンプライム、アップルTV、ケーブルテレビ局のHBOなどです。動画配信各社は映画会社やテレビ局からコンテンツを購入するだけでなく、独自のコンテンツ制作に力を入れています。以下、現時点における各社のポジションを比較してみます。


Netflixのコンテンツはドラマが中心(一部ドキュメンタリーやコメディー)で、スポーツ中継やニュースは扱いません。もうひとつの特徴は作品の多様性を追求していることです。他社オリジナル作品の多くは米国を舞台にしており、ハリウッドで制作されています。それに対してNetflixは世界のあらゆる場所に眠っているストーリーを掘り起こし、世界で配信することを目指しています。吹き替えの多言語化に力を入れているのも、そのためです。


競合のHuluはオールジャンルで、オリジナルのドラマに加えてスポーツ、ニュース、ディズニースタジオの映画を揃えています。ただし、オリジナルドラマはアメリカ発のものが中心で、海外制作の作品は提携している現地のテレビ局のコンテンツを流しています。アマゾンはドラマにフォーカスしておらず、オリジナルで日本のローカルのお笑い番組や恋愛リアリティー番組「バチェラー」日本版を制作しています。各社のポジションを2軸で整理すると、次のような感じになります。



■立場はチャレンジャー

Netflixにとって最も手ごわい競合は、Huluを傘下に収めたディズニーでしょう。オールジャンルのコンテンツを提供できるうえ、ディズニースタジオと20世紀フォックスの両スタジオが生み出してきたキャラクターや作品は強力です。


Netflixのコンテンツ制作費は、2019年には150億ドルに上ると言われています。競合のアマゾンは同時期に年間60億〜70億ドル程度、Huluの制作費は2018年度で25億ドル程度ですが、親会社のディズニーは傘下に映画製作のディズニースタジオ(ピクサーやマーベル)、20世紀フォックス(映画製作に加え、ニュースを手掛けるFOXチャンネルを持つ)、スポーツ専門チャネルのESPNなどを有しており、2018年度の制作費の総額は238億ドルでNetflixの倍近くでした。


だから、Netflixの時価総額はディズニーに及ばないのです。コトラーの競争地位戦略で分類すると、ディズニーはマーケット・リーダー、Netflixはマーケット・チャレンジャー(リーダーに挑戦する立場)になります。


マーケット・リーダーの戦略は、製品はフルラインアップで提供、チャネルは全方位で展開です。ディズニーは幅広いジャンルのコンテンツを揃え、チャネルはネット配信に加えてケーブルテレビ、映画館での上映など、全方位に展開しています。まさにリーダーの戦略です。ドラマのジャンルに絞れば、ケーブルテレビのHBOがマーケット・リーダーです。2019年のエミー賞のノミネート数のトップはHBOでNetflixは2位、受賞数もHBOがトップでした。


リーダーを追いかけるマーケット・チャレンジャーは、資本力で正面からぶつかったら勝てないので「差別化」が必要です。何らかの理由によって、リーダーがやらないこと、できないことをやるのです。

Netflixは、経営資源をドラマに集中させています。ディズニースタジオでは手掛けないような大人向けの作品(麻薬や性に関するもの)や、HBOが手掛けていない海外ローカルで制作したオリジナル作品を多く提供しているのが特徴です。


なお、米国外で制作した作品のターゲットはその地域の会員に限りません。Netflixには優れたリコメンド機能があるので、ローカルで制作したオリジナル作品は世界の会員に推薦されます。また、2018年にはオリジナル映画が権威ある映画賞を受賞しましたが、ディズニーと異なり映画館では一切上映しませんでした。これも戦略です。


ところで、ヘイスティングス最高経営責任者(CEO)は、オンラインゲームのフォートナイトを競合だと述べています。確かに、ディスプレーに映るコンテンツを提供する企業は全て競合でしょう。今後は、ゲームとドラマを融合させたサービスを提供する可能性もあります。DVDレンタルからメディア企業に変貌を遂げたNetflixの今後に目が離せません。



かねこ・ひろあき

グロービス経営大学院教授。東京理科大学院修了。リンクアンドモチベーションを経て05年グロービスに入社。コンサルティング部門を経て、カリキュラム開発、教員の採用・育成を担当。現在、科学技術振興機構(JST)プログラムマネジャー育成・活躍推進プログラム事業推進委員、信州大学学術研究・産学官連携推進機構信州OPERAアドバイザー。

  • 1970.01.01 Thursday
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  • 21:17
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