我々は手のひらにあるデジタル端末で日々連絡を取り合い、ネット通販で購入し、デジタルコンテンツを消費している。現代生活の根底をなす経済のデジタル化は資本主義のあり方をどのように変え、どんな問題をはらむのか。一橋大学の野口悠紀雄名誉教授に聞いた。


野口悠紀雄氏(のぐち・ゆきお) 63年(昭38年)東大工卒、64年大蔵省(現財務省)入省。72年エール大で博士号取得。一橋大教授、東大教授、スタンフォード大客員教授など経て11年より早大ファイナンス総合研究所顧問。79歳
「企業価値の大半はビッグデータ」

――現在の資本主義の特徴をどう捉えますか。

「もうけを生む資本そのものが変わってきた。従来は製造業における物的な施設が主な資本だった。いまや機械でも工場でも不動産でもなく、データが利益を生み出している『データ資本主義』だ」


――データ資本主義の到来は何を意味しているのでしょう。

「従来、デジタル技術は格差を解消する方向に作用すると考えられてきた。1980年代のパソコン、90年代のインターネットの登場により、零細企業や個人が大企業と同じ土俵に立てるようになると思われていた」


「だがグーグルなど『GAFA』が代表するプラットフォーム企業は無料サービスと引き換えにビッグデータを収集し、ターゲティング広告で巨額の利益を稼ぐようになっている。グーグルの親会社アルファベットやフェイスブックの企業価値の大半はビッグデータの価値が占めていると試算できる。他の企業がGAFAと同じことをやろうとしても難しく、収益力格差は固定化した」


――「新たな独占」に我々はどう向き合うべきでしょうか。

「米国におけるかつての石油業界など従来型の独占企業は価格をコントロールし、独占的な利潤を生むことが問題だった。そのため米スタンダード・オイルは独占禁止法による企業分割の対象となった。GAFA型の『新たな独占』は違う。検索など多くのサービスはそもそも無料で提供され、市場支配力があるわけでない。独禁法の想定と全く違うタイプの問題が生じている」


「もっとも、GAFAと非GAFAの利益格差そのものは重要な問題ではないと思う。自由競争の結果であるためだ。例えばいまや検索エンジンでグーグルが圧倒的な地位を占めているが、2000年ごろはたくさんの検索エンジンがあった。規制や政府援助によってグーグルが生き残った訳ではない。競争を通じて生き残ったのがグーグルだった」


「問題の本質はプライバシーへの懸念」

――それでは、問題はどこにあるのでしょう。

「データ資本主義の問題の本質はプライバシーだ。ビッグデータを元に、利用者の属性を精緻に推計できることがプライバシー侵害に当たりうる。データ漏洩の心配もあるし、属性情報が選挙活動に使われることもある」


「プライバシーを巡る懸念は、ビッグデータを集めやすい中国のプラットフォーム企業の方がより深刻だろう。その一角であるアリババ集団はキャッシュレス決済の取引データを通じて利用者属性を推計できるようになった。信用力が就職などにも使われるとさまざまな問題が生じてくる」

――欧州連合(EU)は、厳しい個人データ保護規則の一般データ保護規則(GDPR)を施行しました。


「プライバシー保護の観点では実効性のあるものにはならないだろう。例えばデータ収集に対する同意確認を厳格化したとしても、我々はいまや、検索サービスなしで仕事を進められない。いや応なしに同意せざ

るを得ない。我々は『トロイの木馬』を城中に招き入れてしまったので、追い出すことなどもう不可能だ。プライバシー保護という難しい問題に対する答えはまだみつかっていない」


■記者はこうみる「利益分配、求められる知恵」  竹内弘文氏  ビッグデータが新たな資本としてお金を生み、稼いだお金を投じてまたビッグデータを収集する。この新たな資本拡大サイクルに成功したGAFAは株式市場での存在感を高めてきた。野口氏の「データ資本主義」は、現在の経済を鮮やかに説明する。データ蓄積を通じた「独占的利潤」そのものは問題ではなく、従来型の独占禁止法での対応はなじまないという主張も一理ある。
 ただ、欧州連合(EU)の欧州委員会は、検索サービスなどの競争環境をゆがめているとしてグーグルに競争法(独占禁止法)に基づく制裁金支払いを命じてきた。米国のリベラル派にはGAFA分割論が浮上する。国境をまたぐデジタルサービスから生まれた税収をどう各国に分配していくか、という「デジタル課税」も税務当局間の協議で大きなテーマだ。
 プラットフォーム企業の存在感が一段と大きくなるなか、データが生む利益を巡って国家主権と衝突する場面は避けられない。自由競争と政策介入との間でどう最適なバランスをとるのか。新たな知恵が求められている。

所得格差の拡大など、資本主義のもとで生まれている問題に批判の声が高まっている。この危機にどう向き合うべきか。理論研究の第一人者である国際基督教大学の岩井克人特別招聘教授は、自由放任で株主主権的な資本主義は理論的に誤りで、公共性と倫理の必要性を確認しなければならないと強調する。

岩井克人氏(いわい・かつひと) 

1969年東京大学経済学部卒。72年米マサチューセッツ工科大学経済学博士。東大教授などを経て、17年4月から現職。日本学士院会員、東大名誉教授、東京財団政策研究所名誉研究員。07年紫綬褒章、16年文化功労者。不均衡動学、貨幣論、資本主義論、法人論などで知られる。

「『米英型資本主義』の理論誤り」

――資本主義の現状をどう見ていますか。


「大きな危機にあることは確かだ。1989年のベルリンの壁崩壊や91年のソ連崩壊で社会主義は全面的にではないものの没落し、資本主義一本やりになった。そこで米英型の自由放任で株主主権的な資本主義と、様々な形の規制をもちステークホルダーの利害を調整する日独型といった選択肢があった」


「当時日本はバブル崩壊に直面し、ドイツも病人と呼ばれるほどの経済状況だった。90年代は米国が未曽有の経済成長を遂げ、欧州では英国が一人勝ち状態だった。その勢いで世界は米英型資本主義に収れんするという考え方が学界やビジネス界、政界を支配した。結果、世界は金融の不安定化や所得格差の拡大、環境破壊という問題を抱えるようになった」


――米英型の資本主義だとなぜ問題が生まれるのですか。


「問題の根源は理論を間違えていることだ。資本主義は貨幣を基礎としている。モノを売ってお金を得るのは、貨幣側から考えるとモノを人に渡してお金を買っている。お金自体は紙切れや金属のかけら、電子情報などで何の役にも立たない。貨幣は純粋な投機であり、投機はバブルの生成と崩壊を起こしうる。完全に自由放任にすると必然的に不安定になる。制御する公共機関や規制がなければうまくいかない」


「所得格差は特に米英で広がっている。最大の要因は経営者が高額報酬を得ていることだ。株主利益を最大化するために、経営者も株主にすればよいということになった。経営者は会社に忠実義務を負うはずなのに、自己利益を追求する機会を与えてしまった。米国で株主至上主義に歯止めがかかり始めたのはいい傾向だが、まだ不十分だ。資本主義には倫理と公共性が必要であると確認しなければならない」


「民主主義も危機に直面している」

――民主主義も揺らいでいると言われます。


「資本主義は1人1票の民主主義に常にチェックされる。社会が硬直しないように自由の余地を残し、資本主義と民主主義がバランスすると、自由民主主義がうまくいく」


「大統領制の米国の民主主義はポピュリズムに陥る傾向がある。米国には政治資金の問題もある。法人にも献金を許すシステムを作り、本来1人1票であるべき政治に資本主義の論理を持ち込んだことが米国の民主主義を大いにゆがめた」


「中国は社会主義的要素が残ったまま資本主義をうまく取り込んだ。米国で資本主義と民主主義がともに崩れ始める一方、中国の国家資本主義は急成長している。発展途上国は中国型の民主主義をモデルにし始めている。こうした動きは資本主義の問題よりさらに大きな危機だ」


■記者はこう見る「常に可能性探る」

 岡村麻由氏
 記者(24)が生まれたのは1995年。既にバブルは崩壊し、ベルリンの壁やソ連もなかった。日本の「失われた20年」と呼ばれる時代に育ち、米国の圧倒的な経済力のもと「自由放任で株主主権的な資本主義」が台頭することに違和感は抱かなかったように思う。
08年のリーマン・ショックは金融資本主義の暴走、行き過ぎた自由放任の結果といわれる。危機は世界に波及し、父が銀行員だった記者の家庭もあおりを受けた。振り返れば資本主義のひずみを初めて肌で感じた時期だったかもしれない。
 近年、トランプ米政権の誕生や英国の欧州連合(EU)離脱など大方の予想に反する事態が起こるようになった。現状に「ノー」を突きつける大きなうねりを感じている。新しい選択が打開策なのか、現状を否定しているだけなのかは注視する必要がある。
 インタビューの終盤、岩井克人氏に「私たちが資本主義の多様性を取り戻せる可能性はあるのか」と問いかけると「取り戻さなくちゃならないと思っている」という答えが返ってきた。一記者として、常に様々な可能性を探れるように多様な視点を伝え続けたい。

 

 

 

 

COP25の閣僚級会合で演説する小泉環境相(11日、マドリード)=共同 15日閉幕した第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)に出席した小泉進次郎環境相は、国内外で石炭火力発電の新増設を進める日本への批判の矢面に立った。石炭火力輸出の公的支援の制限を表明できないかと考えたが、省庁の縦割り行政や国内のエネルギー事情から話をまとめられなかった。政府を代表した小泉氏は環境問題で思い通りに動けずにいる。 ■「石炭祭りのようだった」 「石炭の海外輸出について何かアクションを起こせるのではないか。前向きな話ができればよかったが、調整できなかった」。小泉氏はCOP開催中の11日、海外メディアとの記者会見で悔しさをにじませた。 COP25では石炭火力がやり玉に挙がった。国連のグテレス事務総長は石炭火力の建設を「石炭中毒」と批判。石炭火力発電をやめない日本に会場内外で非政府組織(NGO)などが抗議した。閉幕後、小泉氏は「石炭祭りのようだった」と振り返った。 批判は開催前から分かっていた。小泉氏は11日の演説で「厳しい批判は承知している」と向き合う姿勢をみせたが、新しい政策を表明することはできなかった。 COP25に向けて、小泉氏は海外への石炭火力発電政府開発援助(ODA)などの公的支援を制限する意向を表明できないかと模索していた。国際NGOの調査によると、インドネシアやアフリカなどの石炭関連事業に対し、約5700億円支援している。 政府が掲げるインフラ輸出の中で石炭火力は柱の一つだ。閣議決定された国の戦略として日本企業の現地事業を援助しており、中止すればそうした企業にも影響が出る。実現すれば大きな方向転換になるはずだった。 開催直前まで環境省は経済産業省と協議を重ねた。「首相の国会答弁でも輸出すると話している」「新興国や途上国などに需要がある」。経産省は反対し取り合わなかった。石炭輸出案件を持つ企業を抱える経団連も反対に回った。梶山弘志経産相は3日の記者会見で「石炭、化石燃料の発電所の選択肢は残す」とくぎを刺した。結局調整できずCOPを迎えた。 ■権限は経産省に 小泉氏の思いがかなわないのは、そもそも輸出制限の方針変更は環境省の権限ではできないからだ。石炭火力の許認可権限は経産省が持つ。インフラ輸出戦略も外務省などが中心だ。小泉氏は気候変動対策を対外的に代表する立場だが、国内では縦割り行政で身動きがとれないのが現状だ。 環境省と経産省のこうした関係はいつものことだ。環境省は11年の東京電力福島第1原発事故以降、排出削減の観点から石炭火力の新増設が増え続けることに異議を唱えてきた。石炭火力への環境アセスでも懸念を伝え続けたが、電力会社などを所管する経産省の牙城を崩せず、エネルギー政策で存在感を示せない。 政府は30年時点の電源構成で、石炭火力を原子力、再生可能エネルギーと同程度の2割としている。だが原発事故後、国内のほとんどの原発が停止。地元同意が得にくく再稼働は進まない。 国内の需給を石炭に頼らなければならない事情もある。原発の安全対策費の高騰にも苦しむ電力各社は、その代替として安価な石炭火力発電の新増設をしてきた。小泉氏も「石炭ゼロは現時点では難しい」と認める。 先進国で石炭火力をやめる動きは相次ぐ。欧州ではフランスが21年まで、英国が25年まで、ドイツも38年までの全廃を掲げる。カナダも30年までに原則閉鎖する方針だ。 世界の環境政策に詳しい東京大学の高村ゆかり教授は「日本は先進国だが、石炭火力の新増設や輸出計画があるのは他国から見て異様に思われている」と指摘する。 地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」は20年から運用が始まる。産業革命前からの気温上昇を2度よりも低くする目標を掲げるが、現状では各国の削減目標を足し合わせても気温は3度以上上昇する。 削減の機運が高まる中、脱炭素で日本が世界にどのように貢献するのか。日本のエネルギー政策が問われている。 (塙和也氏、安倍大資氏、竹内宏介氏)

写真のコンクールで発表をする中学生を見守る佐藤陽さん(11月、宮城県南三陸町の志津川中) 「絶望に陥れた海が8年の時を経てきれいに輝いている」「負けずに復興している姿を発信したい」。東日本大震災で800人以上が死亡・行方不明になった宮城県南三陸町。2019年末、町立志津川中で開かれた写真コンクールで、生徒12人は町の「今」を切りとった一枚に込めた思いを次々に語っていた。 運営を切り盛りするのが南三陸町で人材育成を手掛ける一般社団法人「クリエイタス」代表理事、佐藤陽(あきら)さん(29)。復興途上にある町の子供たちに愛郷心を育んでもらう試みだ。「毎年、子どもの目線で町の変化が見えるのが楽しい」。生徒たちを優しい表情で見守った。 仙台市で暮らす佐藤さんの故郷、兵庫県西宮市も約25年前、激震に見舞われ、弟(当時1)を亡くした。食器棚の下敷きになったと聞いたのは小学校入学後だ。 当時4歳の佐藤さんは両親、小1だった兄とともに一時、広島県尾道市の母の実家に身を寄せる。佐藤さんは転園した幼稚園で友達をつくれなかった。「つらかった」。約2年後に西宮市に戻り、小中高と過ごす。街の再建のスピードは速く、「物心ついたころには爪痕はなく復興していた」。日常的に震災を意識することはなかったのが正直なところだ。 そんな佐藤さんにとって東北の震災が転機となる。街頭で義援金を募り、宮城県石巻市で泥かきなどに汗を流した。復興には長期的な支援が必要になると見定め、13年4月に人材関連の大手企業の門をたたいた。教育事業を担う部門に配属。だが、「自分は誰のために働いているのか」との疑念が募った。 15年夏のある日の未明、東京の自宅から軽自動車を北に走らせた。「聞いたことのあった」南三陸町に着いた。町は西宮市から職員派遣を受け、被災者は口々にお礼を述べた。大変な思いをしたのに感謝の言葉を忘れない被災者の姿勢に感動し、「肩の力を抜き、被災地のために頑張ろう」と思い直した。 16年9月に退社。南三陸町の将来を担う人材を育てるべく、学習支援やキャリア教育を担う公営塾の立ち上げを提案し続け、17年6月、開校にこぎ着けた。 無償の塾は県立志津川高校で1カ月に20日、午後4〜9時に教科の補習を行い、生徒の進路相談に応じる。佐藤さんは運営を支える側に回り、塾を紹介するチラシを毎月、町内の全戸に届けている。中学校の職場体験学習では培った人脈を生かしながら、漁師ら受け入れ先を探す。教員と一緒に授業計画も練る。 活動を続ける中で、震災で大切な人を失った町民の悲しみに触れる機会がある。進路相談を受けた高校生から家族を亡くした悲痛な思いを打ち明けられたこともある。「阪神大震災で息子を亡くした両親の気持ちはどうだったのか」と思いを巡らすようになった。 多くの被災地同様、南三陸町も人口減少に拍車が掛かった。震災前の1万7666人から直近では5千人近く減った。道路や住宅などの再建が進む一方、人が離れては町の復興はままならない。クリエイタスが17年に志津川高の生徒約200人を対象にしたアンケート調査では、81.8%が「南三陸町が好き」と答える一方で、自分が「復興の力にはなれない」との回答も67.2%に上った。 「地元には仕事がない」として町を去る若者が多い中、「『ないならつくる』との起業家精神を養ってもらう」のが佐藤さんの目標だ。学校長や保護者代表、地元業者らと立ち上げた協議会で具体策づくりに向けた議論を重ねている。 東日本大震災とその後の活動は内なる阪神大震災を問い直すきっかけになった。当時のつらく悲しい「原体験」は今、むしろ「気持ちのエンジン」となり、佐藤さんを突き動かしている。(文 黒瀧啓介氏、写真 目良友樹氏) ■配慮必要な小中学生 ピーク時は4106人 阪神大震災で亡くなった幼稚園児〜大学・短大生は400人以上に上り、県内の教職員40人も犠牲となった。 震災は子供の心理面にも影響を及ぼした。兵庫県教育委員会の調査では、教育的配慮を必要とする小中学生はピークの1998年度に4106人。被災当初に目立つ要因は「震災の恐怖によるストレス」「住宅環境の変化」。5年後を境に「家族・友人関係の変化」「経済環境の変化」の占める割合が高まった。学校側は「復興担」と呼ばれた加配教員を中心に子供の心のケアに当たった。 校舎が無事だった学校には地震直後、多数の被災者がなだれ込んだ。避難所となったのはピーク時に1153カ所。31万6678人が身を寄せ、一部では廊下まで人があふれた。遺体安置や救護所としても使われた。教職員は避難所運営の担い手に。負傷者は保健室で受け入れたが、当初は医療機関への電話もつながらず、混乱が広がった。

京都先端科学大学工学部の田畑修新学部長 京都先端科学大学は2020年4月に工学部を新設する。田畑修新学部長に人材をどう育てるかを聞いた。 ――日本電産会長でもある永守重信理事長の下、京都先端科学大学に改称して1年。2020年4月には工学部を新設します。 「他の大学にはない特徴を持った工学部にしたい」 ――卒業研究に代わり、企業から課題を提示してもらい、解決策を考える「キャップストーン」と呼ぶプログラムを導入する。 「日本の大学は卒業研究に時間を使い過ぎている。4年生になると研究室にこもって研究に取り組むが、そのために3年生までに必要な単位を取らなければならない。卒業研究のテーマも1つではなく、3つぐらいを順々に提供した方が学生は伸びるのではないか。そうした議論から、企業の課題をチームで解決するプログラムに行き着いた」 ――3年生は入門編、4年生は本番と2つの課題に取り組む狙いは。 「3年生は将来の進路を考える大事な時期だ。そういう時に企業の課題を深掘りし、『働くというのはこういうことか』と実感するのは貴重な体験となる。3年生はまだ専門知識が少なく、能力の限界を知ることになる。社会に出るには非力な自分を知り、目標に向かって専門科目を勉強するモチベーションも高まる」 ――4年生の課題は難易度が増します。 「企業における課題というのは必ずしも正解があるわけではない。自分たちで本当の問題を見つけ、解決に向けた方針をたてる。こうした経験を通じて専門知識はもちろん、プランニング能力やコミュニケーション能力などが総合的に養われる。企業でも高い評価が得られるはずだ」 ――専門教育は英語で行う。そのために英語教育も集中する。 「1年生の前期は90分の授業が週10コマある。工学部の英語は必ずしもTOEICの点数を上げるためのものではなく、英語の授業を理解し、発言し、議論するためのもの。英語教育で連携するベルリッツにテキストを選び直し、教え方を工夫してもらう予定だ。例えば、工学の世界では数字が飛び交うが、直感的に理解するには集中してトレーニングするのがいい」 (聞き手は松田拓也氏)
京都先端科学大の工学部、設置審が認可 文部科学省の大学設置・学校法人審議会は15日、京都先端科学大学の工学部新設を認める答申を出した。モーター技術者を中心とした人材育成をする計画で、認可を受けて2020年4月に開設する。設置審は同大大学院工学研究科の設置も認めた。 同大学の前身は京都学園大学で、18年3月、日本電産の永守重信会長が運営法人の理事長に就任。19年4月に京都先端科学大に名称を変更し、改革の目玉として工学部の新設を目指していた。答申を受けて同大は「工学部をハブとして世界が求める多くの分野の幅広い課題に対応する」としている。

総務省は25日、有識者会議を開き、携帯電話で動画など特定のアプリの通信を使い放題にする「ゼロレーティング」サービスに関する指針案をまとめた。対象コンテンツの選択基準を明確にすることや、月の通信量の上限を超過し通信速度が制限される際はゼロレーティングサービスも含めて一律に実施することが望ましいとし、大手通信事業者に対応を求めた。


総務省は同プランの契約者以外の利用者の通信品質に悪影響が出ないなど公平にするようにし、サービス対象になる巨大IT(情報技術)事業者のコンテンツを優遇することがないようにすることを狙いとしている。


「ゼロレーティング」サービスは対象となるアプリを使っても通信量が毎月の通信容量から差し引かれず、実質的に使い放題となるサービスだ。


KDDIやソフトバンク、格安スマホ大手のビッグローブなどのサービスでは、月の上限データ量を超えて速度制限がかかっても、ゼロレーティング対象のコンテンツは対象外となり、利用には速度制限がかからない点が人気だ。


指針ではここに事実上、規制をかける。

総務省は例外をなくし一律で速度制限をかけることが望ましいとした。携帯会社が限られたコンテンツを優遇し、他の多様なコンテンツを失う恐れが指摘されている。

「利用者のニーズに応じてゼロレーティングサービスを提供してきたが、指針案に従って見直さざるを得ない」。ビッグローブの黒川英貴エグゼクティブエキスパートは悔しさをにじませる。同社は2016年11月から動画サービス「ユーチューブ」など10種類以上の通信量を課金しないオプションを提供してきた。

ゼロレーティングサービスは「新規加入の2〜3割がプランに加入」(ビッグローブ)と消費者の人気も高い。見直しによって消費者の利便性が損なわれる恐れがある。その一方で、公平性の観点では様々な課題が指摘されていた。

ひとつはゼロレーティングによるネットワーク利用者間の公平性の問題だ。ゼロレーティング利用者が通信網を過剰に消費して混雑を招き、非利用者に影響を与えかねない懸念があった。

もうひとつはコンテンツ事業者間の公平性だ。「ゼロレーティングサービスで特定のコンテンツを優遇すれば人気コンテンツばかりが強くなり、ネットの多様性がなくなる」(森亮二弁護士)という指摘もあった。

ユーチューブのような人気コンテンツに利用者が集中し、中小のコンテンツ事業者が育たなくなるという懸念だ。

ゼロレーティングサービスは短期的には競争を活性化する有効な手段だ。消費者人気も高い。総務省も「直ちに事業法上問題とはならない」と注記し、過度な規制を避けた。だがビッグローブのように見直し必至と受け止める事業者もおり、規制のバランスが求められる。

▼ゼロレーティングとは 特定アプリでデータ課金せず
 動画配信やSNS(交流サイト)といった特定のアプリで、利用者が使うデータ通信量に課金しないサービスを指す。動画共有サイト「ユーチューブ」や音楽配信「スポティファイ」のように使用するデータ量が大きいネットサービスが主な対象だ。国内では「カウントフリー」とも呼ばれる。
 国内ではソフトバンクなどの携帯通信大手のほか、格安スマートフォン事業を展開する仮想移動体通信事業者(MVNO)が提供する。料金プランに組み込んだり、オプション機能として提供したりすることが多い。消費者にとっては、使用するデータ通信量を気にせずに動画など好きなコンテンツを楽しめる利点がある。
 ただ、大手IT(情報技術)企業などの人気サービスを対象にすることが多く、中小サービスが育たなくなる懸念がある。米国では2015年に、米連邦通信委員会(FCC)が基準に基づいて個別に判断するとしていた。だが17年の米トランプ政権の発足後にルールの大部分の廃止が決定。欧州では一律に禁止せず、各国の規制当局が個別に判断する基準を設けている。




クラウド最大手、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に、今後すべてのアプリケーション(ソフト)に人工知能(AI)が内蔵されるとの見方を示した。2010年代にIT(情報技術)業界をけん引したのはスマートフォンなどのモバイル機器と、それを支えるクラウドコンピューティング。創業時から同社を率いるジャシー氏に今後10年の見通しを聞いた。

――AWSは年間売上高4兆円規模に育ちながら年率35%で成長しています。創業時にこうした状況を予想しましたか。

「当社の母体である米アマゾン・ドット・コムは信頼性や拡張性、そしてコスト競争力の高いIT基盤を必要としており、他社にも同じ課題があると考えた。事業の先行きには楽観的だったが、成長は想像を上回った。クラウドの活用により企業は固定費を変動費化できた。規模の経済が働き価格も安い。事業のスピードや柔軟性を高められることも評価を受けた」

――今後も高い成長率を持続できますか。

「将来の成長率は予測できないが、成長余地は大きい。世界のIT投資に占めるクラウドの比率はまだ3%にすぎず、大企業や公共部門はクラウドへの移行の初期段階にある。他国は米国より1〜3年遅れているのもこう考える理由だ。今後10〜15年で、データセンターを自社保有する企業は少なくなり、保有企業も用途を限定するはずだ」

――20年代はどのような技術に注目しますか。

「事実上すべてのソフトが何らかの形でAIや機械学習の機能を内蔵するだろう。(利用者の近くでデータを処理する)エッジコンピューティングも実用化される。家庭やオフィス、工場、自動車などあらゆる場所にネットワークにつながる何十億ものモノが置かれ、データを収集・分析して活用できるようになる」

巨大テクノロジー企業の解体論を巡っては「分割の必要性はない」と言及
巨大テクノロジー企業の解体論を巡っては「分割の必要性はない」と言及
「ロボット技術の普及が進み、人手が必要だった業務を代行するようになる。例えばエネルギー企業ではパイプの劣化を人が検査しているが、機械学習で認識技術を高めた自動操縦のドローン(無人飛行機)が代替する。量子コンピューターも数年以内に広範な利用が始まる。10年前に現在の状況は想像できなかったが、今後10年の変化はさらに大きくなる」

――クラウドの分野を見ても、中国のアリババ集団などが追い上げ、米国防総省の案件では米マイクロソフトに競り負けました。

「アリババを含む他社の事業拡大が国家安全保障に影響するとは思わない。ただ、アリババについていうと、一部の顧客が中国での利用を検討している事例があるが、欧米では現在、大きな存在感はない。マイクロソフトに関しては、顧客に話を聞くと『当社の方が技術で2年先行している』と話している」

――米司法省などが巨大テクノロジー企業への監視を強め、解体論も浮上します。今後も技術革新を主導できますか。

「政府の決定には従うが、そもそも企業ごとに状況は異なる。アマゾンの小売事業は世界の小売市場の1%にすぎない。クラウドもIT投資の3%で、当社はさらにその一部を占めるだけだ。分割の必要性は見あたらない。顧客中心主義という企業文化を見失わければ、顧客が必要とするものを提供し続けられるはずだ」

(聞き手はシリコンバレー=奥平和行)

2019年の株式相場は米中摩擦に振り回されたが、日本企業の将来の競争力に関して、経済界首脳が重要な問題提起をしたことも忘れられない。経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車の豊田章男社長が終身雇用制の限界に言及したことだ。企業の中高年社員は肩身が狭かったことだろう。しかし、経済統計をみると、企業は中高年への報酬を増やし、40歳前後の中堅社員の報酬はむしろ減っている。「中高年はお荷物」という定説は実態とは異なるのではないか。



60歳の定年が近づいた中高年社員や雇用延長で働き続ける60歳代の社員は一般に「経済的な価値は失ったのに、既得権にしがみつき、業務運営の妨げにはなっても、およそ組織に貢献していない」といった目で見られがちだ。55歳前後で役職定年を迎える人も多い。給与水準もピークをすぎ、さらに60歳になれば、同じ仕事でも大幅な給与ダウンが普通だろう。

「中高年お荷物説」に拍車を掛けたのが、経済界重鎮の発言だ。経団連の中西会長は5月7日の定例記者会見で「働き手の就労期間の延長が見込まれるなかで、終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている」と述べた。トヨタの豊田社長は5月13日の日本自動車工業会の会長会見で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べた。

余裕のある大企業ですら、こんな具合だから、一般には終身雇用制と表裏一体の年功序列型の賃金カーブはどんどん平たん化し、長く勤めても給与は増えなくなったと考えられている。実際、国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、1年以上勤務した55〜59歳の男性社員の平均年間給与は1995年には35〜39歳の男性社員の21%増しだったが、07年には14%増しまで、「上乗せ幅」が縮小した。

ところが、この傾向は07年を境に反転し、今や50歳代後半は30歳代後半に比べて格段に報われるようになっている(以下の記述は男性のみ)。18年には50歳代後半の平均給与は685万7000円と、30歳代後半の527万6000円の30%増しになった。延長戦に入った60歳代前半の平均給与は、減ったとしても537万円に達し、おそらく初めて30歳代後半を上回った。

企業は役所と異なり、実績が上がらない社員に多額の給与を支払っていたら、倒産してしまう。短期的なミスマッチはあろうが、中長期的には制度を変えたり、配置転換をしたりして賃金を市場価値に近づけるはずだ。定説に反して07年以降、中高年社員がより報われるようになったのは、一人ひとりの格差はあるとしても、全体として業績への貢献度が高いためだろう。

というと「年齢を重ねるに従い、不要な社員は整理されるから、残った優秀な中高年にだけ、報いているのではないか」との反論が出るかもしれない。確かに当該年齢層の人口(各年10月1日現在)に占める1年以上勤務者の割合は18年の場合、30歳代後半の84.3%から50歳代後半には78.8%に、60歳代前半には63.2%になっている。

しかし、07年には50歳代後半の1年以上勤務者の割合は70.9%だった。60歳代前半は44.2%だった。企業の戦力として雇われ続ける中高年は確実に増えている。18年の平均給与の絶対水準も30歳代後半が07年比5.8%減、40歳代前半が8.5%減、40歳代後半が4.0%減と低下するなかで、50歳代後半は7.5%増、60歳代前半は6.3%増と伸びている。中高年は多く雇われ、多く報われており、「お荷物」というのは無理がある。

多少分析を加えれば、40歳前後は就職氷河期に当たり、非正規社員の割合が高いので給与水準が下がっているのではないかとの推計もできる。総務省の労働力調査によると、35〜44歳の男性の職員・従業員に占める非正規の割合は07年の7.6%から18年の9.3%に1.7ポイント上昇した。45〜54歳は8.0%から8.6%へ0.6ポイントの上昇にすぎない。40歳前後の平均給与の減少は、不遇の世代だった一面を映している可能性がある。


中高年社員が企業業績の足を引っ張っている証拠もない。東証1部上場の2121社を社員の平均年齢が若い順に212社ずつ10グループに分けると、最も若いグループ(平均年齢32.5歳)の株価は平均で年初来25.7%高、過去5年間で129.9%高と最も好成績だった。2番目に若いグループ(同36.4歳)も年初来で23.5%高、過去5年間で97.7%高と好調ぶりを示した。社員が若い分、社歴も若く、ダイナミックな経営をしているのだろう。

しかし、若い方から3番目のグループ(同38.3歳)以降は株価で判断する限り、特筆すべきものはない。若い方から6番目のグループ(同41.3歳)は年初来で14.2%高にとどまった。その後、8番目のグループ(同43歳)は年初来で22.2%高、過去5年間で52.9%高とまずまずの成果を収めた。9〜10番目のグループも株価の年初来上昇率は3〜7番目のグループを上回る。中高年社員がはつらつと仕事をしている様子がほの見える。


経済界重鎮の発言は中高年社員よりも中堅社員に向けたものかもしれない。1つの例が、最近目立つ希望退職者の募集で、対象を「40歳から」にする企業が少なくないことだ。手元の集計では19年に入って希望退職者を募集した48社のうち、年齢で対象者を区切った34社をみると、うち8社が下限を40歳にしていた。ジャパンディスプレイ、サンデンホールディングス、オンキヨー、ファミリーマート、オンワードホールディングス、レナウン(10月に募集中止)、アサヒ衛陶、アマガサである。「35歳から」もルネサスエレクトロニクスとメガチップスの2社を数えた。

東京大学大学院の柳川範之教授が40歳定年制の導入を提唱してから10年ほどがたつが、辞めるにしても辞めないにしても、40歳前後は将来を見据えて人生をリセットするタイミングなのかもしれない。国税庁の統計が間違っているのではないかとの指摘もあろうが、厚生労働省の賃金構造基本統計調査の年齢階級別所定内給与の推移とも整合的だ。

中高年社員は自信を持っていい。クリスマスをともに祝う子どもは育ってしまったかもしれないが、自分へのご褒美でエネルギーをチャージするときだ。

出生数の急減で、死亡数が出生数を上回る「自然減」が51万2千人に達した。戦後初めて50万人の大台を超え、鳥取県(約55万5千人)の人口に匹敵する規模となった。要因としては出産適齢期の女性人口の減少に加え、20歳代での結婚や出産が減っている点が挙げられる。少子化克服には政府の対策だけでなく、新卒偏重の是正や働き方改革をさらに進めていく必要がある。

「仕事の責任が重く、出産しても時短を選ぶことが難しい」。都内のIT(情報技術)企業に勤める女性(27歳)は打ち明ける。女性は仕事が終わると、経営学修士(MBA)の取得に向け、足早に大学院に向かう。社内では性別に関係なく同じ成果が求められる。「出産後もいまのポジションが確保されるという確証がないと子どもを産めない」と話す。

出産の先行指標ともいえる婚姻件数は2018年が58万6481件で前年比3.4%減だ。19年の出生数(5.9%減)ほどには減っていない。総務省の労働力調査によると、25〜34歳の女性の就業率は80%を超えた。若い世帯ほど男女共働きが多い。

世界を見渡せば、女性の就業率が上昇すると少子化になるというわけではない。スウェーデンなどでは女性の就業率が高く、出生率も17年で1.78と高い。男女とも長時間労働が少ないなど働き方の違いが大きな背景とみられる。


日本国内でも一部の企業が長時間労働の見直しに取り組む。IT大手のSCSKは13年度から、月間平均残業時間20時間未満と有休取得率100%を目標に掲げてきた。18年度は月間平均残業17時間41分、有休取得率94.4%と働きやすい環境が整ってきた。

働き方改革を進めた結果、第2子以降を出産する女性社員が増えた。11年度は子どもを産んだ女性社員67人中、第2子以降の出産が18人だったが、17年度は83人中43人にのぼるという。

出生率が高いフランス(17年で1.90)などと比べると、日本は20歳代の出生率が特に低くなっており、少子化につながっている。

多くの人が高校や大学などを卒業してすぐに就職して、そのまま働き続ける慣行も少子化につながっている。就職から一定期間を経てから結婚や出産するのが一般的で、平均初婚年齢は男性が31歳、女性は29歳(18年時点)で、20年前に比べそれぞれ3歳程度上がっている。第1子出産の母親の平均年齢は30.7歳だ。

出産年齢が上がると、子どもを授かりにくくなる。「20歳代の頃は子どものことなんてとても考えられなかった。今思えば、もっと早くから話し合っておけばよかった」。さいたま市に住む34歳の女性会社員は振り返る。32歳の頃に夫と不妊治療を始め、今年8月に待望の第1子を出産した。

厚生労働省の調査では夫の育児する時間が長いほど第2子以降が生まれる割合が高くなる。6%と低い男性の育休取得率を向上する施策が官民とも求められそうだ。

03年に少子化社会対策基本法が成立し、政府は仕事と子育ての両立や待機児童対策、保育料無償化や働き方改革、男性の育児参加などを推進してきた。19年10月からは幼児教育や保育の無償化も始めた。子育て世帯への支援は強化されてきたが、政府の少子化対策は出生後が中心だ。

合計特殊出生率は05年の1.26を底に一度は持ち直したものの、15年の1.45の後は減少が続き、18年は1.42だった。結婚して子どもを産みたいと考える人の希望がかなった場合の出生率である1.8とは大きな開きがある。

海外では高校卒業後、すぐに大学に進まない人も少なくない。その間に結婚や出産、育児を選択する例も多い。働き方や教育システムなど社会保障政策にとどまらない見直しが官民ともに求められている。


左からEYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの小野裕輝、経団連の長谷川知子の両氏

グローバル化や技術革新をリードできる人材を、社会が一体となって育てる。その意識は大学、企業ともに共通である。現在の新卒採用の現状から、企業と大学の協業の可能性を識者に聞く。

採用難により、企業は採用の多様化を進める

今、多くの企業は採用難を実感しているのではないか。EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの小野裕輝氏は、企業から採用に関する悩みをしばしば聞かされている。「顧客企業から、『いい人が採れない』『優秀な人から辞める』と、よく相談を受けます。採用難を起こす要因は、採用時に学生と企業の間にミスマッチがあることに尽きます。新卒一括採用という手法に限界を感じている企業も多いでしょう」

優秀な人材を採用しづらくなったことで、企業は今、採用の多様化に踏み切っている。通年採用を導入して既卒者やグローバル人材も受け入れやすくする、社員などの紹介・推薦による「リファラル採用」で、社風に合った人材の確保を目指すなどの取り組みは、今後さらに増えていきそうだ。

また、日本企業が行ってきた『ポテンシャル採用』は、未経験者を受け入れて戦力化することで、若年層の就業率アップに貢献してきた。しかし、現在はそれと並行してジョブ型採用を行う企業も増えている。専門人材へのニーズの高まりや、個人の志向や働き方の多様化に合わせることは、人手不足を実感する企業にとっては喫緊の課題となっているようだ。

「新卒一括採用という手法には、採用効率の良さというメリットがあります。ただし、海外の経験を積んだ優秀な学生など、多様な人材を採りづらい短所もあります。今後、企業は自社の戦略に合わせ、複数の採用手法を柔軟に組み合わせる時代になるのではないでしょうか」(小野氏)

企業と学生の間には「意識の差」が存在

このように企業側は人材難を乗り切るため、採用の多様化に舵を切っている。一方の学生の状況を見てみよう。小野氏は、学生生活の内容自体において学生と企業の期待値に差があることを指摘する。EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングが19年7月に発表した『「採用選考に関する指針」(就活ルール)変更に際した調査と将来の採用トレンドに関する考察』によれば、学生の約4割は大学生活でアルバイトに力を入れたと答えた。これに対し、アルバイト経験を重視する企業は2割強に過ぎない(図1参照)。


「また、企業がビジネススキルの習得に力を入れた学生を評価する傾向も出てきました。これは、多くの企業が即戦力を求めていることの表れだと思います。ところが、この領域に力を入れた学生は決して多くありません。また、社会貢献活動や海外留学の項目でもギャップは大きい」(小野氏)。学生たちは企業が求める学生像を理解できずに学生生活を送っているとも言える。

学生時代の積極的な活動が入社後のキャリアに影響

採用後にも課題はある。小野氏は若手の「やりたいこと」を重視すべきだと指摘する。「昔の若者は、『自分にできることを生かして働く』ことに疑問をもちませんでした。ところが、今の若者は違います。自らのスキルや経験を生かせる仕事でも、己のやりたいこととずれがあれば、辞めてしまいます。確かに企業は若手をリテンションするため、社員のスキル・経験と仕事がマッチするように務めているでしょう。しかしそれだけでは不十分。今は各自のやりたいことを可視化し、それを含めたマッチングを考えなければ社員は引き留められません」(小野氏)

ここでカギ握るのが、インターンシップなど卒業後の進路を考える手がかりとなる活動だ。インターンシップ、海外留学、ボランティア活動、専門分野の研究など、学生時代に積極的に知見を広げる活動をした人ほど、良い初期キャリアを獲得しているというデータもあり、その中でもインターンシップの影響は大きい(図2参照)。インターンシップは、就業観を育て、学生にとってより納得感の高い就職先を選ぶことにつながる。その結果、就業後は与えられた仕事に打ち込み、実力を向上させられるというわけだ。


「ジャカルタでは、大学1年生のころからインターンシップを行い、4年間かけてじっくり企業について学ぶケースがあります。そして、卒業と同時にリーダークラスとして入社し、すぐに活躍するのです。企業はインターンシップの取り組みをさらに強化する必要があります」(小野氏)

そうすれば、学生は「将来働くため、今、何を学ぶべきか」という目的意識が強まるだろう。そして、自らのキャリアを自力で築こうという態度が醸成され、働く側と企業とのミスマッチも激減するはずだ。

産学で模索する新時代の人材像とは

学生に「働くために何を学ぶか」というマインドセットをつくるには、国や産業界からメッセージを出すことが有効だと、小野氏は指摘する。

「例えばインドでは、国全体でIT人材の育成を目指しています。また、シンガポールでは『わが国のホワイトカラーはシンガポール人が担う』と宣言しています。こうした方針が明確にされると、学生は『私が歩むべきキャリアとは何か』『そのためには何を学べばいいか』という意識が高まるでしょう」(小野氏)

そこで今、注目されているのが、日本経済団体連合会(以下「経団連」)が発信するメッセージである。経団連は2018年11月、提言「Society5・0― ともに創造する未来―」を公表。この提言で中心的な概念として提示されている狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5段階目の社会である「Society5・0」。具体的には、デジタル革新と多様な人々の想像・創造力が融合した「創造社会」を指す。

経済のグローバル化とデジタル革新が急速に進み、社会が新たな段階に突入しようとしている今、企業が求める人材像はどのように変わるのだろうか。経団連の長谷川知子氏が挙げたのは、「課題発見・解決力」だ(図3参照)。


「私たちが暮らすこの世界には、大小さまざまな課題が存在しています。それらの解決法を編み出すことは、企業にとってビジネスチャンスでもあるのです。来たる時代の企業では、定型業務を正確にこなすような人より、AIやIoT、ビッグデータなどを使って社会的な課題を見いだし、うまく解決する能力の持ち主が求められていくでしょう。

こうした動きは日本だけに限ったことではありません。世界中の経済・環境問題などを発見・解決できれば、国連が掲げる『SDGs(持続可能な開発目標)』の実現も適います」(長谷川氏)

経団連の中西宏明会長は18年10月の定例記者会見で、21年春入社以降の学生について採用・選考指針を策定しないと発表した。ニュースでは採用日程の早期化などが話題になったが、経団連が強調したいのはそこではないという。「今後必要な人材を育てるため、大学は何を教えるのか。同時に、大学が育てた学生を企業はどう評価し、彼らにどんなキャリアパスを用意するのか。それらについて、大学と産業界が直接話し合うことが重要です。また、今後の日本では企業から命じられたキャリアを歩むのではなく、一人ひとりが己のキャリアを管理し、自らスキルアップを目指す必要があるでしょう。その際、大学は学生に対し、どのようなキャリア教育を行うか。そして、企業は社員をどう支援するのか打ち出すことも必要になるはずです」(長谷川氏)

経団連と大学は19年1月、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」を設立。経団連と大学側が継続的に対話し、採用と大学教育などに関して議論を深めるための組織だ。19年4月には時代に求められる人材と大学教育、インターンシップのあり方などについて言及した「中間とりまとめと共同提言」を発表。未来社会に向けて一斉に舵を切り、日本全体を盛り上げるためには、企業と大学が手を取り合って人材育成に向けた方策を模索する必要があるというのが、経団連の問題意識なのである。

大学と産業界とのさらなる連携がカギ

こうしたなか、次世代人材育成のため大学には何が求められるだろうか。小野氏が挙げるのは次の2つだ。

「1つめは、学生に対して『できること』の選択肢を増やすことです。学業を大事にしてもらうのは当然ですが、スキル習得などにも目を向けさせたい。企業は競争力を維持するため、今後も即戦力の人材を求め続けるでしょう。そうした現実に対し、語学力やビジネススキルなどを高めるよう、学生に意識づけてほしいのです。

もう1つは、学生が本当にやりたいことをみつける手伝いをすること。インターンシップや留学などの機会を増やし、職業観や生きる目的などについて考えさせる取り組みを増やすことです」

大学は学生が学修経験の中で、社会に出て活躍できる力をつけるための支援が重要。高い目標を超えるために必死に考え行動する経験こそ、社会で対峙する答えのない問いに向き合い、解を導いていく力になると言えるだろう。

小野裕輝氏
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
外資系コンサルティング会社を経て現職。一貫して組織・人事コンサルティングに従事。2014〜2018年にはシンガポールに出向し、アジア全域の日系企業を支援。
長谷川知子氏
一般社団法人日本経済団体連合会SDGs本部長
企業・社会本部(企業倫理、CSR担当)、国際経済本部(北米、豪州・オセアニア、CSR担当)等を経て、2017年4月より現職。
Text:白谷輝英 Illustration:NOBUE MIYAZAKI & TOMOE MIYAZAKI(STOMACHACHE)


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