全国の小中高校などで2018年度に認知されたいじめは過去最多の54万3933件だったことが17日、文部科学省の問題行動・不登校調査で分かった。このうち命の危険や不登校につながった疑いのある「重大事態」は前年度を128件上回る602件で、いじめ防止対策推進法の施行で集計が始まった2013年度以来最多。


いじめの認知件数は前年度比31.3%(12万9555件)増。増加幅は中学21.5%、高校19.7%に対し小学校が34.3%と特に大きく、10万8千件余り増えた。

同省は「学校がいじめの初期段階から対応するようになっている」と評価。2017年度から、けんかやふざけ合いも状況次第でいじめとするよう求めていることの影響もあるとみる。重大事態の増加に関しては「早めの認知に加え、学校が被害の申し立てを積極的に受け入れる傾向が強まった可能性もある」としている。

内容別(複数回答)では、からかいや悪口などが62.7%で最多。インターネットやSNS(交流サイト)によるひぼう・中傷などは3.0%だったが高校に限ると19.1%を占める。こうした「ネットいじめ」の件数は全体で3割増えた。

重大事態は小学校188件、中学校288件、高校122件、特別支援学校4件。7割で被害者が不登校になった。自殺した児童生徒でいじめの問題があったのは9人。

調査対象の学校の18.2%で認知件数がゼロだった。都道府県別に見た1千人当たりのいじめ認知件数は宮崎の101.3件から佐賀の9.7件まで10倍強の差がある。

宮崎県教育委員会は子どもへのアンケートや教員研修を通じて把握に努め、認知件数が少ない学校には再検証も求める。こうした活動が不十分な自治体がありそうだ。

小中高校で起きた暴力行為は15.2%増の7万2940件で過去最多。ほぼ半数を占める小学校の増加幅が29.0%と大きく、中学の2.2%、高校の12.3%を上回る。文科省は軽い事案の積極計上などが要因で、「荒れが深刻化しているわけではない」とみる。

学校から報告のあった児童生徒の自殺は332人で、前年度の250人から大幅増。警察庁の調べでは390人で、学校が把握していない自殺事例が依然ある。

不登校(30日以上欠席)の小中学生は14.2%増の16万4528人で、6年連続で増加。小学生全体の0.7%、中学生の3.7%を占める。小中学生1千人当たりでは16.9人で、1998年度以降最多。高校生の不登校は6.2%増の5万2723人で、4年ぶりに5万人台となった。

知的障がい あるがままに(2)

重度の知的障害がある息子に生活の場をつくりたいと、NPO法人のクリエイティブサポートレッツ(浜松市)を立ち上げた久保田翠・理事長(57)。半生をたどる連載の第2回は「一番大変だった」という草創期についてだ。

◇   ◇   ◇

 横浜市で生まれ、静岡市で育った。建築士の父親と画家の母親は「人と同じ事をするな」という教育方針だった。
アートや建築にはもともとなじみがありました。東京の美術大学、大学院に通い建築や景観デザインを学びました。東京の街づくり会社に就職も決まりましたが、地方の街のあり方を東京で考えることに疑問を覚え、内定を辞退。故郷の静岡市に戻り、妹と一緒にデザイン事務所を立ち上げました。

1990年、28歳で結婚し、翌々年に第技劼猟構を出産。育児に追われるなかで、経営よりデザインの仕事に専念しようと、事務所は妹に任せて、浜松市で父親の設計事務所に入りました。そして1996年、重度の知的障害のある息子、壮(たけし)を生むことになります。

 壮さんが自由に生活できる場を求め、障害児を持つほかの母親たちとともに「クリエイティブサポートレッツ」を設立。まず取り組んだのは子どもたちにアート作品を創作してもらうことだった。
レッツはボランティア団体としてスタートしました。お母さんの一人が場所を提供してくださり、みんなで子どもたちを連れてきてワイワイやっていました。学校が終わった後にお母さん同士でぺちゃくちゃ喋って、子どもたちは建物の中を走り回る。そんな楽しい空間でした。

「レッツアート」と称して、アート講座を始めました。絵画や音楽、ダンスなど、近所のアーティストたちにお願いして、講師になってもらうのです。壁に絵を描いたり造形ともいえないヘンテコなオブジェを作ったりと、やりたい放題でした。障害のある子だけでなく、たとえば引きこもりの子なども好き勝手に出入りしていました。

 障害者の創作を評価する「エイブルアート」と呼ばれる活動に注力。2002年には地元の浜松市で講演会などのイベントを主催し、展覧会も開いた。
エイブルアートに積極的になるにつれて、興味を持ったアーティストたちが次々と集まってきました。一方でお母さんたちのなかには、成長した子どもをちゃんと預かってほしいという方もいて、アートか福祉かの板挟みになりました。手伝ってくれる人がいないときは全部自分でやりました。

壮はまだ小学校に入ったばかりで体が小さく、会話もできませんから、アート講座には出られません。車の中に体を縛り付け、カーステレオをかけたまま、1時間も2時間も遊ばせていました。そのうち自分の排せつ物をまき散らし、車の中が便まみれになったこともあります。

他のお母さんから「久保田さん、何やってんの? 子どものために始めたのに、やってること違うでしょ」と問い詰められました。今振り返れば、このときが一番大変でした。レッツを辞めようとも考えました。

それでも何とか続けようと、2004年にNPO法人にしてスタッフを雇いました。行政に助成金を申請しましたが通りません。唯一認めてくれたのが外資系企業のフィリップ・モリスとファイザーでした。「あなたたちの活動は価値があるが、行政は(申請を)受け取らないだろう。それが分かるから、応援することにした」と言われました。

(安芸悟氏)

人手不足深刻、遠い質向上

「全世代型社会保障改革」の目玉である幼児教育と保育の無償化が10月から始まった。消費税を10%に引き上げた財源を投じるが、一部の幼稚園や認可外保育施設で便乗値上げが疑われる事例がある。人手不足が深刻化するなかで保育の質をどう確保していくかという課題も重くのしかかる。



「負担は変わらないのでお願いします」。東京都内のある認可外保育施設は昨夏、無償化に関連した事実上の値上げを保護者に説明した。新たなプログラムを追加するのに費用がかかり、それを無償化分で賄うというのが理由だ。大半の保護者は便乗値上げを疑いつつも、負担増にならないならと納得したという。

幼児教育・保育の無償化は原則3〜5歳は全世帯、0〜2歳は住民税非課税世帯が対象だ。年間で約8千億円を投じる。ただ家計に保育料の負担がかからなくなれば、保育所や幼稚園などの施設側は値上げしやすくなる。厚生労働省などは便乗値上げに注意を促す通知を出し実態把握を進めるが、どのようなケースが理由のない値上げと判断するのか線引きは難しい。保護者に負担がかからない無償化はばらまきになるリスクをはらむ。

政府は待機児童を2020年度末までにゼロにする目標を掲げる。保育所の新設など受け皿整備を進め、2019年4月の待機児童数は1.6万人と過去最少になったが、保育士不足は深刻だ。保育現場では「質」に関連した問題が起きている。

今年4月、東京・世田谷の認可保育園で散歩中の子どもが一時、いなくなった。関係者によると、保育士はいなくなったのに気づかぬまま保育園に戻り、子どもは警察が保護したのだという。保育士に余裕がなく、点呼をしていなかったのが原因とみられる。

これとは別の保育園を18年に辞めた20歳代の元保育士の女性は「臨月でも(保育所を休まずに)子どもを抱えている先輩を見て、一生はできないと思った」と話す。保育士の資格を持ちながらも、職場環境に不安を感じて保育現場から離れてしまう人は後を絶たない。

政府は2012年に決めた「税と社会保障の一体改革」で子育て支援を巡り、保育所整備など「量の拡充」と保育士の確保など「質の向上」に1兆円超の財源が必要とした。ところが、このうち3千億円分については恒久財源が見つからず毎年の予算編成の宿題になっている。

政府が10%以上の消費税引き上げの議論を封じたことで、追加の国民負担によって保育に充当できる新たな財源が出てくる可能性は低い。こうした制約下で子育て支援の拡充といった全世代型社会保障を実現していくには、高齢者に偏った給付を見直し、若い世代に回す財源を確保していくことが避けられない。

2019年に日本人の出生数は90万人を割り、過去最少になる公算が大きい。社会保障の支え手を増やすには、子どもを安心して産み育てられる環境づくりが急務だ。

奥田宏二が担当しました。

 2020年東京パラリンピックを機に、障害の有無にかかわらず認め合う「共生社会」がもてはやされている。だが重度の知的障害のある人たちへの偏見は根強い。NPO法人、クリエイティブサポートレッツ(浜松市)理事長の久保田翠さん(57)は彼らが自由に自分を表し、生活できる場をつくろうとしている。目指すのは、どんな障害もありのままに受け入れる社会だ。

2018年10月、浜松市の中心市街地に「たけし文化センター」という障害福祉施設を造りました。そこでは約30人の知的障害者が毎日を過ごしています。

ある人は階段をゆっくり上り下りし続けます。ある人は粘着テープをものに貼り付けてははがすことを繰り返しています。またある人は地面をたたいたり奇声を発したりしています。

こうした行為を、世間では「問題行動」とみなしてやめさせようとするでしょう。でもたけし文化センターでは、それらをすべて受け入れます。スタッフは和気あいあいと障害者に接し、彼らのユニークな言動に新鮮なまなざしを注いでいます。「なんか変わったことしてるぞ」と聞きつけた研究者やアーティストも訪れます。

世間で障害福祉施設はまだ迷惑施設と思われていますが、ここには一般の人が宿泊できるゲストハウスや、居住できるシェアハウスもあり、障害の有無にかかわらず共存できる空間を目指しています。「障害や問題行動をそのまま肯定する」というのが私たちの活動理念です。

  建築事務所でデザイナーをしていた久保田さんが、現在の活動を始めるきっかけは、1996年に重度の知的障害のある息子、壮(たけし)さんを生んだことだった。
私は出産後も、デザイン関係の仕事を続けたいと思っていました。壮が幼い頃は社会福祉法人の保育園に通わせていましたが、卒園後は学童保育に預けようと役所に相談に行きました。

すると「それは無理」と一蹴されました。障害児の面倒は母親がみるのが当たり前だというのです。母親が働き続けたければ親族がかわりにみる。それも無理なら、遠くにある福祉施設に隔離するしかありません。

ほとんどの福祉施設は壮のような重い知的障害のある子どもの問題行動をやめさせ、矯正しようとします。世の中の仕組みにのっとってお金を稼ぎ、社会に貢献できるよう訓練します。

しかし、そんなことできっこありません。自分の意思を表現することすら困難なのですから。むしろ問題行動のなかに、その人の物事へのこだわり、やりたいことをやりきる熱意があります。それは「表現」とも言いがたいものですが、誰もが持つ自分自身を表す力であり、行為だと思います。

同じような障害児を持つお母さんたちと「自分たちで居場所をつくろう」と2000年に立ち上げたのがクリエイティブサポートレッツです。悩みながら全力で突っ走ってきました。

(安芸悟氏が担当します)






先月23日、国連本部で開かれた「気候行動サミット」に出席した16歳の少女の訴えは衝撃的でした。

〈「よくそんなことが言えますね」。開幕式で怒りに声を震わせたのは、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(16)だった。各国が「緊急性は理解している」と言いながら気候変動対策に背を向けた結果、次世代にツケを回していると首脳らを糾弾した〉

グレタさんは地球温暖化に危機感を持ち、世の大人が真剣に対策に取り組んでいないのではないかと、去年夏から、学校を休み、たったひとりでスウェーデンの国会議事堂の前に座って対策を取るように政治家たちに呼びかけてきました。

これは「学校ストライキ」と呼ばれ、最初はたったひとりの行動でしたが、瞬く間に世界に広がりました。国連でのサミットを前に先月20日には世界150カ国以上で約400万人の若者が一斉にデモ行進しました。日本でも集会やデモ行進が行われましたが欧米ほどではありませんでした。

学校を休んでまでのグレタさんの行動には賛否両論があります。欧州では概して好意的な受け止め方が多かったようですが、米国ではCNNなどが活動を客観的に紹介する一方、トランプ大統領に好意的なFOXニュースは「学校を休んでもいいのか」という批判の声を伝えました。日本でも否定的なコメントが少なくありませんでした。

しかし、このところ毎年のように欧州を襲う熱波を経験すれば、温暖化に対する危機感を持つのは当然のことでしょう。日本列島に近づいても台風の勢力が衰えないのは、日本周辺の海水温が高いからです。

□ ■ □

10代の若者は純粋です。グレタさんの思い詰めたような顔を見ると、彼女あるいは世界の多くの若者たちが危機感を募らせるまでに温暖化対策を怠ってきた我々大人たちの責任を感じます。

もしあなたのお子さんが、「温暖化対策を求めてデモに行く」と言い出したら、どうしますか。あなたが学校の先生だとしたら、教え子が「デモに行く」「ストライキをする」と言い出したとき、どんな対応をするのでしょうか。結局は大人が問われているのです。

それにしても、このところ世界では若い女性の活躍ぶりが目立ちます。香港で民主化運動の先頭に立つ周庭(アグネス・チョウ)さんは22歳。日本の文化に憧れ、独学で日本語を学びました。香港で会いましたが、その日本語能力には瞠目(どうもく)しました。

彼女が民主化運動に参加したのは10代半ばだったというのですから驚きです。香港の未来に危機意識を持っているのですが、香港行政府のバックには中国共産党の存在があります。これ以上の民主化を認めそうもない中で、果敢に戦い続ける姿には頭が下がります。

□ ■ □

さらにパキスタンのマララ・ユスフザイさんは、女性への教育を求めて過激派に命を狙われ、頭部に銃弾を受けました。それでも運動をやめることはなく、2014年には17歳でノーベル平和賞を受賞しました。

彼女たちの奮闘ぶりを見ると、「大人のあなたは何をしているんですか?」という問いが聞こえてくるような気がします。私たちは、若者たちの危機感をしっかり受け止めることができるのでしょうか。

 大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

羽田空港(東京・大田)周辺に2020年、自動運転や先端医療の関連施設が入る複合施設が開業する。空港の拡張事業で生じた跡地を活用し、デンソーなどが進出する。地元の大田区も同年夏、町工場やスタートアップの協業を後押しする施設を設ける。2020年春に羽田の国際便の発着回数が増えるなか、創業や先端技術を海外発信する拠点とする。

鹿島やJR東日本などが出資する羽田みらい開発(東京・大田)が開発主体となり、複合施設「羽田イノベーションシティ」を整備する。施設全体の敷地面積は約5.9ヘクタールで、商業施設や3000人規模を収容するコンサートホールなどが入る予定だ。総事業費は約540億円。

空港周辺は政府の国家戦略特区制度を活用し、規制を凍結して新技術の実証実験ができる措置の適用も検討されている。こうした動きを踏まえて、デンソーはイノベーションシティ内に自動運転技術の開発拠点を整備する計画だ。先端医療関連の研究施設も開設する予定だ。

施設が位置する大田区は、新たな複合施設を活用した産業振興策として、創業支援拠点を開設する。2020年にシェアオフィスや交流スペースを備えた施設を開業する計画で、このほど約10法人の募集を始めた。中堅製造業を中心に募り、区内の町工場との連携につなげる。ベンチャーキャピタル(VC)を集めた起業家向けイベントなども開く計画だ。

スタートアップは斬新なアイデアを持つものの、試作品の製造装置や量産技術を持たない企業もある。同区は新拠点でものづくりに関わる事業者が交流することで、スタートアップのアイデアと町工場の製造技術との協業や連携につながる効果を期待している。

城南信用金庫(東京・品川)も20年6月、全国の信金職員らが利用できるスペースを開設する。信金職員が東京出張した時のサテライトオフィスとして提供するほか、企業のマッチングイベントなども開く計画だ。「地方企業同士の協業を促すだけでなく、大田区内の町工場と地方企業との連携も働き掛けたい」(城南信金)という。

中国欠席、足並み乱れ

東京都内で開かれていた海洋プラスチックごみ問題を討議する20カ国・地域(G20)の事務レベル会合が11日までに閉会した。2050年までに新たな汚染をゼロにする目標達成に向け、日米欧が主導し削減に向けて新技術を開発することなどを合意した。ただ最大の流出国の中国が欠席するなど足並みの乱れも目立ち、前途の多難さも浮き彫りになった。

今年6月のG20大阪サミットで宣言された、海洋汚染をゼロとする目標「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現に向け、8日から議論を続けていた。

「(海ごみが集まりやすい)ホットスポットを明らかにすることが大事だ」「データやモニタリングが不十分だ」

参加した各国からはプラ汚染への厳しい現状に対する意見が相次いだ。

各国の取り組みや課題などは共有できた。世界第2位の流出国であるインドネシアは、観光地のバリ州で2019年からレジ袋やストローなどの使い捨てプラスチックを禁止した。米国はごみの流出と回収の状況を調べ対策計画を作ろうとしている状況を紹介した。

海洋プラごみは、世界で年900万トン近く発生しG20がその5割弱を占めていると推定されている。実際の汚染調査は十分に進んでいないため、流出経路などの科学的な知見が不足している。

これらの課題を解決するため日米欧が主導して調査技術を開発する方針を合意した。日本は海洋モニタリングの手法やデータ整備を担う。小泉進次郎環境相は11日の閣議後の会見で「対策を進めるスタートを切れた意義は大きい」と成果を強調した。

一方で、汚染ゼロに向けて各国の温度差も浮き彫りになった。世界最大の流出国である中国のほか、インドや英国などG20の8カ国が欠席した。中国は事前に求められていた現状リポートも提出しなかった。「時間的に間に合わなかったようだ」(環境省)が、流出の約3割を占める中国の姿勢は国際協調に水を差す形となった。

2050年に新たな汚染ゼロとするハードルは高い。途上国ではプラごみが野積みになり豪雨などで流出する地域もある。九州大学の磯辺篤彦教授は「新たな汚染をなくすことは難しい。漏れ出ることを前提に対応を考えるべきだ」と指摘する。

20年のG20はサウジアラビアが議長国だ。最近まで同国はプラ対策に関心を示さなかった。大阪で示されたビジョンは早くも正念場を迎える。

津田塾大、街の課題解決 英語表記で地図/名産品を発信

近代五輪の父、クーベルタン男爵はオリンピックを通じて健全な若者を育て、相互理解や平和を実現しようとした。世界中から人々が訪れ、クリアすべき様々な問題も伴う五輪・パラリンピックの開催は、次代を担う大学生にとっても貴重な学びの機会といえる。日本文化の発信や海外チームをもてなす経験は、2020年東京大会のレガシーとなるはずだ。

メイン会場の新国立競技場、卓球が行われる東京体育館への「玄関」となるJR千駄ケ谷駅。改札手前で外国人観光客が足を止めた。視線を向けたのは、駅周辺や会場が英語で記された「SENDAGAYA MAP」。制作したのは、駅前にキャンパスが広がる津田塾大の学生たちだ。

「こんな近くで五輪が行われる。何か関われることはないか、ということで学内でアイデアを出しあった」と語るのは「梅五輪プロジェクト」学生代表の増野晶子さん(20)。2017年4月に開設された総合政策学部の1期生を中心に、現在は160人の学生が同プロジェクトに参加する。大学が力を入れる英語とデータサイエンスを生かし、16のテーマが進行中だ。

プロジェクトは2つの「志」を持っている。オリパラ開催で生じる課題解決への貢献と、日本の魅力発信だ。「現代社会の課題解決力を養う」という学部の教育方針にもぴったりのフィールドワークといえる。

千駄ケ谷駅の英語マップもその一つ。これまで通勤通学の人ばかりだった街に外国人の姿が目立つようになった。「実際にどんな問題があるのか、商店街や駅を聞き取りして回った。その中で出てきたのが『英語』だった」と増野さん。将棋会館からは英語で説明が難しいと聞き、ルール解説の英語版パンフレットを制作した。アイスクリーム屋の英語メニューも作った。

スマートフォンの利用や飲食など電車内のマナーを説明した外国人向けパンフでは、美術館の協力を得て浮世絵をモチーフに使用した。担当した滝まりなさん(21)は「海外の方たちの関心を引くにはどうしたらいいか、知恵を絞った」と話す。他にはSNS(交流サイト)上で落とし物を探す人と拾った人をマッチングさせる、自動応答システム(チャットボット)の開発にも挑戦中だ。

来夏は今以上に千駄ケ谷周辺を訪れる人が増えるだろう。オリパラ期間中、津田塾大ではキャンパス内で日本文化を体験できるイベントを企画している。

「東京の外にも盛り上がりを広げたい」と、梅五輪プロジェクトでは地方の魅力発信に力を入れる。眼鏡フレームや漆器の産地である福井県鯖江市と連携。学生が開発した商品を販売する。長野県飯田市の名産品として知られる水引の制作実演や販売も企画中だ。

増野さんらを指導する総合政策学部の曽根原登教授(65)は「学生が主体となってやることに意味がある」と語る。オリパラのレガシーとは、大会を触媒に社会の仕組みや価値観を変えることだ。学生にもチャレンジングな機会といえるだろう。

国際交流も深く
早大、事前キャンプ地に 外国選手をおもてなし

東京大会では各国の選手団が日本各地で事前キャンプを行う。トレーニング施設や宿泊所がそろった大学はアスリートにとって格好の練習拠点だ。受け入れをきっかけに、大学生が選手たちと国際交流を深める機会も増え始めている。

7月中旬。早大所沢キャンパス(埼玉県所沢市)では、韓国での水泳世界選手権を間近に控えたイタリアの競泳チームが練習を行っていた。来年の東京五輪の事前キャンプでも使用する同大の視察を兼ねた合宿。選手はプールやトレーニングルームを使用し、施設の感触を確かめた。

韓国と北朝鮮の休戦ラインを挟んで帯状に広がる非武装地帯(DMZ)の韓国側にある唯一の村、台城(テソン)洞。人の出入りが厳しく統制される「陸の孤島」に、韓国通信大手KTが次世代通信規格「5G」インフラを構築した。有事の安否確認やスマート農業、遠隔教育などのサービスを提供する。

ソウルから車で1時間あまり。韓国軍による検問を経てたどり着いた台城洞は46世帯、約200人が暮らすのどかな農村だ。1953年の朝鮮戦争の休戦協定で、南北はDMZ内にひとつずつ村を置くことを決めた。台城洞は同年、そうしてつくられた。休戦ラインの反対側に北朝鮮がつくった宣伝村、機井(キジョン)洞は目と鼻の先だ。

南北関係の改善で多少は和らいだとはいえ「私たちはいまも緊張下で暮らしている」(村の男性)。500メートルしか離れていない休戦ラインに近づくときは軍人のエスコートが必要だ。村の出入りにも門限がある。

KTは5Gを使い、村民の不便を解消するソリューションを提供する。一例は安否確認システムだ。村には警察も病院もない。問題が起きればまずは里長が対応する。全世帯に非常ベルが設置され、村民がボタンを押せば、里長が常駐する村民会館の大型モニターでどの家で押されたかがすぐにわかる。

農業のスマート化も進めた。センサーが土壌の状態を検知し、スプリンクラーが自動散水する。2キロ離れた貯水池の水門の開閉はスマートフォンで遠隔操作できるようにした。これまでは軍人同行で毎日現場に行き、手動で開閉していた。里長の金東九(キム・ドング)さん(50)は「時間が節約でき、家族と過ごす時間が増えた」と語る。

村にある唯一の学校、台城洞小学校では仮想現実(VR)などを使った授業が取り入れられている。室内体育ではボールを使った的当てなどのゲームができ、他校とのオンライン対戦も可能だ。

KTでは8月現在、携帯電話の加入者のうち4.8%が5Gを利用しており、同社は今後も比率の拡大をめざしている。南北分断の象徴である台城洞を「ショーケース」とすることで、5G普及に弾みをつけたい考えだ。

(台城洞で、鈴木壮太郎氏)

就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が「内定辞退率」の予測を販売していた問題で、情報を購入した企業にも厳しい目が向けられている。採用選考に利用していたのではないかとの疑いは消えず、個人情報保護委員会と厚生労働省は法違反がなかったかなどを調べている。



面接の順番左右

国立大4年の女子学生は8月にリクルートキャリアから受け取ったメールで自分の「辞退率」が企業に販売されていたことを知った。「合否に影響したのでは」。不本意だった就職活動を思い返し、疑念が浮かんだ。

資料の開示を求めたところ、企業に提供したという資料約20点のPDFファイルが届いた。しかし内容や利用方法についての詳しい説明はなく、記載された数値を見ても辞退率が高いのか低いのかすら分からなかった。「こんな説明では『合否に使ってない』と言われても信じられない」

リクルートキャリアは自社と親会社リクルートホールディングスを含む38社との間で辞退率の販売契約を結んでいた。社名は公表していないが、トヨタ自動車やホンダ、三菱電機、りそなホールディングスなどが契約を認めている。

優秀な学生が他社に移るのを防ぐための「参考情報」として提供していたとされ、リクルートキャリアは「合否判定に使った例はないと認識している」と説明している。

これに対し、ある顧客企業の担当者は「辞退率を面接の順番を決める材料として使っていた」と打ち明ける。「一般論だが、採用したい学生には早いうちに会っておいた方がいいと考える」と話し、間接的に合否に影響した可能性を否定しなかった。

個人情報保護委と厚労省は8〜9月、個人情報保護法と職業安定法に基づきリクルートキャリアに行政指導をした。その後、顧客企業についても両法違反などがなかったか調べている。

顧客企業はリクルートキャリアとデータ解析の業務委託契約を結び、就活生の個人情報を本人の同意なく提供していたとみられる。提供された情報はリクナビや提携サイトの閲覧履歴などと結合され、人工知能(AI)で辞退率を算出するのに使われていた。

採用担当の思惑

本人同意のない第三者提供も業務委託の枠組み内であれば法的に許容される。ただ「一般的に業務委託というのは統計的処理など単純な作業を外注するもの」(厚労省幹部)。今回の情報提供が業務委託の範囲と認められるかどうかが調査のポイントとなっている。

厚労省は法の下の平等を定める憲法14条に基づいて「公正な採用選考」を企業に求めており、この観点でも問題がなかったか調べている。「学生に不利に働きかねないデータを利用することへの認識が甘すぎる」と省幹部は苦言を呈する。

東京労働局の幹部によると、聞き取りをした顧客企業では、内定を辞退する学生の数によって採用担当者の人事評価が左右される仕組みが目に付いたという。「プレッシャーが機微な情報を使うリスクへの感度を鈍らせたのか」

辞退率問題の影響か、9月下旬に東京都内で開かれたリクナビ主催の就活イベントでは参加企業が前年より1割以上減り、集まった学生は4割以上減った。私立大3年の女子学生は「就活にリクナビを使わない選択肢はない」としながらも「自分の情報がどう使われるのか不安はある」と話していた。

(寺岡篤志氏、伴正春氏)


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