IT(情報技術)と金融を融合したフィンテック企業の利益が拡大している。世界の金融大手の2020年4〜6月期決算では、フィンテック勢の利益が日米欧の大手銀を上回るケースが目立った。株式時価総額にとどまらず、業績でも逆転が始まっている。新型コロナウイルスによるデジタル化の加速が、この流れを強めそうだ。

 

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「フィジカル(実物)からデジタルへのシフトが一過性ではない強い追い風になる」。オンライン決済大手の米ペイパル・ホールディングスが開いた決算説明会では、ダン・シュルマン最高経営責任者(CEO)が期待をあらわにした。

ペイパルの4〜6月期の純利益は前年同期比86%増の15億3000万ドル(約1600億円)と過去最高となった。コロナ禍でインターネット通販市場が伸び、決済サービスの総額が3割増えた。

中国勢の躍進も目立つ。騰訊控股(テンセント)のフィンテック・法人向けサービス事業の粗利益は4〜6月期に57%増の12億5000万ドルとなった。中小の小売りや外食などでスマホ決済「微信支付(ウィーチャットペイ)」のシステムを取り入れる動きが広がった。

アリババ集団の4〜6月期決算では33%出資する金融会社アント・グループの持ち分法利益が4億ドル強だった。アント・グループの純利益は約13億ドルとみられる。スマホ決済「支付宝(アリペイ)」を軸に、スマホ銀行や資産運用などの金融サービスが拡大している。

フィンテック勢の利益水準は金融グループ大手に並んできた。ペイパルの利益は米シティグループを上回り、アント・グループの利益はクレディ・スイスと同水準だ。

 

 

株式時価総額ではより大きさが目立つ。ペイパルの約2300億ドルは日本のメガバンク3社合計(約1300億ドル)を7割上回る。アント・グループは新規株式公開(IPO)を予定し、時価総額は米銀2位のバンク・オブ・アメリカ(約2200億ドル)に迫る2000億ドルが目標だ。

他の決済関連ではクレジットカード大手の米ビザの4〜6月期は23%減益だった。消費の落ち込みで全体のカード利用が低迷した。ただ、オンラインでの決済が増え、支えになっている。

3月に銀行業の免許を取得した米スクエアは4〜6月期は赤字だった。個人経営の小売店などがスマホで簡単にクレジットカードを決済できる仕組みを整えて急成長しており、21年には銀行も設立する予定。時価総額は約670億ドルと、三菱UFJフィナンシャル・グループを上回る。

 

■デジタル対応で業績に差

 

商業銀行や投資銀行でもデジタル対応が業績を分けた。

米ゴールドマン・サックスの市場部門では債券、株式ともに4〜6月の営業収益が金融危機時以来の最高となった。電子取引プラットフォーム「マーキー」を顧客に提供し、顧客はコロナ禍で在宅でも電子売買やリスク管理ができた。4月の外部契約は過去最高だった。汚職関連の引当金で全体では減益だった。

米モルガン・スタンレーは4〜6月期に従業員の90%以上が在宅勤務をしていたが最高益だった。野村ホールディングスなど米国でトレーディング業務を行う企業は総じて好業績だった。

米国では米連邦準備理事会(FRB)のシステムが電子化され「国債の入札も自宅から参加でき、在宅勤務は業務の障害とならなかった」(大手証券幹部)という。一方、日本市場では、国債の入札や日銀オペに自宅で対応できるシステム環境になっていない。出勤して会社の専用端末で取引せざるをえなかった。

QUICK・ファクトセットによると、東証上場銘柄の4〜6月の1日当たり売買高は1〜3月比で減った。都市封鎖が日本より厳しかったニューヨークやロンドンではむしろ取引が増えており、大和総研の中曽宏氏は「(金融のデジタル化の進展で)株や債券の大きな変動がもたらした収益機会を確実に捉えることができた」と分析する。

(山下晃氏、須賀恭平氏)

東京の千代田区立麹町中学校長として宿題や定期テストの廃止など数々の教育改革を断行したことで知られる工藤勇一氏。U22が5月末に開催した校長対談ライブ配信「これからの学びのカタチ」に出演した際に、繰り返し強調したのが、「自律」という言葉だった。工藤氏はどのように改革を実践してきたのか、なぜ「自律」という言葉にこだわるのか。4月に校長に就任した横浜創英中学・高等学校を訪ね、聞いてみた。

就任直後のコロナ危機 2週間で意識改革

「初期段階での教職員約80人の意識改革には半年程度かかるかなと思ったけど、コロナという危機のおかげで2週間程度で進めることができた」。7月上旬、横浜市神奈川区にある横浜創英の工藤校長は、教職員の変化をうれしそうにこう語る。3月に公立中学の校長を定年退職したばかり。高校運営の経験はゼロだ。ましてコロナ禍だが、対応はスピーディーだった。

横浜創英

3月31日にオンライン授業スタートのための管理職によるビデオ会議システム「Zoom」の研修を実施、4月1日には全教職員でコロナ対策のブレストを開始した。13日には工藤校長による生徒・保護者へのユーチューブ動画配信をスタートした。

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工藤校長の改革の目標は常に一貫している。「自律」した大人に育てることだ。生徒だけではなく、教職員も保護者もそれぞれが自ら考え、みんなと対話して課題を解決し、最適な教育環境を作り出す。今回はコロナという大きな課題に直面、工藤校長が教職員らに話したのは、先生たちが当事者としてこの課題について考え、みんなで話し合い、解決手段を見つけてもらうことだった。同校の箕輪靖副校長は「以前は校長からの指示待ちの教師も少なくなかったが、今は教師全員がそれぞれ考えて対話するようになった」と語る。

決して工藤校長がトップダウンでオンライン授業開始を指示したわけではない。同校では教職員に1人1台のパソコンを配備されておらず、IT(情報技術)に苦手意識のある中高年の教員も少なくなかった。

 

しかし、「コロナで苦しい家庭もある。我々が『苦手だからできない』ということは言わないようにしようということをまず決めました。あとは教員全員がオンラインでどう授業をしたらいいか、ブレストして徹底的に話し合い、かなり盛り上がっていました」

その結果、60代の先生も楽しくオンライン授業を展開できるようになったという。5月7日からオンライン授業を本格稼働。通常登校の再開は7月6日だが、授業の遅れはほぼなく、今後もオンラインを活用した授業もやっていく予定だ。

ITを活用し、従来の授業ではできなかったような新たな取り組みも進んでいる。複数の教師がチームをつくり、1人の教師が約200人の生徒に対して授業しているのだ。他の教師はオンラインの機能を使い、生徒をチームごとに分けてグループワークなどをサポートする。新しい取り組みは生徒からも出ており、オンライン部活やラジオ放送などのアイデアがすでに実行されている。

学級運営を子どもたちに任せる

麹町中学の校長時代に宿題や定期テスト、クラス担任制の廃止など学校の当たり前を次々やめて話題になった工藤校長。保守的な学校教育の常識を打ち破る合理的な手法、論理的な話し方が経済界からも注目を集めたが、企業人としての経験はない。東京理科大学卒後に数学の教師になり、中学校の現場や教育委員会でキャリアを積み上げてきた。

「この学級を君らにあげるよ」。山形県で教員をしていた若手時代、まずクラスの生徒にこう問いかけた。先生が指示するのではなく、生徒たちにクラス自治を任せた。それぞれに当事者意識を持たせ、自律した大人に育てるためだ。学級での決めごと、例えば掲示板のルール作りまで生徒に任せた。4月は生徒も多少困惑する。しかし「いつの間にか他のクラスと比べて『なんでも問題解決が早いし上手』という状態になっていく」のだという。

進学校から「荒れた中学」まで様々な教育現場で改革をしてきた工藤校長

校内暴力が横行する「荒れた中学」に赴任したときは、生徒や教師、保護者も巻き込み、関係者全員を当事者に変えることで学校再建の一翼も担った。教育委員会では職員や行政側と時にはぶつかりながら、ICT(情報通信技術)教育の環境づくりに尽力。関係者全員と話し合い、目標を定め、その課題解決の手段も対話で決めるのが工藤校長のスタイルだ。

 

名門校、麹町中学の校長時代に宿題や定期テストを廃止したのも、生徒の自律を促すためだった。生徒本人がやる気のないのに宿題を出されても身につかない。すでに宿題の学習内容を理解している生徒には時間のムダになる。定期テストも一夜漬けで暗記しても意味がない。その代わり単元テストを適宜実施して学習効果を高めた。

「実は麹町中の新入生の大半は第1志望の私立や国立の受験に失敗した子どもたちなんです。親や教師に不信感を抱いたり、無気力になったりする生徒が少なくない。それだけに工藤校長の改革は効果的だった」と千代田区の教育関係者は明かす。

2020年の麹町中学の進学実績は、筑波大学付属駒場高校に2人、開成高校1人、そして都立日比谷高校に5人、都立西高校に3人など、公立中学としては高い実績を上げている。日比谷高校の武内彰校長は「工藤校長のやり方はなかなかまねできない。日比谷はどんどん課題を出すやり方」と話す。

民主主義を支える大人を育てる

なぜ工藤校長は、これほど「自律」という言葉にこだわるのか。大げさに言えば、民主主義を支える大人を育てるためだという。工藤校長がショックを受けた調査がある。日本財団が19年に実施した「18歳意識調査」だ。

日米中など世界の主要9カ国を対象とした同調査によると、「自分を大人」「責任ある社会の一員」と答えた日本人は約30〜40%程度で米国や中国など他の主要国の3分の1から半分程度にとどまった。「自分で国や社会を変えられると思う」は18.3%、米国の65.7%、中国の65.6%と比べものにならない。

「日本人は指示待ちの人間ばかり。上の人に命じられると、行動するが、うまくいかなければ、人のせいにする。こんなことでは民主的な社会など作れるわけがない」と嘆く。

横浜創英は創立80年の歴史があり、バトン部が世界大会に出場するほか、吹奏楽部やダンス部、サッカー部などが全国クラス、部活動の盛んな学校として知られる。この数年は進学実績が伸び、入学志願者が急増している。

「横浜創英の母体、学校法人堀井学園には中高のほか、幼稚園や大学もある。横浜創英の取り組みを学園の全ての教職員の働き方を含めて、あらゆる経営改善に発展させていく覚悟です。ひいては日本の学校改革のモデルの一つになりたいと考えている。やはり最上位の目標は自律の力を養うこと。目標は麹町中と同じだけど、手段は違うかもしれない。教職員や生徒、保護者たちと対話しながら、全員で進めていきたい」と語る。教育界の改革者、工藤校長の新たな挑戦は始まったばかりだ。

(代慶達也氏)

スマホ決済大手のPayPay(ペイペイ)が「スーパーアプリ」と呼ばれ様々なサービスの入り口となる多機能型アプリの構築に乗り出す。10月にも一部の技術を無償で公開。年60種を目標に外部企業に旅行予約や家計簿など、ペイペイにのせるミニアプリの開発を促す。主力の店舗決済からネットサービスを広げ、早期の黒字化を目指す。同社を傘下に持つソフトバンクグループ(SBG)の成長戦略も左右しそうだ。

 

 

 

ペイペイが開発する多機能型のアプリは、中国や東南アジアで先行して普及。ペイペイは他社のアプリを連携させる「API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」という技術の仕様を公開する。ペイペイ上でサービスを提供したい企業は2週間程度でミニアプリを開発できる。企業がミニアプリをペイペイと連携させた場合に、同社が手数料を取るとみられる。

ペイペイで使えるミニアプリは現在5つ。SBG傘下のファンドが出資する中国・滴滴出行(ディディ)系のタクシー配車、ヤフーのネット通販などSBG関連のサービスが中心だ。ペイペイの開発責任者、アディーティヤ・マハートレ氏は「旅行予約や家計簿機能などのほか、月5社程度のミニアプリをのせる」と説明。年60種のペースでミニアプリを増やす。

ミニアプリを作る企業にもメリットがある。3千万人を超える利用者の購買行動を把握できるペイペイを通じ、個人の嗜好にあわせた広告宣伝も可能。売り上げの底上げ効果を期待できる。

ペイペイがAPIの公開に踏み切るのは、ミニアプリで利用者の裾野を広げて採算を改善し、海外でも競争できるアプリに進化するためだ。

 

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ペイペイは2018年10月のサービス開始以来、利用者や加盟店の獲得を優先してきた。SBGの資本力を生かした「100億円還元」などの消費者キャンペーンを実施。中小加盟店の手数料は21年9月まで無料だ。コンビニエンスストアなど230万カ所で利用でき、公正取引委員会によると、スマホ決済金額でペイペイの国内シェアは5割強で首位という。

一方、販促費を集中投下した結果、20年3月期のペイペイの営業損益は822億円の赤字。売上高は伸びているが、株式市場では「採算改善のロードマップが不可欠だ」との声が上がっていた。

そこでミニアプリをペイペイにのせる企業から手数料を取り、中小事業者の決済手数料も21年10月から有料とする。SBG傘下で同様にペイペイに出資するソフトバンクの宮内謙社長は一連の施策で「赤字はピークアウトに向かう」と話す。

提携先を通じてペイペイの利用も促す。7月から企業が自社のネット通販などの決済手段としてペイペイを導入できるようにした。セブン―イレブン・ジャパンも自社アプリの決済にペイペイを使うことを決めた。

こうした多機能型アプリでは、中国勢が先行する。アリババ集団系の「支付宝(アリペイ)」は中国での利用者が9億人を超え、ミニアプリは200万を超える。資産運用や小口融資、保険など金融サービスが売上高全体の5割を占めるまでに成長。既に黒字化しているとの見方もある。

 

ペイペイの事前注文サービスのミニアプリ

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ペイペイの事前注文サービスのミニアプリ

スマホ決済は「クレジットカードに比べ少額決済が中心で単体での収益化が難しい」との声も聞かれる。ペイペイを傘下に持つZホールディングス(HD)はグループの銀行や証券会社、金融サービスの名称を「ペイペイ」に統一、アプリ上での展開を視野に入れる。加盟店や事業者向け金融サービスも念頭に置く。

加盟店の日々の実績や売り上げなど広範なデータを把握できれば、設備投資や仕入れに必要な小口融資、保険サービスを提供できる。入出金の状況などをもとに与信も算出できる。スマホ決済に比べ高い手数料収入が見込める金融商品の利用が増えれば、ペイペイの赤字縮小につながる。

ペイペイの事業の成否はSBGのグループ戦略にも影響する。21年3月には傘下のZHDとLINEが経営統合する。同じようにスマホ決済を持つLINEとペイペイとの協業で、グループとしてアジアを中心に海外に本格進出する構えだ。グローバルに通用するアプリに育てるには、グループ内に分散する資金や技術をどう集中させるかも課題になる。

(駿河翼)

 

▼スーパーアプリ 決済やメッセージ、配車、ネット通販など日常的に使うサービスを一括で提供するアプリ。運営会社は利用者の消費動向など広範なデータを生かし、嗜好に合ったサービスを提供できる。消費者は複数のアプリをダウンロードしたり、会員情報を頻繁に入力したりする手間が省ける。決済を中心に金融事業を広げる中国の「アリペイ」や、配車サービスを軸に展開するシンガポールの「グラブ」などが知られる。

Appleの時価総額は米企業で初めて2兆ドルを超えた=AP

Appleの時価総額は米企業で初めて2兆ドルを超えた=AP

【ニューヨーク=宮本岳則】米アップルの時価総額が19日、初めて2兆ドル(約210兆円)を超えた。2兆ドルは米企業として初めて。新型コロナウイルスの感染拡大と景気回復の遅れが懸念されるなか、安定成長が見込める企業にマネーが集中している。

19日の米国株式市場でアップル株は続伸し、一時、前日比1.5%高の468ドル65セントを付けた。7月下旬に発表した20年4〜6月期の決算で、売上高と純利益がともに市場予想を上回ったことで上昇に弾みがついている。年初来の上昇率は5割を超える。

 

新型コロナのまん延で在宅での学習や勤務が増え、ノートパソコンなどアップル製品の需要は拡大している。株式分割も発表し、個人投資家がアップル株を買いやすくなるといった思惑も株価を押し上げる。

アップルの時価総額は7月末にサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコを抜き、世界最大となった。世界の上場企業で時価総額が2兆ドルを超えるのは、アラムコが2019年12月の上場直後に記録して以来、2社目となる。アラムコは原油安と業績悪化懸念で株価が低迷、足元の時価総額は1兆8000億ドル台で推移する。

コロナ下の株式市場では大型ハイテク株へのマネー集中が進んでいる。

アップルは在宅勤務需要に加え、次世代通信規格「5G」対応端末の買い替え需要やサービス収入の拡大が見込める。米マイクロソフトや米アマゾン・ドット・コムも在宅勤務の拡大による「クラウド」需要の拡大など、投資家は成長ストーリーを描きやすい。

アマゾンも年初来の上昇率が約80%に達している。アップル株の19日終値は462ドル83セント(0.6%高)で、時価総額は2兆ドルを若干下回った。今後、時価総額2兆ドル台を維持できるかが焦点になる。

SDGsやESGなど企業の取り組みに関する言葉は日本でも普及してきたが、ESD(Education for Sustainable Development)と呼ばれる「持続可能な開発のための教育」の考え方はまだ浸透していない。その推進のために企業は何ができるのか。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、日本旅行やファーストリテイリングなど、ESDに関する取り組みを行う企業と全国の教員を結びつけるセッションを開催。活発な意見交換の末に見えてきたのは、企業側のより積極的な働きかけと教育現場へのアプローチだ。(いからしひろき)

パネリストは以下の通り。

日本旅行 営業企画本部 SDGs推進チームマネージャー
椎葉隆介氏

ファーストリテイリング サステナビリティ部 ビジネス・社会課題解決連動チームリーダー
松林貴子氏

日本ケロッグ マーケティング部PRマネージャー
木村正人氏

東京工科大学 工学部応用化学科 大学院サステイナブル工学専攻 教授
江頭靖幸氏

セイコーエプソン 広報IR部エキスパート
立石祐二氏

ファシリテーターは朝日エルの岡山慶子会長が務めた。

会場は、全国から集まった教育関係者で満員となった。まずは各企業の取り組みのプレゼン、その後、会場の教育関係者たちの意見発表という段取りで進行した。

修学旅行を通じて持続可能性を伝える:日本旅行

最初に発表を行ったのは、日本旅行の椎葉氏。テーマは「SDGsを取り入れた教育旅行の取り組み」。同社は創業明治38年(1905年)の老舗旅行会社。2019年12月24日にSDGs宣言を行ったばかりだ。

そのきっかけとなったのは「修学旅行」だ。全国の学校の修学旅行を扱う同社だが、ここ数年、首都圏の高校の修学旅行見積仕様書に「SDGs」というキーワードが目につくようになってきたという。

ただし当初は「SDGsってなに?」といった印象。「パンフレットにロゴでも貼ればいいか」という程度の認識だったそうだが、SDGs関連のイベントへの協力依頼がさまざまな地域で起こるようになり、ついに「本腰を入れよう」と決意したそうだ。

さてそうした経緯で行われた日本旅行のSDGs宣言だが、スローガンは「Tourism for Tomorrow(ツーリズム・フォー・トゥモロー)」。この言葉には「自分たちのビジネスの種である観光資源をきっちり守っていく」という決意が込められている。同社にとっての観光資源とは具体的に「人」「風景」「文化」だそう。「環境」ではなく「風景」としたのは観光を生業とする企業の矜持だという。

取り組むSDGsは、12番、16番、17番だ。特にこだわったのが12番「つくる責任 つかう責任」で、これまでは顧客に言われたものを手配するのが仕事だったが、「今後は(旅行商品を作る会社の責任として)社会に対して必要なものをどんどん発信していく」と椎葉氏は抱負を語った。

すでに、国内外でSDGs関連の旅行商品を扱っており、例えば国内では京都でオーバーツーリズム(観光客が観光地のキャパシティ以上に訪れてしまうこと)を題材に学ぶことのできるプログラム、熊本では熊本日日新聞や肥後銀行など多企業との協働で水資源について学ぶプログラムを開発し、取り組んでいる。

そしてもう一つNPO法人TABLE FOR TWO(東京・港)とのコラボレーションも紹介された。同NPOは、対象となる定食や食品の購入1食につき20円の寄付金を開発途上国の子どもの学校給食にあてる活動を行っており、都内の800社程度にメニューを導入している。日本旅行は、その企業の社食に学生を連れていき、なぜ導入したかの経緯を担当者に話してもらい、実際に食べてもらう(つまり20円を寄付してもらう)というプログラムを行っている。これは同社のSDGs関連における主力商品で、同NPOと開発した弁当を修学旅行で食べてもらうなどの取り組みも行っている。

ちなみに、今回のサステナブル・ブランド国際会議にも全国の高校生を招待。「企業に取り組んでほしいSDGs」というテーマで協力企業にプレゼンを行うという貴重な体験の場を提供した。
 
また、今後はサンリオとの共同プロジェクトとして、例えば修学旅行先でアメニティを使わない、あるいは連泊でシーツを替えないといった活動に協力した学校にはサンリオの人気キャラクター、ハローキティとのコラボ商品などをプレゼントすることも検討しているそうだ。これは学生たちにとっても楽しみだろう。

職場体験の機会を提供:ファーストリテイリング

続いてはファーストリテイリングの松林氏。「ユニクロ」や「GU」を展開する同社のサステナビリティのテーマは「服のチカラを、社会のチカラに」だ。ここには「よい服をつくり、よい服を売ることで、 世界をよい方向へ変えていくことができる」というメッセージが込められている。同社が社会貢献活動を行うのは、コミュニティ自体が健全な状態にあってこそ事業が継続できるからであると松林氏は述べた。

活動の指針となるキーワードは次の3つ。

*Planet……地球に負荷をかけない服作り
*People……安全で人権配慮された職場環境をつくる
*Community……地域との共存共栄を目指していく

全商品リサイクル活動やスポーツ・文化支援、環境保全活動など6つの領域で具体的な取り組みを展開するが、今回のセッションに関係するのは「子ども・次世代教育」だ。

「子ども・次世代教育」の取り組みは「職場体験」と「出張授業 “届けよう服のチカラ”プロジェクト」の2つを柱としている。

「職場体験」は、主に中学2年生向けに通年実施され、2019年度は47都道府県・867校・約2500人が参加した。学校の近くの「ユニクロ」あるいは「GU」の店舗で、商品の陳列から接客、店内マイク放送などさまざまな仕事を臨場感とともに体験することで、働く意義や考える力、社会の一員としての自立心を養うことができるという。また、企業ならではのマーケティング、チームワーク、課題解決能力を磨く体験もできるのがメリットだ。

「出張授業 “届けよう服のチカラ”プロジェクト」は、全国の小中高校の生徒が中心になって行う学校版の全商品リサイクル活動だ。昨年度は46都道府県・442校・約4万人が参加し、約87万着の古着を回収したという。同社の社員が各学校に赴き、リサイクルの仕組みや難民問題についてレクチャーした後、校内や近隣に呼びかけて衣料を回収、ユニクロの提携先の倉庫に発送し、17のカテゴリーに選別して、難民キャンプへ送る。これにより国際問題や環境問題に関心を持ってもらうだけでなく「服の力を理解し、自分たちも社会貢献できると思えるきっかけをつくりたい」と松林氏は語った。

服は「命を守る」のと同時に「人としての尊厳を守る」ためのアイテムでもあると松林氏は説明した。そうした人間として必要最低限の尊厳すら維持できない状態の難民が世界に約7020万人、地球人口の約1%もいるという。

自治体やNPOと連携し朝食習慣と学習のプログラム:日本ケロッグ

服の次は「食」である。日本ケロッグの木村氏は、まず同社のルーツについて語った。創業者のケロッグ氏はもともと米国ミシガン州で療養所を経営し、そこで食事療法や健康療法、いまでいうヘルスツーリズムを実践していたという。その療養所に来る人のために栄養価の高い食事を提供すべく生み出したのが世界初のシリアル、のちの「コーンフレーク」だ。

現在は世界180カ国以上で展開しているが、そうしたルーツを持つことから、同社は昔から慈善活動に熱心だったという。1930年にケロッグ氏が子どものために設立した「W.K.ケロッグ財団」は現在、米国ではトップ10に入る規模の慈善団体だそうだ。

そんな同社は、子どもの食の課題解決のために「Breakfasts for Better Days(ブレックファースト・フォー・ベター・デイズ)」というプログラムを世界各国で展開している。持続可能な農業の支援や食育なども含まれるが、メインはSDGsの2番「飢餓をゼロに」にコミットメントする食事提供で、全世界で25億食を2025年までに無償提供する計画だ。

日本でも年間30万食をフードバンクやこども食堂に長年無償提供し続けているが、木村氏は「課題を感じている」と言う。というのも、こうした活動を続けているのに、「児童の朝食欠食」という問題がなくならないどころか、年々拡大しているからだ。

原因はさまざまに考えられるが、より複雑化している子どもの食の問題を解決するには、これまでのような食料支援型のアプローチだけではなく、自治体や教育関係者、NPOと連動した「課題解決型のアプローチ」への進化が必要だという結論に至った。

その考えのもと、昨年度から試験的に行っているのが滋賀県甲賀市(こうかし)との連携プロジェクト「こうか・こども朝活サロン」だ。甲賀市では子どもたちの「朝食習慣」を推進するための活動を以前から行っているが、以下のような課題が浮かび上がっていた。

1、なかなか子どもに届かない、食支援だけでは習慣化しない
2、夏休みになるとサポートできない
3、食の乱れが学業にも影響を及ぼす
4、外国人労働者の子どもが隔絶されている

そこで、ターゲットを「夏休みの朝食習慣化」に絞り、支援を行うこととした。

場所は甲賀市の公共施設を利用。日本ケロッグがシリアルを提供した。子どもたちが集まったら朝食タイム。自由に「マイシリアル」を選んで食べるという楽しげなもので、シリアルに慣れた外国人の子どもたちにも好評だったという。食後は「朝勉強」タイム。夏休みの宿題を朝のうちに片づけてしまおうという狙いだ。外国人の子どもたちには、「甲賀市国際交流協会」のスタッフが外国語サポートを行った。

結果的には、初日から最終日まで参加した子どももいるほど好評で、食事がモチベーションとなり勉強のやる気も引き出せたという。また、シリアルを置くだけなので食事提供のコストを低く抑えられることもわかった。

木村氏は子どもの食問題の課題解決に向けて、これからも自治体、NPO、教育専門家とコラボレーションしたアクションを進めていきたいと話し、「よいアイデアがあればぜひ教えて欲しい」と会場の教員たちに呼びかけた。

「サステイナブル工学」は全学科共通科目:東京工科大学

続いては、対象年齢がぐっと上がって大学生へのESDについて。東京工科大学工学部 大学院サステイナブル工学専攻の江頭教授がプレゼンテーションを行った。「サステイナブル工学」とは「サステイナブル社会をつくるための工学」であり、ライフサイクル思想に基づいてPlanet(地球環境との調和)、People(生活の質の向上)、Prosperity(経済の活性化)の3つの「P」の調和を行うという。

工学の目標は「より良いもの」を「より安く」「より大量」に作ることであるから、これまではPeople(生活の質の向上)とProsperity(経済の活性化)のバランスをとることでよしとされてきたが、そこに新たにもう一つ、Planet(地球環境との調和)というバランスの要因を取り入れるのがサステイナブル工学の肝であるという。

具体的には「環境に対する影響評価」であり、「LCA(Life Cycle Assessment)」を実践的に学ぶことだ。LCAとは、江頭氏いわく「何かのサービスや製品をつくる、それが原料採取から処理までどれくらいの環境負荷をかけているか、どれだけの資源を使っているかを評価する方法」だ。

同大学では、すべての学科でサステイナブル工学基礎、サステイナブル工学実習、サステイナブル工学プロジェクト演習を共通科目として学ぶ。

初年度は座学が中心だが、やがてグループワークやプレゼンテーションなどを通して、自ら「どうやったらCO2が減るか」や「この製品にはどんな社会価値があるか」ということを実践的に学んでいけるカリキュラムが組まれているという。学習においても、いかに“自分ごと”にするかが大事だということだ。

施策に必要なのは「技術」「機器」「コンテンツ」連動:セイコーエプソン

セイコーエプソンの立石氏は「これからの教育に向けエプソンができること」と題して発表を行った。同社はプリンターで有名だが、実はプロジェクターも売上高の2割を占めており、世界ナンバーワンシェアを18年間も続けている。今回はそのプロジェクターを活用した「バーチャルスクール」の提案であった。

百聞は一見にしかず、別階の会場フロアとの遠隔通信による実演が行われた。もともと企業向けに開発されたこのシステムで、立石氏いわく「遠く離れたオフィスをいかにも隣にいるように繋ぐことができる」とのこと。TV会議のように「あっちとこっち」に分断されるのではなく、あたかも隣の部署にいるかのように、「あっちの人は離席しているからいま電話できないね。あ、戻ってきたから電話しよう」など、臨場感のあるコミュニケーションができるという。臨場感は子どもたちの教育現場にも必要であろう。スマートフォンとつなぐこともできるので、工場の最深部や山奥など、実際に子どもたちを連れて行くには困難な場所を「社会科見学」させることも可能だ。

さらには、「スマートグラス」を併用しての授業が効果的だという。メガネ型のウェアラブル機器といえば、目を覆って一人の世界に入るイメージがあるが、これはシースルーになっているので、実際に見えているものに“追加”で情報が出てくるイメージだ(AR/拡張現実に近いか)。これを使えば、聴覚障害の子どもにリアルタイムで教員の言葉を「文字テロップ」として表示することができるという。

こうした映像機器など、先端技術の活用を推進する施策は、文部科学省も近年打ち出していることだが、「通信技術」「映像機器」「コンテンツ」の3つからなるサークルがつながって初めて動かすことができる。そして、そのカギを握るのが現場で実際に運用する教員だ。立石氏は、「どんな使い方があるか、ぜひ教えてほしい」と、日本ケロッグの木村氏同様、会場の教員たちに呼びかけた。

現場の教育者のリアルな声は

会場に集まった教育関係者からも活発な意見があった。登壇者の発表への感想だけでなく、持続可能な社会を担う若い世代へのESDの役割と課題、企業との連携についての課題と希望などがテーマだ。すべての意見が傾聴すべきものであったが、主な意見を以下に抜粋する。

【大阪府・中学校教師】
「これまで、海外の大学とつなぐ、聴覚障害児への対応、子ども食堂の立ち上げなど、やりたいことがたくさんあったが、リソースがなくて頓挫すること多数。(企業の力を借りるべきだが)現場の先生にはそれを良くないと考える人も多い。また、テレビ会議などの操作運用についていけない先生も。そうしたことを教えてもらう機会もぜひ提供してほしい」

【徳島県・小学校教師】
「我が校ではSDGsアワードでパートナーシップ賞をもらうなど、教職員一丸となってSDGsに取り組んでいるが、違う学校に行ったら『何それ?』という反応。社会課題に対して教員間でも温度差がある。社会課題を知らない教員の下にいる子どもは社会課題について学べない。もっと全体的に知っていく必要があると感じている」

【北海道・高校教師】
「企業と子どもをつなぐコーディネーターの役割として、生徒に還元する立場でありたい。田舎の小さい学校だが世界を見られる子どもたちを育てたい」

【広島県・中学教師】
「主体的な学びについてこの1年考えてきた。何事にも自分ごとで考える教育がESDなのだとこの2日間で実感した。ただ教育現場ではESDの浸透度が低い。ぜひ自分が今回の経験を伝えていきたい」

【兵庫県・高校教師】
「淡路島という小さな島の学校だが、企業との連携を進めている。ただし今は知識を得ている段階で止まっている。今後はもっとおもしろいことを生徒と一緒にやっていきたい。企業が学校と連携するメリットは何なのか。どんな学校と連携したいのか。それが分かれば学校もアピールしやすいので、ぜひ企業側もアピールしてほしい」

【横浜市・中高一貫校教師】
「教員自体が一番遅れていると実感した。肩書にとらわれ、新しいことにチャレンジできていない。変わらないといけない。企業と手を組みながら教員も学びながら進む必要を感じた。ただし、中高一貫校で教員の異動が少なく、昔からいる先生の反発も予想されるのが課題だ」

【熊本県・教員】
「教育課程を変える必要性を感じた。例えば6時間授業を4時間で終わらせ、午後からは子どもたちのやりたい探究の活動にあてる時間にして、そこに教員の力を注ぎたい。特別メニューに企業も参加してほしい。世の中について知らない先生も多いので、どんどん企業に入ってきてもらって、社会課題などについて教えてもらいたい」

【広島県・小学校教師】
「まわりの教師はSDGsに詳しくない。来年から本校で使う教科書の表紙にはSDGsが出るが、『これ何のこと?』という人が多い。問題意識はあるが行動に移せない。ここに企業の力を借りることができないか。きっと学校だけではできない、インパクトがあるダイナミックな活動ができるはず」

教育現場ではESDに熱心なのは一部の学校や教員に限られること、社会との接点が少なかったり、古い慣習に縛られがちであったりするため、新しい取り組みには消極的であること、それを打破するためには企業側の積極的なアピールと教育現場へのアプローチが求められていることが分かった。セッションの最後には、会場で企業担当者と教員が個別に交流しマッチングする機会を得た。今回のセッションが、サステナブルな未来への「一歩」となることを願うばかりである。

 

いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」(自由国民社)がある。

ソフトバンクGは6月末時点でIT企業を中心に26の米上場株を保有

ソフトバンクGは6月末時点でIT企業を中心に26の米上場株を保有

ソフトバンクグループ(SBG)が6月末時点で、米アマゾン・ドット・コム株約10億ドル(約1000億円)を保有していたことがわかった。保有資産の現金化で得た資金を上場株で運用していることを明らかにしており、他にも米マイクロソフトや米テスラなどの株式も保有していた。

米規制当局に提出した文書によると、6月末時点でIT企業を中心に26の米上場株を保有。傘下の英半導体設計アームの売却・再編に向けた交渉を進めているとみられる米半導体エヌビディアの株式も約1億8000万ドル保有していた。

SBGは4.5兆円の保有資産の現金化を進めている。自社株買いや負債削減に充てる方針だが、資金が一時的に積み上がっている。11日の決算発表時に孫正義会長兼社長は、資金の一部を4〜6月に30銘柄の上場株で試験的に運用したことを明らかにしていた。

4〜6月ではSBG本体で1兆円超を投資し、一部を売却して約650億円の売却益を計上した。投資先を多様化するため、SBGが67%、孫氏が33%を出資して投資運用会社を立ち上げることも決めている。

 

Amazonは増収2兆円超 4〜6月、テックにも格差
決算ランキング(1)

アマゾンは旺盛な通販需要を取り込んだ(独マンハイム)=ロイター

アマゾンは旺盛な通販需要を取り込んだ(独マンハイム)=ロイター

新型コロナウイルスの感染拡大が企業業績を直撃する中、各社の財務指標をランキング形式で分析した。第1回は世界の主要企業の2020年4〜6月期の売上高と最終損益の増減額。コロナに左右されない成長力を示す売上高の増加企業の上位は「新常態」需要を取り込んだIT(情報技術)や半導体などテクノロジー企業が並んだが、格差も浮き彫りになった。

企業業績・財務のデータベースであるQUICK・ファクトセットのデータなどから世界の上場企業約1万2400社の4〜6月期の業績数値を日本経済新聞がランキングした。8月14日時点のデータで、金融や決算期変更などは除いた。

 

 

■米アマゾン、2兆円超の増収で首位

収益力の高さを示したのが米アマゾン・ドット・コムだ。売上高は前年同期比で2兆5908億円(37%)増の9兆5603億円。増収額で2位以下を大きく引き離して首位だ。外出規制による旺盛な通販需要を取り込んだほか、在宅勤務の拡大でクラウドサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」の売り上げも3割伸びた。

アマゾンは従業員の感染対策費用として約4000億円を計上したが、純利益は2倍の5637億円に拡大し、増益額でも3位に入った。ジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は「従業員の安全を確保しながら、需要が高まった時期に商品を届けた」と誇った。従業員らに総額500億円規模の臨時ボーナスを支払う余裕をみせた。

プラットフォーマーとして成長してきた米GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)だが、4〜6月期は格差が表れた。アマゾンのほか、アップルやフェイスブックが1割増収と堅調だったが、上場後初の減収となったのがグーグルの持ち株会社であるアルファベットだ。

同社は広告収入への依存度が高く、コロナ下で企業が広告の出稿を控えた影響で、減収額は1672億円(4%減)に上った。ルース・ポラット最高財務責任者(CFO)は検索連動の広告の減少率が「3月末には前年比で10%台半ばにまで落ち込んだ」と話す。

8位の米マイクロソフトは、インターネットで演算能力を提供する「Azure(アジュール)」や協業アプリ「Teams(チームズ)」といったクラウド事業で売り上げを伸ばし、増収額は3937億円。直営店の撤退費用で最終減益だが、クラウドサービスの成長力を印象づけた。

■アジア勢、上位に目立つ半導体

アジア勢では上位に半導体関連が目立った。サーバー向け需要や次世代通信規格「5G」の浸透を受け、15位の受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は2666億円の増収。27位は韓国SKハイニックス(1506億円増)。日本企業では東京エレクトロンが36位で任天堂に次ぐ2位となり、984億円の増収だった。

もっとも同じ半導体でも格差が出ている。アドバンテストは5億円の増収にとどまり、21年3月期は158億円の減収を見込む。スマートフォン向け半導体の検査装置が主力だが、米中貿易摩擦の影響で華為技術(ファーウェイ)のスマホの出荷台数が伸び悩み、好調なデータセンター向けのメモリー半導体の需要増でも補えない見通しだ。

アドバンテストの株価は決算発表翌日に制限値幅の下限(ストップ安)まで下げた。コロナ耐性で投資家の人気を集めてきたテック企業でも選別の波が広がっている。

 

■石油メジャー、10兆円弱の減益

コロナ禍の負の影響が直撃したのが、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどの石油メジャーだ。需要減から資源価格が急落して、在庫評価損が膨らんだ。シェルは売上高で6兆5023億円減、最終損益で2兆2790億円減。石油企業は減収・減益額ランキングの上位10社に入った企業だけで総額で25兆円の減収、10兆円弱の減益となった。

減益額で2位の英BPは2030年までに化石燃料の生産量を4割落とし、石油依存の脱却を急ぐ考えを示す。バーナード・ルーニーCEOは「コロナが総合エネルギー事業への転換の緊急性を強めた」と語った。

石油メジャー以外で減収や減益額の上位で目立ったのが、外出制限で生産調整を強いられた自動車、コロナによる客数減に見舞われた航空会社やテーマパークなどだ。

自動車メーカーの減収額では独フォルクスワーゲン(VW)が3兆1872億円が最大。トヨタ自動車が3兆1204億円、米フォードが2兆1879億円で続いた。VWは期中の出荷台数が32%減の188万台。厳しい外出制限が敷かれた西欧が54%減と落ち込み、北米も38%減だった。

航空会社の減益額では米デルタ航空が最大で7733億円。世界のテーマパークが休園に追い込まれ、19年ぶりの最終赤字となった米ウォルト・ディズニーは7010億円の減益額を記録した。

大和証券の壁谷洋和チーフグローバルストラテジストは足元で経済活動が再開しているため、「業績は4〜6月期を底に改善に向かうが、コロナの影響は読みにくい。テックなどの業績に安心感がある流れは変わらない」と話す。

英経済は都市封鎖の長期化で大きく悪化した(6月、営業休止中のロンドン中心部の百貨店)=AP

英経済は都市封鎖の長期化で大きく悪化した(6月、営業休止中のロンドン中心部の百貨店)=AP

世界の主要国の2020年4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比9.1%減少した。リーマン危機時の約3.5倍の落ち込みで、コロナ禍の傷の深さが鮮明になった。それでも感染を早期に抑え、経済復調に動いた中国やベトナムはプラス成長を達成した。感染抑制と経済活動の両立の重要性を改めて浮き彫りにした。

 

世界GDPの3分の2を占める日米英中とカナダ、ユーロ圏の計24カ国を「主要国」として集計した。GDP統計では変化を早く捉えられる前期比を使うことが多いが、コロナ禍で経済規模が平常時に比べてどれだけ縮んだかをみるため前年同期と比べた。リーマン危機の影響がピークだった09年1〜3月期は2.6%減だった。

 

 

米グーグルがスマートフォン利用者の位置情報をもとに移動先を分析したデータでみると、感染抑制のために厳しい行動制限を導入して人出が少なかった国・地域ほど、GDPの落ち込みが大きい。4〜6月期の人出(中央値)が52%減と主要国で最も減ったスペインと英国はGDP減少率も上位2位を占めた。

世界旅行ツーリズム協議会によると、主要経済国でGDPに占める観光の割合が最も高いのがメキシコ(15%超)、2位がスペイン(14%超)。観光依存が高いほどGDPも落ち込んだ。スペインは6〜9月に国外から多数の観光客が訪れるが、今年は6月下旬まで受け入れを停止。6月の国外からの来訪者は前年同月比97.7%減った。

英国は新型コロナウイルス対策が遅れ、他国よりロックダウン(都市封鎖)が長引いた。日米欧の大半は5〜6月初旬に段階的に再開したが、英国は飲食や宿泊の休業解除が7月にずれ込んだ。

 

 

主要国で4〜6月期に唯一、プラス成長となったのが中国(3.2%増)だ。企業活動が先導する形で、2四半期ぶりにプラス成長に戻した。国の政策頼みの面が強く、民間投資はマイナスのまま。力強さを欠く家計や民間に恩恵が波及するかが持続力のカギを握る。

主要国以外ではベトナムもプラス成長だった。早期のコロナ防疫で、外出制限を4月の約3週間にとどめたことが奏功し、4〜6月期の人出はコロナが本格化する前に比べて3%減まで戻った。

英エコノミスト誌の調査部門のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットによると、日米欧7カ国(G7)は7〜9月期にすべて前期比プラスに戻る見通し。それでもGDPの規模は米国が17年、英独仏とカナダが16年、日本が12年、イタリアは1997年の水準にとどまる。正常化には時間がかかりそうだ。(真鍋和也、ロンドン=中島裕介、北京=川手伊織、ハノイ=大西智也)

 

古河電工、攻めの投資1500億円 財務改善が生んだ余力
証券部 上原翔大

古河電気工業がコロナ禍でも「攻めの姿勢」を続けている。2021年3月期までの3年間の設備投資は計1500億円と、01〜03年以来の高水準を計画する。自動車の軽量化や洋上風力発電の普及に合わせ、部材の生産能力を増強する。強気を続けられる背景には、独自指標を使った財務体質の改善がある。

 

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21年3月期の設備投資は470億円を計画する。17年ぶりの高水準だった19年3月期と20年3月期の年500億円と同水準とする。同様に研究開発費も年200億円とこれまでの規模を維持する。重点投資先は主力の自動車部品と光ファイバー・ケーブルだ。自動車向けでは車体の軽量化につながるアルミニウム製ワイヤハーネス(組み電線)の生産能力をベトナムで増強する。アルミ製は新興国企業には生産が難しく、電気自動車などでの採用拡大もにらみ、いち早く供給体制を拡充する。洋上風力発電の普及で送電に使う海底ケーブルの生産量も増やす。

積極投資の継続を可能にしたのは、過去最大の最終赤字となった04年3月期以降の財務改善だ。01年に米ルーセント・テクノロジーズから光ファイバー部門(現OFS社)を約2800億円で買収したがITバブルが崩壊し、のれんの減損などで1401億円の最終赤字を計上した。そこから有利子負債の削減や自己資本の拡充に向け、不採算事業の撤退や人員削減に取り組んできた。その結果、有利子負債から現預金を引いた純有利子負債は20年3月期で1967億円と半分以下となり、自己資本比率も20年3月期は30%と04年3月期の15%から良くなった。

 

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選択と集中に向け、16年には「事業資産営業利益率」と呼ぶ独自指標を導入した。同利益率は営業利益を棚卸し資産と有形・無形の固定資産の合計で割って算出する。会社全体だけでなく事業別にも計算する。概念としては株主資本と有利子負債を使い、どれだけ効率的に稼いだかを示す投下資本利益率(ROIC)に近い。事業ごとの管理しやすさを考慮し、通常は事業別ROICを算出するために使う売上債権などの項目を除いたこの指標を考案した。

同利益率10%を会社全体での目標とし、個別の事業でも撤退や事業形態を変えるかなどを判断する際の目安とした。16年からこれまでに冷媒の配管事業などから撤退。ほかにも銅製の電線や銅箔などのうち、汎用品の事業規模を縮小して「数十億円単位の損益改善となるまでに積み上げた」(SMBC日興証券の山口敦氏)。17年3月期からコロナ影響が出る前の19年3月期までの事業資産営業利益率の平均は会社全体で12%強と、16年3月期までの3年間平均(7.9%)を大きく上回る。

株式市場も古河電工の取り組みを評価している。モルガン・スタンレーMUFG証券の藤田知未氏はIT投資の加速や国内の洋上風力発電の立ち上がりなどで事業環境が改善するなかで「構造改革の成果が顕在化する局面を迎えた」と評価。7月に投資判断を3段階で最上位の「オーバーウエイト」に1段階引き上げた。

足元では20年4〜6月期に全体の連結営業損益が12億円の赤字(前年同期は49億円の黒字)となるなど、コロナ影響は出ている。それだけに地道に取り組んできた財務改善の努力がなければ、コロナ後をにらんだ投資を続ける余力がそがれていたかもしれない。今後は事業選別に加え、投資の成果で稼ぐ力を伸ばせれば市場の評価もついてくるだろう。

 

 

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複数のスマホ決済サービスを使える店舗も増えてきた

複数のスマホ決済サービスを使える店舗も増えてきた

 

スマートフォンを専用機器にかざして支払いを済ませるスマホ決済が拡大している。2020年4〜6月期決算では、各社とも登録者数や取扱高を大きく伸ばした。だが、先行投資もあり、各社とも赤字が続く。利益なき競争を抜け出すのはどこか。

 

■大規模還元が奏功 取扱高が急増

 

「まずは規模を大きくしたい」。傘下のヤフーを通じて「PayPay」の運営会社PayPay(東京・千代田)に25%出資する、Zホールディングスの川辺健太郎社長は強調する。PayPayの6月末時点の登録者数は3004万人と1年前に比べ3.5倍に、4〜6月の決済回数は4億2850万回と前年同期の9倍に拡大。「まずは」の言葉通り、急成長を遂げた。「100億円還元」などとうたった独自の巨額還元キャンペーンが効いた。

 

 

 

これに加え、川辺社長が「登録者急増の追い風になった」と指摘するのは、政府が昨年10月から今年6月に実施したキャッシュレス決済のポイント還元事業だ。対象の中小店舗(200万店)の6割にあたる115万店が登録し、対象の決済額は8兆円を上回った。

各社の2020年4〜6月期決算を見ても、スマホ決済の消費者への浸透は明らかだ。NTTドコモの「d払い」の取扱高は1530億円と前年同期比2.8倍に増加。LINEの「LINE Pay」もグローバル取扱高が28%増の3640億円に伸びた。楽天の「楽天ペイ」は詳細な開示はないものの、電子マネーの「楽天Edy」などと合わせた利用者数は19年12月に4600万人にのぼった。

9月には、マイナンバーカード普及とキャッシュレスの推進を狙ったマイナポイント事業が始まる。消費者がマイナンバーカードと1種類のキャッシュレス決済をひもづけると、最大5000円分のポイントが付与される仕組みで、足元では独自の優遇策を組み合わせたユーザー囲い込みが活発だ。メルカリの「メルペイ」が最大で1000万円が当たるキャンペーンを張るなど、大規模な還元が再燃している。

 

■先行投資で各社赤字

 

各社とも利用拡大に向けた先行投資を優先しており、ほとんどの事業者が部門赤字とみられる。PayPayの20年3月期の営業損益は822億円の赤字で、赤字は前の期の2倍超に拡大。LINE Payを運営するLINE Pay(東京・品川)の19年12月期も191億円の営業赤字だった。

もっとも、スマホ決済ビジネスが赤字なのは、大盤振る舞いのせいだけではない。加盟店にとって、手数料を負担してまでスマホ決済を導入する動機が乏しいことが背景だ。高額決済が可能なクレジットカードには「客単価の上昇」という魅力があるが、スマホ決済にはそれがない。価格競争に陥りやすく、5%前後とされるクレジットカードに比べ加盟店からの手数料を低く抑えざるを得ない。楽天ペイの基本の手数料は3.24%。KDDIの「auPAY」は通常、3.25%だ。

楽天の広瀬研二最高財務責任者(CFO)は「手数料で大きく稼ぐという発想はない」という。では、各社がスマホ決済の拡大を目指すのはなぜか。カギになるのは、他のサービスと連携することで、いかに自社サービスの「経済圏」を拡大できるかだ。

 

 

 

PayPayが目指すのは、金融やネット通販など多様なサービスを集めた「スーパーアプリ」だ。タクシー配車や請求書の支払い、個人向けローンなどに加え、6月には注文と決済をアプリ上で受け付ける、飲食店向けの「PayPayピックアップ」をスタートした。楽天ペイも電子商取引(EC)を軸に多様なサービスを展開する「楽天経済圏」全体から稼ぎ出す収益の拡大を狙う。楽天の三木谷浩史社長は「クレジットカードやデビットカード、電子マネー、キャッシュレス決済とあらゆるキャッシュレス決済が共通のIDで使えるのが強みだ」という。

 

■合従連衡の動きも

 

とはいえ、利益なき消耗戦をいつまでも続けられるわけではない。ここにきて合従連衡の動きも目立ってきた。

楽天ペイは5月、JR東日本の電子マネーSuica(スイカ)との連携を開始。アプリ上でスイカを発行できるほか、スイカへのチャージで楽天ポイントがたまるといった機能を備える。auPAYは19年12月に共通ポイント「Ponta(ポンタ)」を運営するロイヤリティマーケティング(東京・渋谷)に出資し、20年5月に自社ポイントをポンタと統合。会員数9400万人を超すポンタの顧客基盤を活用して、auPAYの利用増を狙う。メルカリは6月からNTTドコモのdポイントとメルペイの連携を開始、9月にはQRコードも共通化する。

 

■PayPay、市場関係者の評価高く

 

覇権争いが繰り広げられるスマホ決済市場で生き残るのはどこか──。日経ヴェリタスがスマホ決済の専門家や市場関係者6人に聞いたところ、6陣営の中で最も高い評価を得たのはPayPayだった。多様なサービスが利用できる「スーパーアプリ」化に向けた種まきが評価されている。楽天ペイがこれに続き、電子商取引(EC)との親和性が高さも評価のポイントになっている。

 

 

 

事業の「成長性」、収益化するまでのキャッシュ余力を示す「耐久力」、「本業とのシナジー」の3項目について、それぞれ5点満点で評価してもらい、6人の点数を単純合計した。

PayPayは90点満点中66点を稼ぎ、総合トップの評価を得た。全ての項目で上位につけたが、特に評価が高かったのは「成長性」だ。

PayPayは飲食店の集客ツールやタクシー配車など決済が関わるあらゆるサービスに展開しているのが強み。「加盟店開拓が進んでおり、他の決済事業者と競合しない加盟店が多い」と声が多かった。さらに新サービスの開発に積極的なのも評価されている。PayPayは決済を軸に多様なサービスを集めたスーパーアプリを目指しており、「(ソフトバンク)グループ内に各種オンラインサービスを抱えており、相乗効果が期待できる」(松井証券の窪田朋一郎氏)という。

本業とのシナジーの面でPayPayをしのぐ評価を得て、首位だったのは楽天ペイだ。情報通信総合研究所の出口健氏は「会員数の多さをベースに、ポイント還元を軸とした『楽天経済圏』への取り込みが進んでいる」と評価する。

楽天ペイ以外も、シナジーの項目上位にはPayPay、メルペイとECが本業の陣営が並ぶ。「スマホ決済はECサイトの販促ツールとして有効」との声が多かった。半面、通信を本業とするd払いやauPAYの点数は低かった。携帯電話の保有台数は1人1台を超え、各社とも数千万の顧客基盤を抱えるが、ECのような収益を生むオンラインサービスが育っていないことが評価に影響しているようだ。

 

■携帯会社系、耐久力にアドバンテージ

 

 

黒字化するまでの耐久力では、携帯電話会社のサービスが高評価を得た

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黒字化するまでの耐久力では、携帯電話会社のサービスが高評価を得た

逆に、耐久力では、d払い、auPAYにPayPayを加えた携帯会社系の陣営が上位を独占した。契約者から毎月、通信料金が入ってくるストックビジネスである携帯会社は財務体質が良好。「信頼性と安定感の高さは、決済サービスを展開する上で大きなブランド価値になる」(出口氏)という。豊富なキャッシュを原資に積極的なポイント還元で顧客基盤を強化し、携帯電話の解約防止や電気や保険といった通信以外のサービスの利用拡大を目指している。

総合ランキングをみると、LINE Payやメルペイの2陣営は競合にやや水をあけられる結果になった。加盟店の開拓やポイント還元キャンペーンなどによる顧客の囲い込みで、スマホ決済は体力勝負の様相を呈している。LINEはSNS(交流サイト)で、メルカリはフリマアプリで確固たる地位を築いているが、本業の収益力では他陣営に見劣りする。これが評価の分かれ目になったようだ。

(秦野貫氏、野口知宏氏、上原翔大氏)

新型コロナウイルス感染症の患者が確認されてから8カ月が過ぎた。感染者は再び拡大に転じており、これまでのデータや研究から新型コロナの特徴の一端が分かってきた。確かな知識を持ち対策する「正しく恐れる」心構えが大切だ。

 

 

 

日本の感染再拡大のペースは、世界的には依然として緩やかだ。直近1週間(8月4〜10日)の人口10万人あたりの新規感染者数は約7人にとどまる。100人以上が感染するブラジルや米国のおよそ20分の1の水準だ。

 

 

 

「第1波」となった今春は、医療崩壊につながりかねない重症患者が急増した。5月初旬には患者全体に占める重症患者の比率が5%台に達した。一方、感染再拡大が始まった7月以降の1カ月間の重症患者比率は1%台にとどまる。

重症化しにくい若者の感染者が増えたことが理由の一つだ。第1波では3割強だった20〜30代の割合は6月下旬以降、6割近くまで上昇した。これに対して60代以上の割合は3割強から1割まで減っている。

 

 

 

しかし、8月に入ってから重症患者の数がじわりと増え始めている。東京都の重症患者は20人前後であまり増えていないが、全国ベースでは80人から200人近くまで約2倍に増えた。地方都市での増加が目立つ。さらに、若者中心の感染が高齢者を巻き込んだものになると、重症患者や死者が増える恐れが出てくる。

 

 

 

医療・療養体制も課題だ。全国でならすと病院や病床、療養施設には余裕があるようにみえる。ただ、沖縄県の病床使用率が80%を超えるなど、地方都市のなかには医療体制が逼迫してきたところも出てきた。コロナの問題は地方都市の問題にもなりつつある。

 

 

 

このタイミングで、感染拡大に歯止めをかけられるかが最大の焦点となる。政府が緊急事態宣言を再発令する可能性は低く、人の移動も春先よりもはるかに増えている。こうした環境では、検査を通じて感染を早期に突き止め、自宅待機や入院によって日常生活から離していくことが有効策になる。

もっとも、日本の検査体制は世界の主要国と比べて見劣りする。人口千人当たり1日の検査数では米国が2件を超えるのに対し、日本は0.2件にとどまる。PCR検査の結果通知には時間がかかるうえ、民間検査の活用も進んでいない。医師らは唾液検査など新しい検査手法には慎重だ。検査体制の拡充を急ぐ必要がある。

 

 

 

■列車内、換気で効果 症状なくても飛沫対策

新型コロナウイルス感染症の勢いが続いている。ウイルスは感染が広がりやすく密閉された空間では感染リスクは高いが、専門家は換気などの対策を徹底すれば感染は防げるとしている。

 

 

 

日本では感染者が5万人を超え、感染が広がる仕組みが分かってきた。厚生労働省クラスター(感染者集団)対策班が米疾病対策センター(CDC)の科学誌に公表した論文は、1〜4月に国内で発生した61のクラスターを分析した。その結果、病院や介護施設を除いて感染を広げた事例はレストランやバー、職場、コンサートや合唱など音楽関連イベント、スポーツジムが多かった。いずれも3密(密接・密集・密閉)の環境で感染が広がった。

一方、密集や密接に近い空間でもクラスター発生の報告がないのが電車だ。国土交通省によると、時速約70キロメートルで走る電車において窓を10センチ程度開ければ車内の空気は5〜6分で入れ替わるという。また飛行機では3分程度で客室内の空気が入れ替わるよう換気している。3密を避けるのが原則だが、窓を開けたり外気を入れ替えるようエアコンを動かしたりすれば、密閉が解消できて集団感染は防げる。経路不明の感染者が多いものの、電車や飛行機での集団感染事例は聞かない。換気すれば集団感染は起こりにくいといえそうだ。

感染者がマスクをすれば、飛沫が広がるのをある程度防げる。世界保健機関(WHO)は人同士が1メートル離れるのも難しい場所では、マスクの着用が感染を広げにくくする効果があるとの見解を示している。オフィスでもマスクをしながら一定の距離をとれば感染のリスクは避けられる。会議室などを分けて開くことも有効だ。

外出時でも厚生労働省などはマスクの着用を促している。ただマスクをつけると熱中症の危険も高まると指摘されている。厚労省は、屋外で周りの人から2メートル以上離れている場合はマスクを外すよう呼びかけている。

病院や高齢者施設では、感染すると重症化しやすい高齢者が多い。施設などでは接触を避けられないためスタッフは感染防止策を徹底している。ウイルスを持ち込むリスクを減らすため、多くの施設で家族の面会制限が続く。タブレットやパソコンなどを用いたオンライン面会で、近況を報告しあうのもよいだろう。

当初、集団感染の事例があったスポーツジムでは感染が発生するケースはみられなくなった。トレーニングマシンなどの配置を工夫して人と人の距離をとって密度を下げたり、消毒の徹底、マスク着用や換気が難しい控室などでの会話を控えるよう呼びかけしている。

 

 

 

積極的な検査を始める例も出てきた。東京都は11日、小笠原諸島へ渡るフェリー乗船前に、乗船客全員に唾液によるPCR検査の試行を開始した。小笠原諸島は6日に1便のフェリーが唯一の交通手段で、医療機関は父島と母島の2カ所の診療所のみ。集団感染が発生すれば影響が甚大なため、水際対策の強化を目指す。検査で陽性が判明した場合は船内や島内での感染拡大防止を図る。こうした取り組みが広がれば、観光業を維持しながら感染リスクを減らせる。

最近注目されるのが無症状の患者から感染が広がることだ。WHOは感染から発症まで5日ほどかかる場合が多く発症の1〜3日前から他人に感染させる可能性があると指摘する。中国・広州医科大学などのチームは感染者の4割ほどは無症状の感染者からうつっている可能性があると推定した。無症状の人からの感染を防ぐには、感染が疑われる場合に迅速に検査して日常生活から離していくことが必要だ。

また新型コロナが濃厚接触しなくても感染する可能性も指摘される。WHOは換気がよくない屋内などで微細な飛沫(エアロゾル)にくっついたウイルスが浮遊し感染を広げる恐れがあるとしている。「マイクロ飛沫感染」と呼ばれ、米国大学などの調査研究からウイルスを含んだ微細飛沫が密閉した空間では数十メートル飛ぶ可能性がある。換気が重要で屋外や感染対策済みの店などでは感染は起きにくいと考えられる。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は「対策を徹底すれば感染リスクは減らせる」と強調している。症状がある人は外出を控えて感染拡大を防止するのは重要だが、症状のない人も3密を避けて行動したうえ、マスクを着用して換気した環境で生活すれば感染を減らすことはできる。

■高齢・持病・肥満、リスク高く

新型コロナウイルスが流行した各国の報告から患者が重症化に至るリスクが明らかになってきた。糖尿病や肥満などになっている人や高齢者が重症化しやすく、外出をなるべく自粛したりマスクなどの対策を徹底したりする心がけが大切だ。

初めに感染拡大が明らかになった中国は、世界保健機関(WHO)と大規模な調査を実施して、2月下旬に報告書をまとめた。高齢者や持病をもつ人の重症化リスクが高いことが分かった。

約5万6千人の感染者のうち、30〜69歳が77.8%と大多数を占めた。感染から平均5〜6日で発症するとみられ、重症や重篤な人が全体の約2割を占めた。

年代別にみると致死率は80歳以上で最も高く、21.9%にのぼった。持病のない人では致死率が1.4%だったのに対して、心血管疾患のある人では13.2%、糖尿病で9.2%、高血圧で8.4%、慢性の呼吸器疾患で8%、がんで7.6%だった。

英国の7月の発表でも同様の傾向がみられた。同国の大人約1700万人分の健康に関するデータを分析したところ、約1万900人がコロナに関連して亡くなっていた。80歳以上の場合、死亡するリスクは50〜59歳の20倍以上にのぼったという。糖尿病や重度のぜんそくなどのほか、肥満も死亡リスクに関係するとみられた。男性や黒人・南アジア系、貧しさも危険因子にあがった。

国内でも8月、国立国際医療研究センターが全国の患者の臨床情報を集めた研究の結果を発表。各国の報告とおおむね同じ傾向で、高齢、糖尿病や慢性肺疾患などの持病、男性、喫煙などが危険因子に挙げられた。

重症者数や死者数の地域差なども注目を集めている。日本や韓国などアジア地域の一部に比べ、英米などでは死亡者数が多い。肥満率の差や遺伝的要因、マスクの着用習慣が関係するといった様々な見立てがあるが、結論は出ていない。

重症化する患者では、体内のウイルスが減ったりなくなったりした後も体中で免疫が過剰に働き、全身の血管や臓器がダメージを受けるとする説が有力だ。例えば脂肪組織では炎症が起きやすく、肥満の重症化リスクの高さにつながっている可能性がある。過剰な免疫反応は新型コロナ患者の血栓症の原因にもなりうる。

免疫暴走をとめることが治療に有効とみられる報告も出てきた。英国の臨床試験では炎症を抑える「デキサメタゾン」の投与が人工呼吸器の必要な患者などの致死率を下げるとする結果が出た。厚生労働省のコロナ診療の手引にも記載され、抗ウイルス薬の「レムデシビル」に続き国内2例目の新型コロナ治療薬となった。

■検査、迅速かつ大量に
 東京慈恵会医科大学 浦島充佳教授

東京慈恵会医科大学の浦島充佳教授

東京慈恵会医科大学の浦島充佳教授

 新型コロナウイルス感染症の再拡大に対してどう臨めばいいのか。今必要な対策について東京慈恵会医科大学の浦島充佳教授に聞いた。


 感染の場が接待を伴う飲食店などから友人や同僚などとの会食機会や家庭内に移っている。高齢者に感染が広がり院内・施設内の感染者が増えることは避けたい。面会の制限などが必要だ。医療が逼迫する兆しが出てきたら病床確保のために不要不急の治療を延期することも必要になる。医療機関は第1波で診療制限などによる損失が出たところが多い。国が補償するなどして協力を呼びかけるべきだ。
 感染経路不明者が増加傾向のため、クラスター(感染者集団)追跡で感染を封じ込める対策は限界を超えたとみている。感染者が増えて保健所に大きな負担がかかっているとみられる。
 そもそも、重症急性呼吸器症候群(SARS)よりクラスター追跡が難しいという問題もある。新型コロナでは発症の数日前から感染力があるとされ、診断がついた時にはすでに2次、3次感染が起きている可能性があるためだ。
 感染者をいち早く見つけるためには検査体制の拡充が必要だ。陽性率が高い地域では対応が後手にまわり、必要な人に十分な検査をできていない可能性が高い。少しでも感染疑いのある人に素早く検査する体制をつくる必要がある。従来の診療を続ける医療機関とは別に新型コロナの検査と搬送先の振り分けを同時に担う検査拠点を各地域に増やし、大量に迅速に検査できる体制をつくるのがよい。
 検査拠点では、医師の紹介状なしで受診できるのが望ましい。症状のある人や感染者と接触した人を優先し、余裕があれば感染リスクの高い場所で働く無症状者も対象にするなど地域ごとに優先順位をつけるとよい。人手と費用がかかるため、地域によっては医師会などが独自に進めるのは難しい場合もある。国が予算を確保して進めるのがよいだろう。
 今は緊急事態宣言を出さずに、状況を注視する段階だと考える。重症者や死者が日に日に増えて医療が逼迫するようであれば緊急事態宣言をだすべきだ。問題は国と自治体の足並みがそろっていないことだ。市民の混乱や不安につながっていると危惧している。秋や冬には肺炎は重症化しやすく、今よりも状況は深刻になるかもしれない。国への不信感がただよい、人々の行動変容を促せない状態では感染拡大に迅速に対応できなくなる。国と自治体は連携を強め足並みをそろえてほしい。

中国の東北部で日本が統治していた旧満州国の時代につくられた古い建築や鉄道が再び評価されている。2019年に日本式の住宅を改装したレストランがオープンし、南満州鉄道(満鉄)が運行した蒸気機関車も一般公開された。今年8月で戦後から75年。日本による植民地支配について中国人には複雑な感情が残るが、政府や市民は「文化的に価値が高い」と評価するものは保護する姿勢を見せる。

 

海鮮レストラン「陸拾壹號院」は1930年代に建てられた建物を改修して開店した(遼寧省大連市)

海鮮レストラン「陸拾壹號院」は1930年代に建てられた建物を改修して開店した(遼寧省大連市)

「いらっしゃい。注文が決まったら呼んでください」。遼寧省大連市の中心部で、19年10月にオープンした海鮮レストランが「陸拾壹號院(ガーテンナンバー61)」だ。日本から満州に来た若い留学生の建築士が1930年代につくった建物を改修した。

 

■和洋が融合したデザイン

2階建てのコンクリート造りで瓦のような屋根や円形の窓があり、和風と洋風が合わさったデザインだ。建物をぐるりと囲む庭には建築当初から植わっていたという数本の古い樹木もそびえる。戦前は日本人の商人が住居とし、戦後は大連市の副市長も住んだという。

「初めて訪れた時から、この場所に魅力を感じた。大連市中心部で専用の庭を備えた別荘のような建物はとても少ないからね」。男性店長の李俊鵬さんが笑顔で説明してくれた。どんな商売をするのか、構想は何もなかったが、とにかく借りることを決めたという。建物は市政府が保有しており、毎年のように必要となる外壁の補修は政府が手掛ける。

 

大連市政府は旧ヤマトホテルの改修を検討している(遼寧省大連市)

大連市政府は旧ヤマトホテルの改修を検討している(遼寧省大連市)

市中心部の中山広場には、満州時代の銀行や市役所などとして使われた建物が9棟残っている。その代表格がルネサンス様式の大連賓館だ。満鉄の直営だったホテルチェーンのヤマトホテルが1914年に完成させた。施工は清水組(現・清水建設)で、重厚感のある外観に特徴がある。

最近までホテルとして旅行者が宿泊できたが、2017年から休業している。具体的なスケジュールは未定だが、市政府は改修して再び開業する方針だ。市の職員によると、日本の建築関係者に協力してもらう案も浮上しているという。

「このブラウス、とてもかわいいね」。地元の女性に人気の衣料品店が、商業施設が集積する中心部にあるスペインのファストファッション「ZARA」だ。入居する建物はもともと、1937年に竣工した旧三越百貨店の大連支店だった。最上階に塔を備えた屋根の構造がモダンな雰囲気を放つ。

ZARAの建物や旧ヤマトホテルは市政府が重点的に保護する建築物に指定されており、取り壊しが禁止されている。このため補修しながら大切に使われてきた。

 

旧三越百貨店大連支店にはファストファッションの「ZARA」が出店している(遼寧省大連市)

旧三越百貨店大連支店にはファストファッションの「ZARA」が出店している(遼寧省大連市)

日本は1905年に日露戦争で勝利した後に大連を租借し、1945年まで40年間にわたって植民地として統治した。日本による支配は奉天(現・瀋陽市)や新京(現・長春市)など中国東北部に広がり、各地に日本がつくった建物が残された。

その価値を再評価する動きは建築だけではない。大連市の北部にある遼寧省の省都、瀋陽市。鉄道車両を保存している博物館、瀋陽鉄路陳列館を訪れると、明るい青色と緑色に塗装された2両の車両が目に飛び込んでくる。

 

■満鉄「あじあ号」をけん引

大連や瀋陽などを走っていた満鉄の特急列車「あじあ号」の客車をけん引した蒸気機関車だ。同館を運営する民間企業が19年5月に一般公開を始めたもので、鉄道ファンにはたまらない遺物だという。

同館に勤務する女性職員は「この車両は日本の川崎重工と大連の鉄道工場で合計で12両が製造されましたが、現存するのはここにある2両だけです。いずれも1934年につくられました」と説明してくれた。

 

南満州鉄道が運行していた特急列車「あじあ号」の蒸気機関車(2019年9月、遼寧省瀋陽市)

南満州鉄道が運行していた特急列車「あじあ号」の蒸気機関車(2019年9月、遼寧省瀋陽市)

最高時速は130キロメートルに達し、当時の日本としては最先端の技術力を誇った。車体は全長約26メートルで、直径2メートルの車輪を備える。新型コロナウイルスによる入国制限のため、現在は日本人が観光で中国を訪問することは難しいが、昨年は中高年の旅行者に人気だったという。

再評価されているとはいえ老朽化にはあらがえず、満州時代につくられた施設は減少傾向にある。大連市の歴史的建築物を研究している男性作家、●(のぎへん、つくりは尤の下に山)汝広さんの調査によると、大連にある日本ゆかりの建築物は1945年8月の終戦時点では5000〜6000軒あったと推計される。2010年には1200〜1500軒に、2020年には約800軒まで減ったもようだ。満州時代の役所や病院、銀行といった大型建築は保護されてきたが、住宅の多くは対象外のため、取り壊しが進んだ。

一方で、●氏は現状についてこう解説する。「2017年に大連市の(トップである)書記になった譚作鈞氏は古い建築物の保護を比較的重視している。このため17年ごろからはほとんど壊されていないと思うよ」

中国人にとって日本による占領や統治は苦い歴史だ。大連市の20代会社員男性、李さんは「日本時代の建物をみると、日本に支配されていたことを思い出す。中国人はその歴史を忘れるべきではない」と強調する。一方で「古い建築の前で写真を撮影すると、とてもかっこよく撮れるよ」と笑顔を見せる。

大連市では週末になると、中山広場にある建築群の前でドレスやタキシード姿で結婚写真を撮影するカップルが多くいる。李さんもその一人だ。日本による植民地支配の歴史はしっかり認識しているが、建築物としての美しさは率直に評価しているようだ。

作家の●さんは「日本が残した建築は大連の歴史の一部だ。日本の建築でも中国の建築でも特別に区別しない。文化的に高い価値があるものは保護する必要がある」と話す。


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