東急不動産ホールディングス(HD)傘下の生活雑貨店「東急ハンズ」が待ったなしの改革圧力にさらされている。新型コロナウイルス禍で2020年4〜6月期は10億円の営業赤字を計上。競合に見劣りする収益力の改善が急務になっている。

「学生時代によく行ったのが懐かしい」「フロアが広くて他の店より充実していたのに」。8月下旬、大型雑貨店の「東急ハンズ三宮店」(神戸市)が12月に閉店するとのニュースが流れると、ネットには惜しむ声があふれた。同店は1988年に開業し、売り場面積約5800平方メートル。関西地区のハンズを代表する店の1つだった。

 

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主要店を閉店せざるを得ないほど、ハンズを取り巻く環境は厳しい。コロナ影響で赤字に転落した20年4〜6月期の前から利益率は低迷していた。20年3月期のハンズ事業の売上高営業利益率は0%台。ハンズ事業は東急不動産HDの連結売上高の約1割を占めるものの、営業利益では1%に満たない。低収益が続けば「売却して収益性の高い新たな投資に振り向ける方が合理的」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の姉川俊幸氏)との声が市場で強まるのもおかしくない。

そもそもなぜ東急不動産HDがハンズ事業を手掛けるのか。歴史をひもといてみる。東急ハンズは1976年に創業。東急不動産が渋谷の社有地活用策を検討するなかで「手の復権」を掲げたDIY店のコンセプトが浮上した。ハンズのロゴマークに手がデザインされているのもこれに由来する。

その後、池袋や新宿へと都心部の大型店を次々に出店した。「多品種少量」の生活雑貨を並べ、豊富な知識を持つ店舗スタッフによるきめ細かなアドバイスを武器にファンを増やし、80年代に急成長した。

ハンズは関西や地方への出店を進めることで東急ブランドを全国に浸透させる役割も果たした。東急不動産にとっては自社商業ビルの主要テナントとして入居させたり、住宅開発やリフォーム事業との相乗効果も打ち出したりしてきた。

 

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だが、ハンズの収益力は2〜3%の営業利益率を確保する同業のロフトに見劣りする。非上場の両社の決算公告で前期の売上高総利益率(粗利益率)を比べると、東急ハンズ、ロフトともに約39%で同水準だったが、売上高販管費率はハンズが1%ほど高い。これが両社の営業利益率の差として表れている。

ハンズの販管費比率の高さは地代家賃や人件費が影響している。課題は売り場効率にある。東急ハンズの直営43店舗と小型店「ハンズ ビー」20店舗を合わせた売り場面積は約14万平方メートル。1坪(3.3平方メートル)当たり売上高は約220万円になる。日本経済新聞社が実施した「日本の専門店調査」では、前期のロフトの直営店舗の坪あたり売上高は約250万円。1割以上の開きがある。専門知識を持つ販売員を多数配置するきめ細かな接客も、販管費として重くのしかかる。

多様な品ぞろえもネット通販の台頭で魅力を発揮しきれないでいる。近年は若い女性を照準にした小型店「ハンズビー」を大幅に増やしたものの、全体の売上高は横ばい圏で推移。1店舗あたりの売上高は減少傾向にある。SMBC日興証券の田沢淳一氏は「単価が高くない商品を都心の高級立地で売っている。多品種少量の形態は効率化しにくい」と指摘する。

 

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収益力改善に向けて取り組むのが、電子商取引(EC)の拡大。東急不HDの西川弘典社長は日本経済新聞の取材に対し、ECやプライベートブランド(PB)の比率を高める方針を示した。19年度に10億円だったECの売上高を、20年度に50億円、21年度に100億円に引き上げる考え。商品数を増やすほか、今年は年に1度のバーゲンセール「ハンズメッセ」をネット限定で行うなど、消費者の取り込みに力を入れる。

PBについて具体策は明らかにしていないが、22年3月期からの新たな中期経営計画に盛り込むという。現在9店舗のフランチャイズチェーン(FC)も増やしていく。

ECとの競争は既存店舗の体力を奪う側面もある。販路だけでなく店舗網の見直しに加え、ハンズ事業保有の意義などを示せなければ、東急不HDがハンズの「ベストオーナー」なのかという疑問は解消しきれない。

 

 

 

コロナ禍で児童生徒が心に受けた影響の一端が国立成育医療研究センターの調査で明らかになった。担当した半谷まゆみ研究員は大人が子どものストレスの表出を助け、受け止めることが重要だと指摘する。

 

 

新型コロナウイルスの感染禍が続く中、多くの学校が再開されて3カ月がたとうとしている。この間、子どもたちはどのような心の状態で過ごしてきたのだろうか。

 

半谷まゆみ・国立成育医療研究センター研究員

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半谷まゆみ・国立成育医療研究センター研究員

国立成育医療研究センターのコロナ×こども本部は今年6〜7月、全国の0〜17歳の子どもを持つ保護者と7〜17歳の子どもを対象に2回目の大規模なインターネット調査を実施し、保護者5791人と子ども981人から回答を得た。第1回は臨時休校が続く4月末〜5月に行われた。

ネット調査であり回答者の属性に偏りがある可能性が否めない。また、2回の調査の回答者集団は同一ではないため、単純な比較はできないことをお断りした上で、このほどまとまった第2回調査の結果を報告したい。

グラフは、子どもに「あなたにあてはまり、今も困っていること」を複数回答で選んでもらった結果の一部である。こうした何らかのストレス反応・症状が全体の72%にみられた。

 

 

調査時期が緊急事態宣言とほぼ重なった第1回調査では75%で、学校再開後も改善がみられていない。遅れた学習を取り戻すべく授業時間数や宿題が増えた一方、感染対策として部活や行事は中止・縮小となり、大切な学びの機会や楽しみが失われたことが影響しているように思われる。

学校再開に伴い「たのしい」(小学校低学年)という声もある一方で、「せんせいがこわい。ともだちとあそぶとおこられます」(小学校低学年)、「コロナにかかるのが怖い。学校に行きたくないと思ってしまう」(小学校高学年)、「課題が多すぎて終わらない」(高校生)との声もあった。

ストレス反応は学年によって様相が異なる。逃避症状である「コロナのことを思い出させるような人や場所、物には近づかない」は小学1〜3年生では31%だが、同4〜6年生は18%だった。

覚醒亢進(こうしん)症状(強いストレスを受けたときに神経が張り詰めた状況になること)である「最近、集中できない」に該当した高校生は58%に達し、30%前後だった小中学生を大きく上回った。この割合は1回目調査の42%から大きく上昇した。高3はこれから大学受験や就職活動が本格化するだけに、丁寧な対応が必要だ。

「自分のからだを傷つける」など自傷他害の行動が表れている子どもはどの年齢層でも1割前後みられ、非常に危ないサインと考えられる。

強調したいのは、こうしたストレスに子ども自身も周りの大人も気が付いていない可能性があることだ。子どもはストレスを言語化して表出することが難しい一方、それを助けてあげることがストレスへのケアになる。

大人は子どもの「集中できない」「暴力を振るう」などの行動的な側面に目が行き、ともすると叱ったり努力不足と捉えたりしがちだが、その裏にある不安、不満などを子どもが話せる場を作り、しっかりと受け止めてほしい。その子なりの頑張りを認め、褒めることも大切なケアだ。

現在、現場の教員には体力的にも精神的にも多大な負荷がかかっていると聞く。また、保護者の精神的負担が少なくないことも調査結果から分かっている。子どもと関わる大人のストレスケアも重要な課題である。

調査では偏見・スティグマ(らく印)の防止が必要であることも分かった。子どもの32%が「自分や家族がコロナになったら、秘密にしたい」、22%が「コロナになった人とは、コロナが治っても付き合うのをためらう(あまり一緒には遊びたくない)」と考えていた。保護者もそれぞれ29%、7%が該当した。

このような意識は不安などから生じたと考えられるが、いじめや差別の温床になりかねない。なぜこれが問題なのかを大人と一緒に考える機会を持つことが大切だ。正しい知識を身につけ、自分も仲間も大事にできるよう、子どもにも分かる言葉で導いてほしい。

コロナ禍を受けた様々なルールの変更や決めごとについて子どもの意見が反映されているかどうかを尋ねたところ、小学校高学年の25%、中高生の42%が「そう思わない」と答えた。もちろん、子どもの意見を全て取り入れることは難しいかもしれない。それでも子どもが自由に意見や気持ちを表せる場があること、それを否定することなく受け止めてくれる大人がいることは、子どもたちの大事な権利である。

報告書の全文は同センターのホームページで公開している。子どもと関わる方には、子どもたちの自由記載の項だけでもぜひ目を通していただきたい。きっと何かに気づかされるはずだ。

なお、コロナ禍における子どものメンタルヘルスに関する海外での大規模研究として、英オックスフォード大学を中心としたCo-SPACEがある。コロナ×こども本部ではこのチームとの国際共同研究を通して、海外の子どもの様子との比較検討も進めている。

9月1日から第3回調査「コロナ×こどもアンケート」を始める(国立成育医療研究センターのホームページからアクセス可能)。アンケートに答える体験を通して、子どもや保護者にふり返りや気づきを促せるように工夫している。多くの方々の協力を期待したい。

■心の負担、潜在化 網羅的調査必要
国立成育医療研究センターの調査は小中高校の児童生徒や保護者のストレスの状況を知る上で貴重な資料だ。相当数の子どもが心に負担を抱え、かつそれが潜在化している様子がうかがえる。
ただ、任意のネット調査であるため全体の状況を捉え切れていない可能性がある。回答した子どもや保護者は比較的余裕のある層が多く、実態はより厳しいことも考えられるという。
コロナ禍で子どもの学習や心の状態はどうなっているのか。実態がつかめていないことは問題だ。海外の例も参考に、網羅的な調査が必要なのではないか。(中 氏)

 

レース後、感極まる池江璃花子選手(29日、東京都江東区の東京辰巳国際水泳場)=代表撮影

レース後、感極まる池江璃花子選手(29日、東京都江東区の東京辰巳国際水泳場)=代表撮影

白血病からの復活を目指す競泳女子の池江璃花子選手(20、ルネサンス)が29日、東京辰巳国際水泳場で開かれた東京都特別水泳大会で約1年7カ月ぶりのレースに臨んだ。女子50メートル自由形に出場し、26秒32で5位。涙を浮かべる姿もあり、「戻ってこれたと実感できた。第二の水泳人生の始まり」と感極まった。

病を公表した昨年2月から12月まで入院。体つきはほっそりしたが、軽やかに水に乗る姿はブランクを感じさせなかった。5組に登場し、浮き上がりから一気に加速すると、25メートル手前から先頭に。「最後まで負けたくないと思って出し切った」と同組1位でゴールし、スタンド席の関係者からは感嘆の声が漏れた。

 

女子50メートル自由形で力泳する池江璃花子選手(29日、東京都江東区の東京辰巳国際水泳場)=代表撮影

女子50メートル自由形で力泳する池江璃花子選手(29日、東京都江東区の東京辰巳国際水泳場)=代表撮影

 

スタート台でうつむき気味に体を動かすなど、レース前はかなり緊張した様子を見せていた。それでも飛び込んでからは無心のまま全力で泳ぎ切り、「タイムとか関係なく、この場所で泳げたこと自体に感動した」とにっこり。「次の試合に向け、負けたくないという気持ちが持てた」と競技者としての闘志もよみがえってきたという。

2024年パリ五輪でのメダル獲得を目標に掲げ、今年3月にプールでの練習を再開した池江選手の回復ぶりに、指導する西崎勇コーチも「非常に良いスタートがきれた。二重丸の結果」と目を丸くした。

自身の日本記録24秒21には届かなかったが、26秒86の目標タイムをクリアし、目指していた10月の日本学生選手権への出場は確実な情勢。「出ることを1年間目標にしてきた。思いを爆発させて、夢や目標をかなえられた姿を見せたい」と池江選手は力強く語った。

 

レース後、感極まる池江璃花子選手(東京都江東区の東京辰巳国際水泳場)=29日、代表撮影

レース後、感極まる池江璃花子選手(東京都江東区の東京辰巳国際水泳場)=29日、代表撮影

https://twitter.com/i/events/1299592103295504386

復帰おめでとう!よく頑張った。(瑚心すくい)

SNS(交流サイト)から本人の知能指数(IQ)や精神状態、生活習慣を見抜く実験に総務省傘下の情報通信研究機構が成功した。人工知能(AI)を使った初期の実験とはいえ、わずか140文字の投稿でプライバシーを明かしたと思っていない人にとっては驚きの事実だ。米科学誌に論文を公表してから1週間余りが過ぎたばかりで、論争が起きるとしたらこれからだが、情通機構は悪用を懸念してAIプログラムの公開を見送る異例の対応をとった。

SNSの情報から個人の特徴が読み取れた

SNSの情報から個人の特徴が読み取れた

 

誰もがつぶやけるSNSは、今では社会参加のインフラになっている。行き交う短い文面から、その先の相手がどんな人かを確かめたいという欲求が研究の始まりだった。

実験でAIは短文投稿サイト「ツイッター」の情報から人々の内面を表す23種類の特徴を推定した。IQなどの知能や性格のほか、統合失調症やうつ病のような精神状態、飲酒や喫煙の生活習慣、人生の満足度も読み取れた。

 

 

 

これまでも、技術力を見せつけたい研究者らがSNSの解析に挑んできた。それでも「開放性」「誠実性」「外向性」「協調性」「神経症傾向」の大まかな傾向がわかっただけで、解析成果を「Big5」と呼んで誇ってきた。

今回は数百の少ないデータでもAIを賢くできる新たな手法で、個人のより細かな特徴まで突き止めた。専門家は一線を越えたとみる。

一体、どうやって見抜いたのか。研究チームはツイッターを日ごろ使う239人に最大数十のアンケートを個性にまつわる項目ごとに回答してもらい、ツイッターの投稿内容とともにAIに学ばせた。

学習を終えたAIはツイッターから人々の内面をあぶり出す規則性を次々と発見した。例えば「いいね」をされた頻度が多いと「漢字の読み書きの能力が高い」。毎回のつぶやきで文字数のばらつきが大きいほど「統合失調症の傾向がある」。「飲む」「歩く」「時刻表」などの単語を多く使う人は「飲酒の習慣がある」。新たなつぶやきで試してもその傾向を見いだした。

 

 

 

短文だけで「真の自分」をこれだけアピールできるのかと歓迎する人もいるかもしれない。だが「今回の技術で厳密に個性を算出するのは難しい」(情通機構の春野雅彦研究マネージャー)という慎重な発言こそ、多くの人の実感を代弁している。

新技術を目の当たりにしたとき、人々の反応は2つに割れる。先に立つのは薄気味悪さだ。SNSのつぶやきから内心まで分かれば、脳の中に監視の目が届く。「犯罪集団のネットワークを絶てる」と当局が小躍りしそうだ。

かつてフェイスブックの個人情報は世論操作の標的となった。16年の米大統領選では民間企業が「いいね」の対象分野を5000項目に分けて調べ、個人の大まかな傾向を推定していたとする報告も出ている。この技術は政治広告に使われたとみられている。

選挙活動だけでなく、いずれ就職や昇進などの判断にも関わってくるだろう。AIとプライバシーの問題に詳しい小林正啓弁護士は「現時点では規制がない。SNSを採用などの人事に使う行為は法的に問題ないと考える」としつつも、「AIは偏見を身につける危険もある。将来はAIの使い方に規制がかかる可能性はある」と話す。

 

 

一方で、SNSは一人ひとりの内面を映し出す鏡だ。適切に使えば、真の自分をアピールでき、自分では気づかない一面を知ってもらうきっかけになる。AIの解析を「見張り」ととらえず、「見守り」と思う人にとっては技術の進歩が光明となる。

情通機構が応用を目指すのはストレスの分析だ。海外では18年、うつ病の兆候をフェイスブックに並ぶ単語から3カ月前につかめるとする研究が発表された。豪雨などの災害発生時に、避難をためらいがちな住民をSNSから探り、早めに声をかけるような使い方も有望かもしれない。

中国は個人の信用力を数値化した信用スコアの活用が進む。信用スコアに応じて融資やホテル利用などで優遇を受けられる。AIが管理する社会では、SNSでの交流などに気を配って信用スコアを引き上げ、生活を豊かにするのも一つの生き方だ。

新技術は産業や経済を大きく変える。期待と不安のはざまで問われているのは、開発者や企業、個人の責任だ。開発者や企業はAIの開発指針や情報をどう活用したいのかなどを明示し、個人はどんな使い方であれば情報を託すのかを自分自身で考える必要がある。個人の特徴を見抜くAIが人を助ける道具となるか監視の武器となるかは、私たちの行動次第だ。(大越優樹)

 

中国ではTikTokで生中継しネットで商品を販売する「ライブコマース」が普及している

中国ではTikTokで生中継しネットで商品を販売する「ライブコマース」が普及している

【上海=松田直樹、シリコンバレー=佐藤浩実】売却が検討されている動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業を巡り争奪戦が激しくなっている。米小売り最大手ウォルマートは米マイクロソフトと組み、買収交渉に乗り出すと表明した。米オラクルなども買い手として浮上しており、米国で1億人の利用者を抱える人気アプリの買収交渉は大詰めを迎えている。

「ティックトックの持つ機能を追加すれば、ネット通販などウォルマートのさらなる成長につながる」。ウォルマートは27日、マイクロソフトと共同で買収を検討している事実を認め、同社が力を入れるネット通販事業とのシナジーを期待する内容の声明を発表した。両社の出資割合など計画の詳細は不明だ。

ティックトックを巡っては、中国への個人情報の流出を警戒するトランプ米政権が6日、米企業などが45日後からティックトックや運営する中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)と取引することを禁じる大統領令に署名した。14日にはバイトダンスに対し、米国事業を90日以内に売却するよう命じた。

 

 

ティックトックは若い世代を中心に利用者を広げており、世界に7億人規模のユーザーを抱える。米国の利用者は1億人で、米事業の比率はティックトック全体の1〜2割とみられる。買収にいち早く名乗りを上げたのはマイクロソフトで、オラクルや米ツイッターなども買い手候補として名前が挙がっている。

売却額は200億〜300億ドル(約2兆1千億円〜3兆2千億円)となる見通しだ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、バイトダンス側は300億ドルでの売却を希望しているという。

米調査会社CBインサイツによると、バイトダンスの企業価値は約1400億ドル(約15兆円)ある。バイトダンスの希望額は企業価値の2割強を占めることになる。強気の価格設定にみえるが、米経済番組CNBCは「数日内に買い手が決まる」と伝えている。

ティックトックの米事業が高く評価される理由は、若者を中心に米国だけで1億人もの利用者を抱えていることだ。

バイトダンスは米国でシェアを広げるために、これまで様々な媒体に大量の広告費を投入してきた。同社の関係者は「投資を続けたことで米市場でのシェア獲得に成功し、これからが収穫期となるはずだった」と語る。米アップルや米HPなど多くの企業がティックトックに動画広告を出しており、今後は広告収入を通じた投資回収が大きく見込める。

さらに、今回交渉に参戦したウォルマートが狙うのがネット通販事業との親和性だ。ティックトックの中国版「抖音(ドウイン)」では4億人超の利用者を抱え、米国と同様に若い世代が多い。その抖音にバイトダンスは今春からネット通販機能を本格的に導入した。

アプリの生中継で商品を紹介してネットで売る「ライブコマース」機能が中心で、若いユーザーの利用が急増している。ネット上で影響力があるインフルエンサーや動画を通じて人気となった投稿者などのファンが殺到し、爆発的な販売につながるケースも多い。中国ではアリババ集団など既存のネット通販大手の脅威となりつつある。

米アマゾン・ドット・コムを猛追するウォルマートはティックトックを通じてライブコマース機能などを展開し、同社のネット通販事業の強化を狙うとみられる。ウォルマートは今回の買収に突如参戦したようにみえるが、「もともとは過半出資をめざしていた」との報道もある。

米CNBCはウォルマートが当初はグーグルの親会社やソフトバンクグループとの共同出資を模索していたが、買収の確実性を高めるためにマイクロソフトとの連合に乗り換えたと報じている。アマゾンを追撃するウォルマートにとって、ティックトックの米国事業の買収は両社の差を縮める絶好の機会と判断したとみられる。

 

米CDCや独ロベルト・コッホ研究所はビジュアルな情報を日々更新している

米CDCや独ロベルト・コッホ研究所はビジュアルな情報を日々更新している

「まだ調べられていない」「そこは自信がない」。先週、都内で開いた日本感染症学会の学術講演会で、国立感染症研究所の脇田隆字所長は会場からの質問にたびたび言葉を詰まらせた。

新型コロナウイルスの国内感染が広がりだしてから半年以上たつ。しかし、日本を代表する専門研究機関の感染研や、多くの患者を治療してきた国立国際医療研究センターの情報発信は不十分なままだ。

感染拡大を防ぎ治療法を探すにはウイルスはもとより、患者の遺伝子データや症例の詳しい報告が欠かせない。付属病院に来る感染者らのデータを収集、分析する基礎医学系の大学教授は「感染研と協力したくても情報共有がなければ話にならない」と突き放す。

意図的な情報隠しはなくても「縦割り組織で限られた専門家がすべてを引き受けようとするため、作業が追いつかないのだろう」とみる。結果的にデータや成果の囲い込みを招きかねない。

 

 

感染研がホームページで公表する国内の感染状況は、発生からかなりの遅れがある。最新の「直近の感染状況等」は8月5日現在のものだ。14日公表の「積極的疫学調査の結果」は6月3日時点。傾向の把握に役立つ図表の多くは2週に1度程度しか更新されない。

日本の新型コロナ情報の収集・発信力の貧弱さは米国やドイツと比べれば歴然としている。米疾病対策センター(CDC)は当初、PCR検査キットに問題がみつかるなどして批判を浴びたが立ち直りも早かった。

幹部が頻繁に記者会見して感染状況や検査の課題を説明し、事態収拾を急いだ。今は日々のデータや週ごとの概要をわかりやすく公表している。「数週間先の見通しを示し公衆衛生上の対策を支援する」目的で新規感染者数、死者数や入院者数の「予測」も掲載する。

30以上の大学などの数理統計や予測モデルの研究グループから計算結果を集める。モデルにより結果はばらつくが統計的に可能性の高い変化傾向は示せる。外部との開かれたデータのやりとりが情報整理を可能にした。

独ロベルト・コッホ研究所はホームページ上で独語と英語で感染情報を毎日更新する。感染者数の地域分布、年齢別グラフなどを示し何が読み取れるかの解釈も載せる。1人の感染者から何人にうつるかを示す実効再生産数の推定値も日々公表し、傾向をつかみやすい。

患者に投与した薬と症状の推移に関する臨床情報も治療戦略に欠かせないが、日本は人手不足もありなかなか整理しきれない。国際医療センターが症例報告のデータベース構築に乗り出したが、内容の一端を公表したのは8月に入ってからだ。

米国立衛生研究所(NIH)は世界の症例や診断、治療などの研究報告を整理したウェブサイト「Lit Covid」を開設した。4万件以上の報告を地域や種類ごとに検索できる。

 

平時、備え進まず

 

情報収集や分析、発信で海外と大きな差がつくのはなぜか。日本大学危機管理学部の福田充教授は「来るべき危機に平時から備えるリスク管理の発想が欠けていたことが背景にある」とみる。情報の扱いは危機管理の要諦だ。「事が起きてから慌てて態勢を整えようとしてもうまくいかない」

政府は感染症対策をバイオテロなどと並ぶ国の危機管理の重点分野とみなしてこなかった。「こんなことが起きたら大変だ」と騒ぐと「あおるな」と批判されがちな日本独特の難しさもある。

研究分野のたこつぼ化も事態を悪化させた。CDCには感染症以外の専門家もおり、外部とつながっている。感染研なども何でも自前でやるのは無理がある。国内の症例報告などの収集で先行する感染症学会や国際医療センターとの連携を深めれば、情報収集・発信も速まり充実するだろう。

仏英の製薬大手の日本法人トップを務めたコンサルタントのフィリップ・フォシェ氏は「多くの日本人は情報に対して受け身で、あまり疑問も持たない」と指摘する。政府や専門機関のお膳立てを待つばかりではなく、一人ひとりが危機意識を持ち情報を取りに行く姿勢も大切だ。

(編集委員 安藤淳氏)

 

発表された大阪・関西万博のロゴマーク(25日、大阪市北区)

発表された大阪・関西万博のロゴマーク(25日、大阪市北区)

2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の運営主体「日本国際博覧会協会」は25日、アートディレクターのシマダタモツ氏(55)ら「TEAM INARI」の6人の作品を公式ロゴマークに選んだと発表した。「いのちの輝き」をテーマに「セル(細胞)」を意識した赤い球体をつなげたデザイン。シマダ氏は「1970年万博のDNAを表現した」と説明した。

シマダ氏は大阪市内で開かれた記者会見で「選ばれて本当にびっくりしている。万博の顔になるなんて思っていなかったが、最高にうれしい」と涙ぐんだ。

シマダ氏は大阪出身。70年大阪万博のシンボルで、岡本太郎氏がデザインした「太陽の塔」を会場で見て強く印象に残ったという。「岡本さんには足元にも及ばないが、当時のDNAを表現できないかと突き詰めた」(シマダ氏)

ロゴマークは形が異なる細胞をつなげることで、1つの生命体を表現。目のように見える5つの点は、5枚の桜の花びらをデザインした70年万博のシンボルマークから着想を得たという。

中央の楕円は大阪府や関西圏を描いている。シマダ氏は「細胞を組み替えて、文字や数字を表現するなど変化させるのが面白い」と話す。

協会は19年11〜12月にロゴマークを公募。建築家の安藤忠雄氏を座長とする選考委員会が8月上旬までに、5894作品から5作品を選んで公表していた。一般からインターネットなどで募った意見も参考に、選考委が最終決定した。今春に発表予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期していた。

会見では協会の石毛博行事務総長が安藤氏のコメントを代読。「左右対称ではない大阪らしい楽しさがあり、良い『違和感』もある」と評価した上で、「ロゴマークという枠組みを超え、コロナという枠組みも超えて、新しい世界を切り開くものになってもらいたい」と願った。

20年東京五輪・パラリンピックの公式エンブレムを巡っては、デザイナー作成のエンブレムがベルギーの劇場のロゴに似ていると指摘され、撤回して選び直しとなった経緯がある。協会は選考委が絞った5作品について、弁護士事務所に委託して日本を含めた186カ国で著作権や商標登録を調査。5作品と類似したデザインがないことを確認したという。

大阪・関西万博は25年4月13日〜10月13日に大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま、同市此花区)で開催。150カ国から来場者約2800万人を見込み、経済波及効果は2兆円を想定する。

日立化成や住友林業など国内の38社が不正アクセスを受け、テレワークに欠かせない社外接続の暗証番号が流出した恐れがあることが分かった。第三者が機密情報を抜き取ったり、ウイルスをばらまいたりする2次被害が予想される。事態を重く見た内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)も調査に乗り出しており、企業は対策が急務となっている。(関連記事総合1面に)

 

新型コロナウイルスの流行で、日本企業の大半が本社と社員の自宅をつなぐテレワーク対応を迫られている。今回流出が判明した中には、こうした在宅勤務を推進する企業も多く含まれている。ソフトや機器の更新を怠っていたとみられる例も散見され、リモート時代の情報リスクが改めて浮き彫りになった形だ。

漏洩したのは、VPN(仮想私設網=総合2面きょうのことば)と呼ばれる接続サービスの利用情報だ。VPNは通信データを暗号化し、社外から業務システムに接続する際などに使う。実際の専用線を敷設するより導入コストが安いため、多くの企業が社員の在宅勤務などに役立てている。

NISCによると、8月中旬に犯罪サイト上で、世界900社超のVPN情報がやり取りされていることを確認。詳細を調べたところ、このうち38社は日本企業だったことが分かった。

日本経済新聞が入手した被害企業リストには、日立化成や住友林業、ゼンショーホールディングス、オンキヨーの名前が挙がっている。医薬品製造の全薬工業、エネルギー関連の岩谷産業、電力機器のダイヘン、自動車総連も含まれていた。

ロシア語を使うハッカーが各社に不正アクセスして情報を入手したとみられる。VPNを使う際のユーザー名やパスワード、ネット上の住所を示すIPアドレスが流通していた可能性がある。

悪意ある第三者に情報が渡れば、VPNを伝って各社の基幹システムへの侵入が可能となる。各社は「社員情報の流出などの被害は確認していない」(住友林業)と口をそろえる。だが特別な対策を取らないと、社員を装って社内情報を盗み見したり、内部からサイバー攻撃を仕掛けたりできる状態だという。

今回情報が流出した企業は、米専門企業パルスセキュアのVPNサービスを使っていた。パルスセキュアは世界で2万社以上の顧客を持つ業界大手だが、同社のVPNを巡っては2019年4月に自ら脆弱性についての情報を公表。修正プログラムも公開していた。

日本でも民間団体JPCERTコーディネーションセンターが注意を喚起していた。しかし必要な対策を取っていない企業が多く残っており、情報漏洩の危険性が問題視されていた。一部企業は安全性に問題があるままVPNを使い続けていたもようで、ハッカーはこの弱点を突いて情報を盗み取ったとみられる。

今後は38社を「踏み台」にして各社の取引先などへ不正アクセスを試みる動きも予想される。サイバーセキュリティー会社サイファーマ(東京・千代田)の山田正弘氏は「IDや暗証番号だけでなく、2要素認証などを導入し、監視を強化することが重要だ」と話す。

被害企業の多くは「当該装置は停止した」(日立化成)、「必要な対応を取った」(全薬工業)とする。社員ごとにアクセス制限を設けるなど追加対策も欠かせない。

企業はテレワークの体制拡充を急いでいる。NISCは緊急事態宣言が発令された4月以降、企業の安全対策の遅れが目立つと指摘。「混乱に乗じたサイバー攻撃の兆候がみられる」と警鐘を鳴らしていた。

 

IT(情報技術)と金融を融合したフィンテック企業の利益が拡大している。世界の金融大手の2020年4〜6月期決算では、フィンテック勢の利益が日米欧の大手銀を上回るケースが目立った。株式時価総額にとどまらず、業績でも逆転が始まっている。新型コロナウイルスによるデジタル化の加速が、この流れを強めそうだ。

 

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「フィジカル(実物)からデジタルへのシフトが一過性ではない強い追い風になる」。オンライン決済大手の米ペイパル・ホールディングスが開いた決算説明会では、ダン・シュルマン最高経営責任者(CEO)が期待をあらわにした。

ペイパルの4〜6月期の純利益は前年同期比86%増の15億3000万ドル(約1600億円)と過去最高となった。コロナ禍でインターネット通販市場が伸び、決済サービスの総額が3割増えた。

中国勢の躍進も目立つ。騰訊控股(テンセント)のフィンテック・法人向けサービス事業の粗利益は4〜6月期に57%増の12億5000万ドルとなった。中小の小売りや外食などでスマホ決済「微信支付(ウィーチャットペイ)」のシステムを取り入れる動きが広がった。

アリババ集団の4〜6月期決算では33%出資する金融会社アント・グループの持ち分法利益が4億ドル強だった。アント・グループの純利益は約13億ドルとみられる。スマホ決済「支付宝(アリペイ)」を軸に、スマホ銀行や資産運用などの金融サービスが拡大している。

フィンテック勢の利益水準は金融グループ大手に並んできた。ペイパルの利益は米シティグループを上回り、アント・グループの利益はクレディ・スイスと同水準だ。

 

 

株式時価総額ではより大きさが目立つ。ペイパルの約2300億ドルは日本のメガバンク3社合計(約1300億ドル)を7割上回る。アント・グループは新規株式公開(IPO)を予定し、時価総額は米銀2位のバンク・オブ・アメリカ(約2200億ドル)に迫る2000億ドルが目標だ。

他の決済関連ではクレジットカード大手の米ビザの4〜6月期は23%減益だった。消費の落ち込みで全体のカード利用が低迷した。ただ、オンラインでの決済が増え、支えになっている。

3月に銀行業の免許を取得した米スクエアは4〜6月期は赤字だった。個人経営の小売店などがスマホで簡単にクレジットカードを決済できる仕組みを整えて急成長しており、21年には銀行も設立する予定。時価総額は約670億ドルと、三菱UFJフィナンシャル・グループを上回る。

 

■デジタル対応で業績に差

 

商業銀行や投資銀行でもデジタル対応が業績を分けた。

米ゴールドマン・サックスの市場部門では債券、株式ともに4〜6月の営業収益が金融危機時以来の最高となった。電子取引プラットフォーム「マーキー」を顧客に提供し、顧客はコロナ禍で在宅でも電子売買やリスク管理ができた。4月の外部契約は過去最高だった。汚職関連の引当金で全体では減益だった。

米モルガン・スタンレーは4〜6月期に従業員の90%以上が在宅勤務をしていたが最高益だった。野村ホールディングスなど米国でトレーディング業務を行う企業は総じて好業績だった。

米国では米連邦準備理事会(FRB)のシステムが電子化され「国債の入札も自宅から参加でき、在宅勤務は業務の障害とならなかった」(大手証券幹部)という。一方、日本市場では、国債の入札や日銀オペに自宅で対応できるシステム環境になっていない。出勤して会社の専用端末で取引せざるをえなかった。

QUICK・ファクトセットによると、東証上場銘柄の4〜6月の1日当たり売買高は1〜3月比で減った。都市封鎖が日本より厳しかったニューヨークやロンドンではむしろ取引が増えており、大和総研の中曽宏氏は「(金融のデジタル化の進展で)株や債券の大きな変動がもたらした収益機会を確実に捉えることができた」と分析する。

(山下晃氏、須賀恭平氏)

東京の千代田区立麹町中学校長として宿題や定期テストの廃止など数々の教育改革を断行したことで知られる工藤勇一氏。U22が5月末に開催した校長対談ライブ配信「これからの学びのカタチ」に出演した際に、繰り返し強調したのが、「自律」という言葉だった。工藤氏はどのように改革を実践してきたのか、なぜ「自律」という言葉にこだわるのか。4月に校長に就任した横浜創英中学・高等学校を訪ね、聞いてみた。

就任直後のコロナ危機 2週間で意識改革

「初期段階での教職員約80人の意識改革には半年程度かかるかなと思ったけど、コロナという危機のおかげで2週間程度で進めることができた」。7月上旬、横浜市神奈川区にある横浜創英の工藤校長は、教職員の変化をうれしそうにこう語る。3月に公立中学の校長を定年退職したばかり。高校運営の経験はゼロだ。ましてコロナ禍だが、対応はスピーディーだった。

横浜創英

3月31日にオンライン授業スタートのための管理職によるビデオ会議システム「Zoom」の研修を実施、4月1日には全教職員でコロナ対策のブレストを開始した。13日には工藤校長による生徒・保護者へのユーチューブ動画配信をスタートした。

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工藤校長の改革の目標は常に一貫している。「自律」した大人に育てることだ。生徒だけではなく、教職員も保護者もそれぞれが自ら考え、みんなと対話して課題を解決し、最適な教育環境を作り出す。今回はコロナという大きな課題に直面、工藤校長が教職員らに話したのは、先生たちが当事者としてこの課題について考え、みんなで話し合い、解決手段を見つけてもらうことだった。同校の箕輪靖副校長は「以前は校長からの指示待ちの教師も少なくなかったが、今は教師全員がそれぞれ考えて対話するようになった」と語る。

決して工藤校長がトップダウンでオンライン授業開始を指示したわけではない。同校では教職員に1人1台のパソコンを配備されておらず、IT(情報技術)に苦手意識のある中高年の教員も少なくなかった。

 

しかし、「コロナで苦しい家庭もある。我々が『苦手だからできない』ということは言わないようにしようということをまず決めました。あとは教員全員がオンラインでどう授業をしたらいいか、ブレストして徹底的に話し合い、かなり盛り上がっていました」

その結果、60代の先生も楽しくオンライン授業を展開できるようになったという。5月7日からオンライン授業を本格稼働。通常登校の再開は7月6日だが、授業の遅れはほぼなく、今後もオンラインを活用した授業もやっていく予定だ。

ITを活用し、従来の授業ではできなかったような新たな取り組みも進んでいる。複数の教師がチームをつくり、1人の教師が約200人の生徒に対して授業しているのだ。他の教師はオンラインの機能を使い、生徒をチームごとに分けてグループワークなどをサポートする。新しい取り組みは生徒からも出ており、オンライン部活やラジオ放送などのアイデアがすでに実行されている。

学級運営を子どもたちに任せる

麹町中学の校長時代に宿題や定期テスト、クラス担任制の廃止など学校の当たり前を次々やめて話題になった工藤校長。保守的な学校教育の常識を打ち破る合理的な手法、論理的な話し方が経済界からも注目を集めたが、企業人としての経験はない。東京理科大学卒後に数学の教師になり、中学校の現場や教育委員会でキャリアを積み上げてきた。

「この学級を君らにあげるよ」。山形県で教員をしていた若手時代、まずクラスの生徒にこう問いかけた。先生が指示するのではなく、生徒たちにクラス自治を任せた。それぞれに当事者意識を持たせ、自律した大人に育てるためだ。学級での決めごと、例えば掲示板のルール作りまで生徒に任せた。4月は生徒も多少困惑する。しかし「いつの間にか他のクラスと比べて『なんでも問題解決が早いし上手』という状態になっていく」のだという。

進学校から「荒れた中学」まで様々な教育現場で改革をしてきた工藤校長

校内暴力が横行する「荒れた中学」に赴任したときは、生徒や教師、保護者も巻き込み、関係者全員を当事者に変えることで学校再建の一翼も担った。教育委員会では職員や行政側と時にはぶつかりながら、ICT(情報通信技術)教育の環境づくりに尽力。関係者全員と話し合い、目標を定め、その課題解決の手段も対話で決めるのが工藤校長のスタイルだ。

 

名門校、麹町中学の校長時代に宿題や定期テストを廃止したのも、生徒の自律を促すためだった。生徒本人がやる気のないのに宿題を出されても身につかない。すでに宿題の学習内容を理解している生徒には時間のムダになる。定期テストも一夜漬けで暗記しても意味がない。その代わり単元テストを適宜実施して学習効果を高めた。

「実は麹町中の新入生の大半は第1志望の私立や国立の受験に失敗した子どもたちなんです。親や教師に不信感を抱いたり、無気力になったりする生徒が少なくない。それだけに工藤校長の改革は効果的だった」と千代田区の教育関係者は明かす。

2020年の麹町中学の進学実績は、筑波大学付属駒場高校に2人、開成高校1人、そして都立日比谷高校に5人、都立西高校に3人など、公立中学としては高い実績を上げている。日比谷高校の武内彰校長は「工藤校長のやり方はなかなかまねできない。日比谷はどんどん課題を出すやり方」と話す。

民主主義を支える大人を育てる

なぜ工藤校長は、これほど「自律」という言葉にこだわるのか。大げさに言えば、民主主義を支える大人を育てるためだという。工藤校長がショックを受けた調査がある。日本財団が19年に実施した「18歳意識調査」だ。

日米中など世界の主要9カ国を対象とした同調査によると、「自分を大人」「責任ある社会の一員」と答えた日本人は約30〜40%程度で米国や中国など他の主要国の3分の1から半分程度にとどまった。「自分で国や社会を変えられると思う」は18.3%、米国の65.7%、中国の65.6%と比べものにならない。

「日本人は指示待ちの人間ばかり。上の人に命じられると、行動するが、うまくいかなければ、人のせいにする。こんなことでは民主的な社会など作れるわけがない」と嘆く。

横浜創英は創立80年の歴史があり、バトン部が世界大会に出場するほか、吹奏楽部やダンス部、サッカー部などが全国クラス、部活動の盛んな学校として知られる。この数年は進学実績が伸び、入学志願者が急増している。

「横浜創英の母体、学校法人堀井学園には中高のほか、幼稚園や大学もある。横浜創英の取り組みを学園の全ての教職員の働き方を含めて、あらゆる経営改善に発展させていく覚悟です。ひいては日本の学校改革のモデルの一つになりたいと考えている。やはり最上位の目標は自律の力を養うこと。目標は麹町中と同じだけど、手段は違うかもしれない。教職員や生徒、保護者たちと対話しながら、全員で進めていきたい」と語る。教育界の改革者、工藤校長の新たな挑戦は始まったばかりだ。

(代慶達也氏)


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